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物理学者が考案したユニバーサルデザイン。てこの原理で常識を変えていく。トマト創業支援ファンド投資先【エナジーフロント】

将来介護が必要になる、もしくは誰かの介護をしなければならない状況はどんな人にでも訪れる可能性があります。
今大きな社会問題となっている介護問題。親の介護、老老介護、ヤングケアラー。
介護は医療と違い、「回復に向かう」「現状より良くなる」ということは少ないため、ネガティブなイメージを持ってしまうことも多くあります。
今回は、そのようなネガティブなイメージを変えるため、昨今浸透しつつあるユニバーサルデザインの思想と、物理の要素を取り入れたブランド展開を行うエナジーフロントのご紹介です。


エナジーフロントについて

エナジーフロントは、「介護のイメージを変える」ことを目指しユニバーサルデザインブランド「AUN」の商品開発、展開を行う岡山発のスタートアップです。物理のバックグラウンドを持つ上田氏が創業し、社会問題を持続可能な事業で解決していく「ソーシャルビジネス」を生み出すことに取り組んでいます。
FVCでは、岡山県にある(株)トマト銀行と設立した地方創生ファンドであるトマト創業支援ファンドより2020年に投資し、支援しています。

ユニバーサルデザインブランド「AUN」

◆ユニバーサルデザインとは?

ユニバーサルデザイン(Universal Design)は、「普遍的な」という意味を持つ "ユニバーサル" が示しているように、『すべての人のためのデザイン』のことを指します。
特定の人達のバリア(障害、障壁、不便など)を取り除く「バリアフリー」の考え方をさらに進め、身体能力の違いや年齢、性別、国籍に関わらず、すべての人が利用しやすいようにつくられたデザインのことを指します。

身の回りにあるユニバーサルデザインの事例として、街の中では出入口の階段やスローブ、駅の改札などから、家庭では照明や手すり、文房具やシャンプーのボトルなど、あらゆる場面で実はユニバーサルデザインの考えが取り入れられています。

◆「AUN」とは

「年齢や身体状態などによらず、誰もが生きることを楽しめる空間・時間・モノを作りたい」

介護のイメージを変えるブランドとなることを目指し、立ち上げられたこのAUNは、身体能力の違いや自身の状態、年齢などに捉われず、誰もが日常を送れるようユニバーサルデザインの考え方を取り入れて作られています。また素材には国産ジーンズの発祥地として知られる岡山・児島デニムや倉敷帆布を採用し、地元・岡山発のユニバーサルデザインブランドとして展開しています。

◆ AUNへの想い

AUN事業のきっかけは、代表である上田氏の両親の介護でした。父親である修氏の病気による介護をきっかけに、上田氏は介護の現状や現場の問題点など多くのことに気付かされたと言います。

昨今社会課題にもなっている老老介護問題。病気やけがなど介護が必要になった際、身近にいる家族も加齢とともに腰痛に悩まされていたり、持病を抱えていたり足腰が弱くなったりと、介護することが困難な事案も多く存在しています。

当時修氏の介護をしていた母親である圭子氏は、腰痛を抱えており、椅子に座ることも難しくなっていた修氏の移動や介助に困難を抱えている状態でした。
また一方で病気を抱えていた修氏も、病状の進行とともに動くことも困難になり多くの制限を強いられる生活をしており、日常の生活が厳しくなっていました。
その際、圭子氏が修氏の持っていたデニムを加工し、介助がしやすいよう作ったものが、上田氏の事業のきっかけになりました。

母親である圭子氏が加工し作ったデニムは、物理学者である上田氏から見てもデザインを損なわず、理にかなっている作りになっており、そこから製品への着想が得られたといいます。
また、病状の進行とともに日常で着るような衣服を纏うことが難しくなっていた修氏にとって、もちろんファッションについて考えることなど困難な状況下。ただ、そのような厳しい状況の中でも普段着ていたような「普通」の服を着ている、他の人と変わらないものを纏えることが少しの幸せを感じることにもつながることを父の表情から感じとった上田氏は、ユニバーサルデザインへの強い想いを持ちます。

