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それでMFA(美大修士)ってビジネスにどう活かせるの?〈後編〉その3:Input編

今回は、Input編を詳しくご紹介します。ビジネスパーソンは美術館に行けと言われるもののどういうことをアートから学べばいいのかしっくり来てない方、ならびにデザインの世界でデザインリサーチというパートにご興味のある方は是非読んで頂きたい、そんな内容になっています。

はじめに

これまで3回に渡り投稿してきました。前編をはじめとし、ビジネスにおける仮説を立てる、という状態から逆流する形で後編をご紹介してきました。この後編では、それぞれのプロセスごとに、〈What〉MFAの何が活かせるのかをより具体的に、そして適宜〈How〉MFAがどのように作用するのか、についてご紹介しています。その1のOutput編、続いてその2のSynthesis編は過去の投稿を是非ご参照ください。今回はその3としてInput編について詳しく紹介します。

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前回のSynthesis編で、重要となるポイントとして以下の2つであると述べました。

Synthesisにおけるポイント(再掲)
① 問い:同質化に繋がらない新しい問いを立てること
② 統合:問いを立てる際、解を出す際も、あらゆる要素に分解して、それらの要素を統合すること

特にこの①のポイントを抑えるための肝が、Inputパートにあります。どのように作用させるのか、Inputパートを噛み砕いてお伝えしたいと思います。

3.Input

何事も良いアウトプットを生み出すためには質のいいインプットが必要となります。質のいいインプットを導く方向性を誤ってしまうと、いい結果が出ることはありません。なぜならいい問いを立てられないからです。適切な問いを立てるために適切なインプットのプロセスを通します。この辺りを中心にご紹介していきます。

前編でInputにおいてのポイントは以下であるとご紹介しました。

Inputのポイント
① 刺激:新しい問いを立てているモノに触れ、刺激を得ること
② 未来のニーズ:人々の行動を進展させるほどの未来のニーズを捉えること
③ Unlearn(学んだもの・経験したものを意識的に忘れる)を常にすること
InputでのMFA活用ポイント
① 刺激:日々の生活やビジネスでは出逢わない新しい問いを知る《座学講義》《アート実習》
② 未来のニーズ:人々の未来のニーズを捉えるためのリサーチ手法《デザイン実習》
③ Unlearn:これは学ぶlearnの反語なので学べるものではないですが、何度も強制的にunlearnのきっかけがもたらされる

このポイントそれぞれに対する重要性については、同じく前編でご紹介しているので、今回はこれらのポイントについてそれぞれをさらに具体的にお伝えしたいと思います。

3-1.ポイント①新しい問いを立てているモノに触れ、刺激を得ること

新しい問いを立てる、つまり「なるほど、その手があったか!」といったような内容を生み出す問いを立てることです。同質化しないような新しい問いを立てるためには、新しい問いを立てているものに触れ続けていることが重要となります。

新しい問いに触れること自体は正直簡単です。あちらこちらの社会の動向、情勢、ビジネスのトレンド、新しいサービス、発明等から触れていくことができます。その際に、そのもの自身に着目するというより、そのものがどのような問いによって導かれたのか、まで導くことが重要です。

中でも、アートに触れることの刺激は随一ではないかと思います。具体的には以下の2点。

新しい問いの刺激を得るポイント
① アートに触れる:既存の価値観を壊し新しい価値観を提案し、人々の思想を進展させてきたアートに触れ、新しい問いに触れる
② アートをする:Tangibleな体験を自ら行い、作業から気づく、新しい問いに触れる(セレンディピティ)

前編でもお伝えしたように、歴史的に名を残しインパクトを与えてきたアートには共通項があります。それは、描画技術のうまさではありません。みなさんご存知のピカソや、ジャクソンポロック、などなど、それらがなぜ価値として高く評価されているか。

それは既存の価値観を壊し新しい価値観を提案しており、人々の思想を進展させるものだったからです。人々の思想を進展させるほどの魅力的な提案をしている、つまり誰も考えていなかった新しい問いに向き合った結果だと言えます。

