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『BUTTER』 愛と憎悪はほぼ紙一重【読書感想文】

こんにちは、こんばんは。
深夜にコソコソと読み進めていた柚木麻子さんの『BUTTER』。
やっと読み終えることができました。
そう、約1ヶ月かかっちゃいました…(途中3冊ほど挟んだ)
すごく重い内容とかではないんですが…すごく丁寧な描写が多くて、想像しながら、よだれを垂らしながら読んでいたら、こんなに時間が経ってしまいました。笑
そうなんですよね。
読んだことがある方は、お分かりかと思うのですが…出てくる料理すべてが美味しそう!!
バター醤油ごはんなんて、『ただごはんの上にバターをのせた簡単料理』だなんて言えないくらい!
食材ひとつひとつが輝いて見えてくる。素敵な言葉たちに、日々参っていました。

フォロワーさんが、「夜中に読むのは気をつけて」と言っていた意味がよくわかります。

今回は、『BUTTER』について。自由気ままに読書感想文を書いていきます。


物語は、週刊誌記者の町田里佳が殺害容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)に取材を申し込むことからはじまる。
婚活サイトで出会った男性を魅了し、3人の人間から金を奪い、殺害した罪に問われている。
世間から見ると、若くも美しくもないカジマナ。

彼女がどのような手口で男性を陥れ、殺害までに至ったのか…。
カジマナに翻弄される人間たちや世間の目。
カジマナの真実。
ただの殺人の方法を紐解いていく物語ではなくて、小さな頃から根付いている人間の澱のようなものに気づかされる小説でした。

実際にあった犯罪を下書きとして書かれているというのも驚きで、実際に調べにいってしまいました…。


殺人犯のカジマナ、主人公の里佳、親友の伶子。
登場人物はそれぞれ違うはずなのに、どこか似ている部分があって、そこに引っ張られてしまったり、「同じはずなのに、どうして私はできないの…」と葛藤したり。
自らのコンプレックスを互いが映し出しているような。人間はそうゆうところを自然に感じ取っていて、将来の絶望的瞬間を回避しようとする。
その逆で、自分とは重ならない部分に強く惹かれてしまうのも人間。
どうにかして近づきたくて、気持ちを重ねたくて、同じことをしてみたり、趣向を合わせたり。
真実の自分を見失ってしまうことも少なくない。
自分の適量を探るはずが、もうすでにコントロールされていて、だれかの適量になってしまっている。
すべてを捧げたとしても、だれかの心を動かすことなどできないのに…。
上からコントロールされるだけの自分は、友だちでも恋人でもない。
心を預ける行為は、バランスを崩してしまうだけ。

結局のところ、男達が求めているのは生身の女ではなく、プロのエンターテイナーなのではないか。
プロを求める男と、人生を共にする相棒を求める女は。

出典『BUTTER』

異性を喜ばせるために、努力したり、取り繕うこと。
誰にでも一度は経験があるのではないかと思う。
いつまでも好きでいてもらうため、笑顔で過ごしてもらえるために献身的に尽くす。
理想であって現実的ではない。現代は特に。
そう思っているものの、皆心の何処かで尽くされたい気持ちや労ってほしい気持ちが渦巻いている。
これを実現するためには、自分を押し殺す時間も必要になってしまう。本当に『死体になる』という言葉に妙に納得してしまった。


どうしても繋ぎ止めたくて、いつもとは違う自分になってみたり、相手の気持ちに応えようと無理をしてしまう時。なんだかお腹のあたりがしくしくと痛んで、言葉が出なくなる。
人形になってしまったようで、心で判断することが難しくなってしまうんだ。
言われたまま、動くしか方法はないんだなぁと目の前が暗くなる時がある。

こんな関係はもう嫌だなぁと思うんだけれど、引き寄せられてしまうのは何故なんだろう。

そこでは確かに、愛されている自信があったはずなのに、一歩外に出て、少しでも離れてしまうと、急に怖くなってしまって、時にそれは不信感へと変化していく。
愛情と憎悪は、ほぼ紙一重である。



誰かを大切に思う気持ち。
けれども、いつまでも独り占めはできないもの。
ひとりひとりが自分の足で立っていくこと、さまざまな人と出会って、違う方面からの支えも必要。
恋人・夫婦2人だけ。親友2人だけ。2人だけの狭い世界はとても窮屈でしんどくなるときもある。

2人きりの時間も必要だけれど、2人だけの世界では成り立たない。

こんなにも素晴らしく、だけど憎らしく、愛おしいということをだれかと共有することも必要である。

お互いのため。お互いの未来のために必要なこと。
個々の運命を背負って生きていく。
たまには違う人たちと世界を溶かしあう時間があっても良い。けれども、この世界を出たら、あとは別々の暮らしを責任持って過ごしていかなければならない。
みんな、いつも一緒じゃなくても大丈夫。
だけど、たまに会いに来て。その時は秘密を作ろう。全てを知っていなくても良い。
その方が、きっとうまくいくから。
疲れたときはひとりでふらっと、休める場所へ。

行き詰まった夜に、ふらりと散歩して珈琲を一杯飲めるような場所。

出典『BUTTER』


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