◆ てこの原理で常識を覆す

AUNブランドを代表する製品である「リフティ・ピーヴォ」

そのような経験から出来上がった製品がこの「リフティ・ピーヴォ」。椅子の上に置くクッション「リフティ」と、膝につける「ピーヴォ」から成るAUNを代表する製品です。
一見普通のクッションに見えますが、多数の国で特許も取得している実はすごい製品です。
介護の悩みで多いのが、腰痛。移乗介助でよくこのような光景を目にすることもあるかと思います。

抱きかかえて介助するので腰に負担がかかってしまいます

この介助方法によって、介護従事者が腰痛を抱えてしまう現状が多くあります。

腰に負担をかけず120Kgの人を運ぶことができる

そこでエナジーフロントが考案したものが、この「リフティ・ピーヴォ」。
物理学者である上田氏が、「てこの原理」を利用して考案した、腰に負担をかけず移乗介助で可能になる(なんと慣れれば指一本で!)持ち運びクッションです。

てこの原理という、誰もが一度は聞いたことのあるこの法則を利用することによって、自身の体重の2倍まで、腰に負担のない重心移動のみで移動をさせることができます。

てこの原理を利用したこの商品は、理科の教科書にも採用されています!


◆ 全ての商品に細かな配慮

リフティ・ピーヴォだけではなく、AUNは、普段使いのできるシャツやデニムなども展開しています。
この一つ一つの商品にも、細やかなユニバーサルデザインの思想と工夫が設けられています。
例えばジーンズは2種類発売されていますが、プラスパッドシリーズは、転倒した際の骨折予防として、衝撃吸収パッドを採用したものです。薄さ約6㎜で体温で柔らかくなるため装着の違和感がありません。ただ効果は高く、大きな衝撃吸収効果があります。
また、リフトアシストシリーズは、両脇に持ち手が設けられており、この持ち手がリフティの代替となり、移乗介助がピーヴォだけで行うことができます。
いずれも機能として付けられていますが、誰が使ってもデザインの邪魔にはなりません。

三重県主催TOKOWAKA-MIE 事業共創推進事業 パートナー企業採択

2024年3月19日。三重県と株式会社eiiconが主催するオープンイノベーション推進プログラム「TOKOWAKAー MIE事業共創推進事業」。三重県内企業と全国のパートナー企業によるビジネス創出を目的とするプログラムのDEMO DAYが開催されました。
その中で今回、三重県内に拠点を持つ訪問介護事業の株式会社エムケイ・コーポレーションのパートナー企業として、エナジーフロントが選ばれました。 

『共創タイトル「地域社会とのTSUNAGARIで実現する介護現場のアップデート」』

2023年11月では有効求人倍率が、1.28倍となりました。
介護業界で見ると、施設の介護職員の求人倍率はなんと3.79倍。特に訪問介護の人材難は深刻で、ホームヘルパーの2022年度有効求人倍率は15.53倍に達しています。他の業界の有効求人倍率は、おおよそ1〜2倍の推移となっているため、この介護業界全体の倍率は非常に高いと言えます。

労働条件の悩みの3割に腰痛

介護業界は人手不足も深刻な問題ですが、同時に身体的負担が大きいことも労働条件の悩みとしてよく取り上げられます。
上述した通り、腰痛は移乗介助で発生することで知られ、実際エムケイ・コーポレーションの現場でも、高齢者に対し75%の職員が移乗をし、その移乗介助はまだまだ人力が現状で抱きかかえて引き上げるというのが実態としてあり、63%の職員が腰痛を経験しているという現状がありました。このことで離職にもつながる現実があります。
人手不足の問題と、この腰痛などによる身体的負担による離職が進むと、近い将来適切な介護が受けられなくなることにもつながっていきます。