また、2点目のアートをする、ということも刺激を得るために十分すぎる効果があります。Tangibleな作業を続けることで、そのプロセスの中で新しい問いに触れることができるわけです。

- MFA活用ポイント

これは、アート講義の授業を通じて、現代美術に詳しい講師の方から学ぶ機会を多く得ます。

座学講義・アート実習 授業例
・水曜夕方、現代美術史や西洋美術史について歴史とともに解説付きであらゆる作品を紹介してくれます《座学講義》
・土曜朝10時に抽象的なお題を与えられます。11時ごろから製作開始し当日15時にそれにこたえる作品を提出。その作品を考えるにあたり、お題に関連したアート作品を多面的に紹介してくれます《アート実習》

ビジネスの世界で生きている私に対して、アート作品を通して人々の思想を進展させるほどの提案とは具体的にどのようなものなのか、が気づきになります。これは、多くのアート作品の紹介や美術史を振り返ることでたくさん学ぶことができます。

たくさんありますが、せっかくなので少しだけご紹介します。アートには何かしらの問いが込められています。どういった問いが込められているのか、当時の時代での新しい問い、タイムスリップして触れていただければと思います。


泉(1917)・・・トイレの便器を出品 
マルセルデュシャン ー「アートは美しいものを指すのか」

ナンバー1A(1948)・・・アクティブペインティングで無造作に表現
ジャクソンポロック ー「アートはイメージなのか」

ブリロボックス(1964)・・・広告デザインと言われるようなものを提示
アンディーウォーホール ー「アートとアートの境目はなんなのか」

あと、画像が見つけられなかったのですが、フランクステラというアーティストの作品を授業で紹介してもらった時、非常に面白いなと思いました。アート作品のほとんどは額縁や仕切りがあります。その額縁の概念をぶち壊すような作品で、どこからが作品なのかを考えさせられるような作品です。

このような形で、その時代時代に生きたアーティストがその当時の新しい問いを提言しています。ぜひどんな問いを投げかけた上で表現していたのか、そういった観点でアート作品に触れていただければと思います。

3-2.ポイント②人々の行動を進展させるほどの未来のニーズを捉えること

ビジネスの世界では、アートの世界とは違って、人々を魅了するだけではなく、人々の行動を進展させるほどのインパクトを与えなければなりません。人々の行動を進展させるほどの未来のニーズを捉えた提案を行うことが必要となります。

未来のニーズ、それはすなわち現在の生活者が望むニーズとは異なります。未来の生活者が求めているだろうものを捉えるということです。それは心の中の潜在意識の部分にあるものを捉えるということとイコールです。

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デザインリサーチの中にも、現在のニーズを捉えるリサーチ手法と、未来のニーズを捉えるリサーチ手法があることをご存知の方も多いと思います。その未来のニーズを捉える、つまり潜在意識を掘り出すためのリサーチをしっかりと行うことが求められます。

デプスインタビューのような1対1の非構造化インタビューを行いながら、潜在意識を捉えることが多いですが、それをするにあたって重要な点を1つだけ述べておきたいと思います。これは脳波の実験等からも証明されていますが、ラポール状態にあれば潜在意識を捉えられる確率が上がります。ラポール状態とは信頼関係が形成されている状態のことを指します。

未来のニーズを捉えるためには、目の前にいるインタビュイーの潜在意識を捉える必要があり、それをするためには信頼関係を短時間で形成するスキルが必要であるということです。

- MFA活用ポイント

いわゆるデザインリサーチの領域なので、美大でなくともデザインスクール等でも学ぶことができる内容とはなっています。美大でも、Tangibleなデザイン実習のみならず、Intangibleなデザイン実習も用意されているので、学ぶことができます。

デザイン実習 授業例
・毎週水曜20時、デザインの教科書に基づきながら学生3人が1チームとなって実習内容を作り、その他の学生に実習の場を提供します。講師の先生に、教え方・実習の仕方の良い点・悪い点をフィードバックしながら学びを深めます。《デザイン実習》

