見出し画像

元司書が興味本位で調べたら行方不明の絵画を見つけてしまった話

こんばんは、古河なつみです。
読書をしていてふと「これってどういうことなんだろう?」と疑問に思う物事があった時、ついつい元司書スキルを発動して事実確認をしてしまう癖があるのですが、想像以上に面白い結果になった調べ物があったのでご紹介します。


きっかけは『サザビーズで朝食を』に収録されていたお話

「サザビーズ」という有名な美術オークションの競売人であるフィリップ・フックという方の著書『サザビーズで朝食を 競売人が明かす美とお金の物語』(フィリップ・フック著/中山ゆかり訳/フィルムアート社)』を私が読んでいると、気になるエピソードがありました。

帝国博物館は現在は東京国立博物館として存在するが、今日、博物館内にはクロード・ロランの記録はない。一九二三年に東京に荒廃をもたらした関東大震災に続く混乱のなかで盗まれたのだろうか? あるいは一九四五年の終戦時に、アメリカ人によって略奪されたということがあるのだろうか?

『サザビーズで朝食を』フィリップ・フック著/フィルムアート社/P329より

これはクロード・ロランという風景画家が描いたとされる《ナポリ》と銘記された絵画がグラスゴー美術館から帝国博物館へ贈られた後に行方不明となっている、というお話でした。
これを読んだ時に「東京国立博物館が絵画を紛失してそのままにするだろうか?」というふとした疑問から、個人的に調査を始めました。


「クロード・ロラン」の記録があった!?

まず私は東京国立博物館のサイトへ行き、所蔵目録を調べ始めました。
まずはカタカナで「クロード・ロラン」と検索。
一瞬で、該当の絵画が一件ヒットしました。
それがこちらです↓(東京国立博物館のデータベースサイトへ飛びます)

ちゃんと絵画がありますね……?
一体何が起きているのでしょうか。
私はもう一度最初の検索画面に戻って「Claude Lorrain」と画家の名前をアルファベットで検索しました。
すると、ヒット件数はゼロ。
もしも『サザビーズで朝食を』の著者が英語で検索をしていたとすれば……「クロード・ロランの記録はない」と断言してしまう可能性は十分にあります。

《ナポリ》というタイトルで検索すると……?

けれど《ナポリ》というタイトルの手がかりもあります。
続けて東京国立博物館のデータベースを作品名「ナポリ」で調べると、一件ヒットがありますが、クロード・ロランとは無関係な資料でした。
さらに「naples」「napoli」で検索をすると再びヒット件数がゼロに。
私は最初にヒットしたクロード・ロランに絵画のタイトルを確認しました。

「夕日の港」

……ナポリのナの字もありません。海外の映画が邦題になると全然違うタイトルになってしまう現象と似たものを感じます。
再び『サザビーズで朝食を』を読み返すと絵画に何が描かれているのかも記載がありました。

地中海の港の光景を描いて《ナポリ》と銘記した。サイズは七六×九八センチだった。だが、この作品も今は行方不明だ。

『サザビーズで朝食を』フィリップ・フック著/フィルムアート社/P328より

「港の光景」とあるので、東京国立博物館のデータベースに出てきた「夕日の港」は行方不明の絵と内容が一致していました。けれど、行方不明の《ナポリ》の存在を示す「クロード・ロランのスケッチ」の図板はこの本に収録されていなかったので、構図などが同じなのか、この段階では判別がつきません。

大英博物館のコレクションデータベースを確認!

この本で著者は行方不明となったクロード・ロランの絵のスケッチが大英博物館の所蔵資料で確認できる、とも言っていたので、今度は大英博物館の公式サイトへ行き、データベースを検索しました。
「Claude Lorrain」と検索するとたくさんのヒットがありました。画像を全て見比べるのは大変なので、絞り込みワードを選定する必要があります。
大英博物館のデータベースのすごい所は、該当の所蔵品について詳しい来歴やその所蔵品の評価などについて学芸員からのコメントを掲載しているところです。さらに、その文章に出てくる単語はキーワードとして検索が可能となっています。行方不明になっている旨の記載があるかもしれないと考えて「lost(失われた)」という単語を「Claude Lorrain」と共に検索しました。

行方不明の絵画に似ているけれど……

検索結果には四種類ほどの図板がヒットしたので内容を確認したところ、恐らく『サザビーズで朝食を』の著者が言及していたのはこのスケッチだろう、というものを見つけました。
それがこちらです↓(大英博物館(海外のサイト)へ飛びます)

この図板の学芸さんのコメントを読んでみると「「ナポリ1636」という碑文がついている現在は失われた絵画に似ている」といったような記載が見られます。
ここまで探し当てた二つの資料の図板は無償であれば掲載が可能でしたので改めて並べてみます。

出典 東京国立博物館 ColBase:https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-697?locale=ja
出典 The British Museum : https://www.britishmuseum.org/collection/object/P_1957-1214-12

構図はかなり似ているのですが……手前の人物の人数やポーズが異なっています。東京国立博物館に収蔵されている「夕日の港」の寸法が不明なので、確実にこれが行方不明だったクロード・ロランの《ナポリ》です! と断言するのはできませんが、少なくとも東京国立博物館に一点はクロード・ロランの絵画が所蔵されていると分かりました。

ちょっと興味本位で調べてみようと思ったらまさか大英博物館のデータベースまで調べることになるとは……でも、なんだか不思議な達成感がありました。もしも東京国立博物館に立ち寄ることがあったら、学芸員さんに尋ねてみたいですね。

ここまでお読みくださりありがとうござました。
それでは、またの夜に。

古河なつみ

まずはお近くの図書館や本屋さんをぐるっと回ってみてください。あなたが本と出会える機会を得る事が私のなによりの喜びであり、活動のサポートです。