このような背景から、ホスト企業であるエムケイ・コーポレーションは、介護現場の現状を少しでも改善できるような長期的な取組みと介護への想いを大事にできる、共感できるパートナーをこの事業共創推進事業を通じて探しており、エナジーフロントをパートナー企業として採用しました。

今回両社は、共同で訪問介護・デイサービスにおける現場の改善を試みるための実証実験を行いました。

DEMO DAYでの発表では商品を使用してのデモンストレーションも行われました

実際に現場でリフティ・ピーヴォを使用しヒアリングしたところ、現場の介護従事者の全員がこの製品仕様で腰痛リスクを軽減できると回答。
エナジーフロントのリフティ・ピーヴォは、非常に優れた性能をもつ商品ではありますが、実際に「正しい」使用をしないとその効果を実感することが難しい商品のため、販路拡大への課題となっていましたが、この実証実験により、改めて介護の現場で非常にニーズにマッチしていることが実証されました。

また、利用者の家族や職員からは、
・ベッドから車椅子への移乗がとても楽になった。外出先でも持ち運びができ、便利。
・これで家族が安全に介助してもらえるなら購入したい。他の方にも勧めたい。

など多くの声が上がりました。

◆ 三重県から腰痛予防を普及へ

リフティ・ピーヴォが介護現場のニーズにマッチしていることが実証されたため、今後はエムケイ・コーポレーションとエナジーフロントは共同で製品の普及・市場性を確認しながら、三重県から腰痛予防を普及に向け取り組み、また新たなニーズを拾い上げ新製品の共同開発を行っていく予定です。

エナジーフロント 上田社長(写真左)とエムケイ・コーポレーション 平林社長(写真右)

◆ ホスト企業:エムケイ・コーポレーションについて

エムケイ・コーポレーションは、『地域の人たちが笑顔でイキイキと過ごせる社会を創る』をミッションとし、デイサービス・訪問介護などの介護事業を中心とした事業を展開しています。三重県伊勢市を所在地とし、地域に根付いた事業を行っています。
URL: https://mk-corporation-ise.com/

投資担当者からのコメント

同社の主力商品であるリフティ・ピーヴォは、老老介護等課題を抱える日本の介護現場を大きく変える事が出来る高機能で画期的な商品だと高く評価しています。
ただ、実際に使用し、かつ’’正しく‘’使用をしなければ、この商品の「本来のすごさ」を実感するのが難しい商品でもあり、実際の購入局面では正しい使い方でお試し利用をし、有効性を確認してもらうというプロセスが必要であるケースが多く、販売面や販路拡大に課題を抱えていました。

今回、三重県のエムケイ・コーポレーション社との事業共創推進事業は、地域に根付いた訪問介護事業を行う当該社が、リフティ・ピーヴォを実際の介護現場で採用し、実証実験の現場で使用した全員が本商品に対し非常にニーズに対応した商品であることを認識頂き、この商品の「本来のすごさ」を証明していただいた大変ありがたい機会だと思っております。
リフティ・ピーヴォは介護施設だけではなく、各家庭で使用することもでき、今まで介助が大変ということで行動範囲が限られていた人にとっても、その助けになるかもしれません。
この両社の事業共創を通じて、介護現場の現状や介護の認識を三重県、また東海地方からどんどん変えていっていただきたいと思っております。
またこの三重県での取り組み実績は、同社の今後の全国展開、業容拡大に繋げていけるものだと考えており、ファンドとしても精一杯応援してまいります!

関連リンク:
・エナジーフロント HPページ:https://www.energyfront.jp/
・「AUN」商品ページ:https://www.aun.blue/
・TOKOWAKAー MIE事業共創推進事業:https://corp.eiicon.net/ep/topics/tokowaka-mie-2023

・TOKOWAKAー MIE事業共創推進事業 DEMO DAYの様子はこちら:
https://tomoruba.eiicon.net/articles/4513