このデザインリサーチの領域をたまたま担当になったので学生として実習の場を準備に他の学生らへ提供しました。市ヶ谷キャンパスの1Fに無印良品店が入っており、そのMUJIと武蔵美は共創関係であるため、その無印良品店で実習を行いました。店で商品を選んだり店で過ごす学生をしばらく観察し、その後その学生に対してデプスインタビューを行うという実習を行いました。

行動に対する背景や深層をインタビューすることで、いくつかのニーズが見出されました。ある班がインタビューで導いたニーズが少し面白かったので紹介させていただきます。ほんの短い時間の実習でしたが、インサイトとして「市ヶ谷キャンパス内(2F以上)の男子トイレが過ごしにくく、無印良品店内の男子トイレが過ごしやすい」といったところまで出てきました。このようなインサイトから、安心して過ごせるトイレのあり方、トイレに対する未来のニーズを導くことができます。

3-3.ポイント③Unlearn(学んだもの・経験したものを意識的に忘れる)を常にすること

さて、最後のポイントになります。上でご説明した、ポイント①新しい問いに触れる際も、ポイント②未来のニーズを捉える際も、重要となるのが、このポイント、Unlearnしているかどうかを抑えておくことです。Learnをしようとすると、自分のこれまでの人生での価値観に固執し、新しい価値観は自分の中に入ってこず、頭の中の知識にとどめてしまうことになります。Unlearnすると、自分の価値観の中に取り込むことができ、より問いの新しさに気づいたり、未来のニーズを捉えることができるようになります。

- MFA活用ポイント

こちらは授業で教えてくれるという類のものではありません。逆にいうと、あらゆる授業でUnlearnして学びを取り入れていくことは、自分次第ということでもあります。ただ、何度もUnlearnしなければならないと打ちのめされる機会に多く出逢うというのもMFAの特徴だと思います。

実は、このUnlernの重要性に気づかせてくれたのは、私の通う武蔵野美術大学の長澤学長でした。修士に入学し2ヶ月ぐらい経った6月頃にたまたまお話しする機会があり、30分ほど学長と話していた際に、私に注意点を語ってくれました。

毎日授業でこの市ヶ谷キャンパスに来てるじゃん?キャンパスの敷居を跨ぐ際に、○○会社の朝山絵美という普段の自分を全て脱いでから、跨ぐように。そうしない限り、このムサビに通っても意味のない2年間になるよ
武蔵野美術大学 長澤学長

この助言こそがまさにUnlearnせよということです。この頃はなんとなくわかったつもりで、教えを守ろうという気持ちだけで、そのようにトライしていました。今振り返ると、これがターニングポイントであったと感じます。いいタイミングで良いお言葉を頂けたなと思います。

このUnlearnという概念を知っているだけでも、自身の行動も変わり、インプットの質が格段に変わるという実感を持ったので、ぜひ皆さんもチャレンジしていただきたいと思います。

おわりに

前編と後編とで計4回の投稿を行ってきました。ビジネスにアートを活用せよ、等言われてもスッキリとしなかった方に、なんとか理解して頂ければと思い、書き始めました。可能な限り理論的に理解していただけるよう、この4つのポイントにお応えしたいと一生懸命執筆してまいりました。

応えたい4つのポイント
〈When〉どの局面でMFAが活かせるのか(経営においてMFAが通用する範囲)
〈What〉MFAの何が活かせるのか(経営において活用できるもの)
〈How〉MFAがどのように作用するのか(経営に作用する因果関係)
〈Why〉なぜMFAが活かせると言えるのか(経営におけるMFAの位置付けの理論的な説明)

いかがでしたでしょうか。まだ未熟な点もあったかと思いますが、長きに渡り読んで頂きありがとうございました。何か少しでも皆様の学びのお役に立てればと思います。

これからも、MFAでも出来事と学びを具体例を交えながらご紹介していきたいと思いますので、ぜひフォローいただけると嬉しいです。


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