星野中学大根の消失、または彼はいかにして生牡蠣探偵と呼ばれるようになったか

「この中学の名物である大根が一本残らず掘り出され、どこかに持ち去られた事件、その真犯人は、演劇部員の根本大輔さん、あなたです!」 

 両川探偵は、関係者全員を集めると、高らかにそう宣言した。

「ナ、ナニヲイッテルンデスカ、探偵サン?!ボクニハアリバイガアルンデスヨ?!」

 名指しされた演劇部員、根本大輔は必死で反論を試みた。

「そ、そうだぞ、両川君!一発見者である、藤醍醐は『今朝来た時にはまだ大根はあったが、放課後に来てみると消えていた』と証言している。そして、これだけの数の大根を全部掘り出すには、5時間はかかる。だがその男、根本大輔のアリバイが確認できていないのは昼休みの30分だけだ。これでは犯行は不可能だよ!」

 だが、捜査の現場責任者である日暮警部にそう言われてなお、両川探偵は余裕の笑みを崩さなかった。

「確かに、30分では全大根を掘り出すのは不可能です。しかしですね、警部、犯人が大根を掘り出したのは、昨日の夜なんですよ。時間ならいくらでもある」

「昨日の夜?なーにを言っているんだね、両川君。だから、今朝の時点ではまだ大根は生えていたと、そう第一発見者の近藤醍醐が証言しているじゃないか」

「ちょいとお聞きしますがね、近藤さん、あなた、本当に今朝、大根が"生えている"のを確認したんですか?」

 近藤醍醐は気色ばんだ。

「わ、私が何故嘘を言ってるとでも言うのですか!間違いなく、今朝ちゃんと畑に大根が生えているのを確認しましたよ!」

「それは、土の中に埋まっている部分も?」

「は?何を言ってるんですか、土の中に埋まっている部分なんて、掘り出しでもしない限り見えないじゃありませんか」

「そうだぞ、両川君、君はいったい…は!まさか!」

「気づかれましたか、日暮警部。そう、犯行のあらましは、だいたい、こんなところです。まず、犯人は昨夜のうちに5時間かけて全ての大根を掘り出し、その首から上…大根が生えている状態でいえば、地表に出ている部分ですな…を切り落とした。そして、この切り落とした首から上の部分だけを、土の上に乗せていったのです。これなら、一見すると大根は生えているように見えますが、掘り出さなくても拾うだけで回収できる。30分で十分に可能です」

「ダッ、ダダダダダマレ!ソンナノハ全部デタラメダ!イッタイ何ノ証拠ガ…」

「証拠ならありますよ」

「何…だと?!」

「あなたには拾い集めた大根の首を校外に持ち出す時間は無かった。そしてそのバッグ、さっきからずっと肌身離さず持っていますよね?あれだけの数の大根がそんなバッグに入るわけはないから、これまで誰も注目していませんでしたが、隠さなくてはならないのが首から上の部分だけとなると話は別だ。…そのバッグの中身、見せてもらっても宜しいですか?」

 根本は泣き叫びながら崩れ落ちた。

「ちくしょう!ちくしょーっ!大根が、大根が全部悪いんだ!演劇部の公演はずっと盛況だったのに、俺が主演男優になった頃、ちょうど『星野中学は大根の中学』として有名になってしまって…それ以来、演劇部の公演もめっきり人がこなくなってしまった!きっと大根の中学だから演劇部員も大根役者だと勘違いされたんだ!せっかく校長である叔父に圧力をかけてもらってまで主演男優になったのに!事な公演が、こんな風に、無しになってしまうなんて、輪際あってはならないと思ったんだ!」

 両川探偵は溜め息を一つつくと、呆れたように首を振った。

「そんな理由で、胆にも、こんな事件を起こしたわけですか。根本大輔さん、あなた、どうして私が真っ先にあなたに注目したかわかりますか?30分程度の時間アリバイが無い人間なら、他にいくらでもいたのに。それはね、あなたの演技が大根だったからですよ」

「確かに、最初から証言が全部棒読みだったよね」

「目がずっとキョドってたし」

「どう見ても挙動不審だった」

 それまで黙って話を聞いていた関係者達から次々と発せられる言葉を耳にして呆然とする根本に、日暮警部がとどめの一言を放った。

「アレは単に下手な芝居をうっていたのか。ワシはてっきり、怪しい薬物でもキメてるのかと思って、後で署に呼んでじっくり絞ろうと思っていたのだが」

 もはや言葉も無い根本を両川探偵は冷ややかに見下ろしながら言った。

「こんな、それたことをやった以上、後の身の振り方は考えないといけませんね。まあ、校長をやっている叔父さんにでも相談してみたら良いんじゃないですか?」
 
 事件解決後、ふと思い立ったように、日暮警部は両川探偵に問うた。

「そういえば両川君、ワシは昔から気になっていたのだが、なぜ下手な役者のことを大根役者と呼ぶんだね?」

「昔から気になってたんならググれカス」

「ああん?何か言ったかね?」

「いえ、何も…大根というのは消化が良いのでお腹を壊さない…つまり"当たらない"ので、何をやっても当たらない役者のことを大根役者と呼ぶようになったそうですよ」

「なーるほど。では、君の推理はよく当たるから、君はさしずめ"生牡蠣探偵"といったところだな。生牡蠣探偵、我ながら、これは良い。今後は君のことはそう呼ぶことにしよう」

「いや、それは生牡蠣の業者の方に失礼というか…何よりカッコ悪…」

「懇意にしているマスコミの奴らにもその呼び方で統一するように伝えておくよ。ではさらばだ!」

 こうして、彼は生牡蠣探偵と呼ばれるようになった。


※この小説は、海見みみみさんの「星野中学大根」↓を元にした二次創作です。

https://note.mu/umimimimimi/n/ne21f9030448e

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