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8月に読み終えた本

この後『かげきしょうじょ!!』について2回触れているので、現在放送中のアニメの話をする(?)。
アニメ版は原作に比べるとわりとスピード感重視で、けっこう端折ったり簡略化しているのだが、より重要なところに最速で触れていくという感じで納得感はある。とはいえ原作のあれもうちょい見たかったというところもあり、アニメ化はなかなか難しい。とはいえ星野薫回なんかは最高の出来で、相手役が畠中祐さんなのも良かった(主人公渡辺さらさ役は千本木彩花さんなのでニッコリしてしまう)。
キャストをしっかり歌うま声優で固めてきてるのが素晴らしく、よってED曲が本当に素晴らしい。最新回の沢田姉妹回も、双子を双子に演じさせるという最高の采配によってED曲も出色の出来で、やっぱりニッコリした。OP曲も爽やかだし映像が愉しげで素敵だと思う。

原作もアニメも非常に良いので、見ていただけると、いきなりシェイクスピア読みはじめるのも理解していただけると思う……🤔

千葉雅也『オーバーヒート』(新潮社)

千葉雅也の2冊目の小説集。「マジックミラー」は既読だったが、表題作ははじめて読んだ。
その表題作「オーバーヒート」は「言葉」に対する考えというか、思考がさまざまに書かれているのがおもしろい。世間の言葉に対する論評のようなものだったり、ツイートを仕掛けていったり、それに絡んできた相手との応酬(結局応酬にはならないが)だったりと、「言葉に包囲されている」(11頁)。それと同時に肉体の感覚がさっと差し挟まれたりしていて、揺さぶられる。「マジックミラー」の方はもっと肉体の感覚とか瞬発力みたいなものが濃密に書かれている印象だけれども、「オーバーヒート」の方は(そのタイトルとは反対に)もっとクールに言葉と肉体を行き来しているような感じがする。
「オーバーヒート」の主人公? がすなわち著者、ということではもちろんないけれども、読んでいると、普段の千葉のツイートなどから来る印象とは別の親しみやすさみたいなのが湧いてきて、おお、いいぞと思った。
そういえば、最近の千葉のnoteのお盆の記事の感じが彼の小説を読んでいるような心地になって、おもしろかった。定期購読だけど、おすすめ。
https://note.com/masayachiba/n/n91079d8c49d4
https://note.com/masayachiba/n/nd87562b8cfce

伊藤邦武『プラグマティズム入門』(ちくま新書)

先月読んだ『アメリカを作った思想』の感想で「プラグマティズムが気になるので入門書を読みたい」というようなことを書いたが、Kindleで過去にポチっていたようで、読んだ。
プラグマティズムの主要な思想家を挙げていって、プラグマティズムがどのような思想でどのように議論されてきたかが辿られている。パース、ジェイムズ、デューイ、ローティあたりは『アメリカを作った思想』でも取り上げられててなんとなく話がわかったが、それ以外のクワインやパトナム、さらにその後の最近のプラグマティストになると、なかなか難しくて、上滑りしてしまった。
ただ、プラグマティズムという思想の「真理」にとって、「実践」や「探求」が重要であるということは一貫していて、そういう軸を思い出すと飛んでいかずに済むかなという印象があった。論理学、数学、言語学と多様な領域に影響を受け、与えているので、ここ150年ぐらいはなんだかんだ哲学の大きな潮流のうちのひとつなのだなあというのがわかった。まさにアメリカの思想! かどうかはあまりわからなかったが。

松岡和子訳『ハムレット シェイクスピア全集1』(ちくま文庫)

最近『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(結局映画4回見て、舞台も見てしまった)やら『かげきしょうじょ!!』やら、演劇や舞台をテーマにした作品を見ることが多いのだが、舞台をほとんど見たことがないし、戯曲も読んだことがなかったので、ならばということでシェイクスピアを読んでみようと思った(教養主義者)。解説書から読もうかなと思ったが、日和ってはいかん(?)ということで、『ハムレット』から行くことにした。訳はいろいろあるけど、今年日本で3人目の個人全訳を果たした松岡和子訳。
読んで最初に思ったのは、頭の中で音読していて心地よいということで、やはり声に出して読むために書かれた(訳された)ものが戯曲なのだなということをすごく感じた。自分は読書の時に頭の中で音に変えてしまうのであまり読むのが速くないのだが、戯曲のようなものだと楽しめるのだなと気づいて良かった。訳も練り上げられていて、訳者あとがきには、シェイクスピア作品の台詞は意味、イメージ、音韻のそれぞれのレベルが多層的に成っていると書かれているが、それを感じられるような訳だったと思う。対訳で読んでみるのもおもしろそうだ。
河合祥一郎の解説にハムレットは演技することについての芝居だと書かれているが、欺き欺かれの応酬はサスペンスを見ているようでおもしろい。その中でオフィーリアが本当に狂ってしまうところなどは、「演技」の恐ろしさのようなものも感じられる。
あと、解説でも触れられているが、実際の芝居の演技や演出それ自体が戯曲の解釈になっているということがあらためてわかって、興味深い。楽譜が演奏家によって演奏されて音楽となるのと同じようなものがここにはあるけれども、そこに言葉の多義性や翻訳の問題などが加わってきて、その複雑さがおもしろそうだと思う。

