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#10 ここにあるもの

今日はあの人の誕生日。
彼のことはまだ忘れられない。

今年もおめでとうのメッセージだけ送ろうと、彼とのライン画面を開く。去年の今日から1年ぶりに見たそこは、背景画面が連絡がくるおまじない画像になっていて、そういえばこんな画像に設定していたなとふふっと笑ってしまった。

「よるくん、お誕生日おめでとう。元気でいてね。」

久しぶりに彼に連絡をするから、少しだけ緊張しつつ、去年と同じメッセージを打つ。えいやっと送ってしまえば、既読がつかないままのトーク履歴が更新される。と言っても、別れた後に1つ、去年の今日に1つ、そして今日のメッセージの3つだけど。4つ目は来年の今日かもしれない。返事は来ないものと思い込んで、ラインアプリを閉じた。

彼にも届いてほしいけれど、ほんとうは私に向けたメッセージだ。彼をまだ忘れないため。彼への気持ちを残しておくため。私がまだ彼を好きでいていいように、彼が好きだという痕跡を残す。

もうここまで来ると、この気持ちは恋なのか愛なのか執着なのか。

だけど、私じゃどうしようもない。
ふわふわな丸いものをずっと抱えているよう。それを何度もこねくり回して、どんな形だったのかわからなくなって。苦しくなって投げ出して。でも、最後には"好き"の形に戻っている。いろいろな温度になって形を変えるけれど、消えてなくなることはない。何度追い出したって、忘れようとしたって、彼はあの頃と変わらず、ここにいる。彼の代わりは他にもいるかもしれないけれど、胸のここは彼の居場所で、彼でいてほしい。

ずっと、大事にしていたい。
この気持ちも彼のことも。

どうして、こんなに好きなのかもわからない。でも、確かに"好き"なんだと思う。あの時、好きになったから。好きという言葉でしか言い表わせないけれど。あの時、知ってしまった感情は、まだ確かに"ここ"にある。こうして今も私の知らないどこかに続いている。

恋なのか愛なのか執着なのか。
私の一方通行だとしても、報われない未来があったとしても、

まだ好きでいられるよ。


*物語の始まりはここから


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