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写真多め!フランク・ロイド・ライトの傑作「落水荘」の驚きの視点に迫る!〜リビングルーム〜

いよいよ落水荘の室内へ!

玄関は正直言ってわかりにくい。何も知らずに遊びに行ったら、どこから入ったらいいのか戸惑いそうだ。それは石の壁の間の先にあり、ここからライトの演出が始まっている。

玄関はわかりにくい
初めての人はどこから入っていいのか戸惑いそう
洞窟のような壁の先に扉がある
意図的に狭くしているのだろう

ちなみに、撮っていたつもりがちゃんと撮れていなかったのだが、実はここにも滝がある。規模はかなり小さいが、例の滝のリピートだろう。この水は水泳や散歩の後、体を洗うために使われたほか、生けるまでの花を置く場所だったらしい。

奥に手洗い場がある

いよいよ扉を開けて室内へ。
狭い玄関を抜けると正面にはデスク(なぜここに?)、右手にはコートルームがある。

ここで仕事はしづらいな…

ここが落水荘のリビングルームだ!

玄関左手の階段を3段あがると…

視界に収まらないほど左右にワイド
この部屋には会話、食事、勉強、音楽のためのエリアがある

視界に収まらないほど左右に広くてビックリした。なんとワイドなこと。驚いたのは、それだけではない。左右の広がりとは対照的に天井が低く感じる。正確に測ったわけではないが、2m40cm程か。低く感じるだけなのかもしれない。これによって視線はリビングを通り抜けて外へと向けられるため、開放感がものすごくある。

ここには「導入は狭く」そして「その先は広く」という、ライトならではのテクニック、“Compression and Release”が使われている。狭いところから広い空間へ移動すると、より広く感じるという錯覚におちいるはずだ。ライトはこれをたくみに利用している。落水荘のあとも数々のライト建築を見てまわったのだが、狭い空間があると「次は広い空間があるな」と無意識に気づくようになった。

さて、リビングの右手には暖炉、左手にはデスク、そして部屋のあちらこちらにソファがすえられている。ゆったり休んだり、団らんしたり、読書をしたり、あらゆるところでさまざまな時間を過ごせそうだ。
 
そして、床に目を落とすと……丁寧に磨かれ鈍い光を反射させる石の床は、外を流れる川を連想させる。自然を室内に取り込んでいるかのようだ。その不規則な模様が躍動感を生み出している。

敷石は川底から採取した石を使用している

自然をさらに体感できる場所がある。
それが暖炉だ。

一般的な暖炉とはやや趣が異なる

最初見たとき、火元から溶岩のごとく何かが溶け出てきているのかと思ったが、床にはゴツゴツした岩がむき出しになっている。実はこの岩は建物の基礎の一部になっていて、その上に暖炉をつくっているのだ。ナマの岩と暖炉の一体感を出すためワックスを塗らずそのままにし、切り出して磨いた石の床と区別しているのだという。

デコボコしているので、つまずきそう

暖炉でもうひとつ気になるのが赤い球体だろう。これは一体なんだろうと思ったら、この中にワインやサイダーなどの飲み物を入れて温められるようにしたらしい。使わないときは180度回転させて、壁の中に収まる仕掛けになっている。そうでもしないと、薪の炎で熱せられすぐに球体は使い物にならなくなってしまうというわけだ。

暖炉の内部空洞は円筒形
室内には他にも半円がちりばめられている

ソファの背後の横に伸びる窓も印象的だ。一般的な家の窓は縦長が多いが、落水荘の窓は横方向に連続していて、自然の様子が手に取るようにわかる。景色をインテリアの一部として取り込もうとしたのだろう。実際にエドガー・カウフマン・ジュニアは、「落水荘の窓は季節ごとに変わる日本の屏風のように機能する」と述べている。 

部屋の3方が窓になっているため外の様子が手に取るようにわかる

入り口のすぐ左手にあるスペースはミュージックエリアだそう。自分の痛恨のミスで切れてしまっているが、ソファに向かって左側のキャビネットにスピーカーが内蔵されている。気づかないぐらい見事にインテリアとして調和していたため、見逃した。無念…

背もたれの後ろに仕込まれた間接照明が美しい

ミュージックエリアの右手には、先ほど外から見た小川へ降りる階段がある。室内からだと、かなり小川が近く感じる。ここでも建物と自然をつないでいるのだろう。

ちなみに、階段上にあるガラス窓を奥へスライドさせると、フラワーベースの下にすっぽり収まる仕組みになっている。その上には天窓があり、太陽の光が差し込む。空、建物、水がここでつながるのだ。

水の流れる音がより強く聞こえてくる

最初はなぜこんなところに階段をつくる必要があるのか?と思ったが、実際、カウフマン夫妻も同様の疑問を持ったらしい。自然との融合を目指したライトにとって、この階段は欠かせないものだった。概念的の意味合いだけではなく、ここは夏場のリビングの冷房として機能したのだという。

天窓を通して空や太陽、階段を通して小川が建物とつながる

階段の隣はデスクスペースになっているのだが、実はここには落水荘のデザインモチーフが凝縮されている。水平線、片持ち梁(カンチレバー)、曲線、カスケード(階段状の滝)。これまた自分の痛恨のミスで、デスクの全体像がわかる写真を撮っていなかった。
無念…
リビングルームの広い写真でなんとなくわかるので、あわせて見てほしい。

天窓から太陽の光が降り注ぎ、作業する手元が明るく照らされる

もう1度リビング全体を振り返ってみる。すると4つのデザインモチーフがいたるところに見られる。横長の窓やソファ、石積みの柱、暖炉上の段々になったスチール製の棚など、現地で探してみるとおもしろいだろう。

ソファやテーブルなどの家具はライト自らがデザインしている
棚、窓枠、ソファ、柱と水平ラインが部屋中に見られる
本来なら棚を柱から飛び出させる必要もなければ、端を半円状にする必要もないが、モチーフをリピートさせるため、わざわざそうしている

暖炉の右手にはダイニングがある。見学時間や他のツアー客がいた都合で全体の写真は撮れなかったが、なんとなく雰囲気は感じられるだろう。

テーブルは拡張でき、最大18人まで座れたらしい
伊万里の皿がディスプレイされている

リビングルームを見ているとき、

「そういえば…」

と、ふと気づいたことがあった。美術館や博物館などにありがちな、解説のための表示やロープによる立ち入り制限が一切ない。だから、本当に家を訪れているかのような感覚になる。実際、エドガー・カウフマン・ジュニアは落水荘を「美術館ではなく、家のように感じさせる」よう保護団体に求め、ビジターセンターにはオリエンテーションフィルムや落水荘の模型さえも置かないよう要求したという。ガイド付きの少人数ツアーだからこそ可能な展示方法なのかもしれないが、博物館によっては見習えることも多いのではなかろうか。

次回はテラスに出てみたいと思う。



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