月村了衛『機龍警察 白骨街道』(早川書房)

機龍警察の新作! というわけで買ってさっそく読んだ。前作までは一気に読んで、それから少々時間が経っているので忘れているところがわりとあったが、読み始めたらすぐにおもしれ〜〜〜となった。
今回はミャンマーが舞台だが、クーデターやロヒンギャのことなど、全然よく知らなかったのでネットでいくつかニュース解説を読んで、なるほどそうなのかと小説を読み進めた。著者のメッセージがnoteに掲載されていたが、連載中にクーデターが起きたようで、それも取り込んで完結させたらしく、実にすごいことだ。このシリーズは現実の社会問題などもしっかり下敷きとして描かれるけれども、いままさに進行中の現実と、フィクションが融合して、そしてエンターテインメントとしてめちゃめちゃおもしろいのは本当に驚く。とくに今回のラストの、黒幕が明らかになるところはある意味「カタルシス」が感じられた。
それ以外にも警察や官邸、財界などの描写やバトルのシーンなど、どれも手に汗握るものになっていて、あらためてすごいシリーズだなと思った。オススメ。

山口尚『日本哲学の最前線』(講談社現代新書)

哲学トレーニングブック』の著者による、主に2010年代の「日本哲学(J哲学)」の動向を著者なりに整理した本。『哲学トレーニングブック』やnoteにも個々の哲学者を論じた文章があったが、その系統と言える。
著者は6人の哲学者を「自由のための不自由論」の論者として捉えて論じている。自分もこの内何人かの著作を読んだことがあるけれども、なるほどこのような補助線が引けるのかと思って膝を打った。それぞれが(不)自由を「意志」という概念と結びつけている(と著者はまとめている)が、積極的でないかたちの「意志」を評価して、それとうまく付き合おう、使っていこうという、ある意味「ゆるい」感じは時代に寄り添ってるし、自分の気持ちも晴れやかにする。著者の書き振りは独特でキッチリした文章にも見えるのだが、そういう気持ちをけっこう大事にしているところがよく見えるのが好みである(前著もnoteもそうだった)。
最近はこういう(私的)ガイドブック的な本を読んでなかった気がするが、さっぱりしたボリュームで読みやすく、おもしろかった。

松岡和子訳『ロミオとジュリエット シェイクスピア全集2』(ちくま文庫)

『ハムレット』の読書体験が思いのほか良かったので、続けて読んでみた。このあとも続くかもしれない。
この作品はハムレットに比べるとあらすじを知っている。というかあらすじが全てというか、訳者も作品冒頭のプロローグ(序詞)を挙げて「これに尽きる」というぐらいだ。とはいえ、あらすじは知っていても、たとえば『かげきしょうじょ!!』で主人公渡辺さらさや委員長杉本紗和が演じるティボルトが、実際どういうやつかわからなかったので、原典(元ネタ)を辿っていくのはおもしろかった。
あと、どの役も過剰で印象的な言葉を吐きまくっているのがおもしろく(行動も激しい)、愛の言葉や猥雑な言葉、怒りの言葉や嘆きの言葉など、どれも読んでて刺激的だった。同じ悲劇でも、ハムレットと比べるとだいぶ喜劇的である。個人的には第一幕第三場で乳母がジュリエットの年齢について「お嬢様のお歳なら時間の単位まで存じております。」(35頁)というところが今でも笑えそうな台詞だし、翻訳だなと思って笑いながらメモってしまった。
松岡訳をもうちょい読んだら、解説書とかも読んでみたいなと思っている。他の訳と読み比べるのも楽しいかもしれない。舞台も見てみたくなった。