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作り方が載っているけど真似して売ってはいけない?ハンドメイド作品の書籍と著作権について元図書館司書がざっくり解説

こんばんは、古河なつみです。
先日、たくさんの手芸本を手掛けている事で有名な文化出版局販売部さんがSNS上で発表した「編集部からのお願い」というメッセージを見ました。
内容を要約すると「文化出版局さんが出版しているハンドメイド作品本に掲載されているものを模倣して作った物をフリマサイトなどで販売しないでください」というものです。下記のポストからツリーが続いているので、全文に興味がある方はお読みいただければ幸いです。

ハンドメイドを趣味にしている知り合いから「あれって本当なの? なつみちゃん司書だったなら著作権詳しいよね?」と訊かれたので「司書だからと言って法律家ではないから厳密で完璧に正しい回答じゃないけれど……」と予防線を張ったうえで伝えた著作権にまつわるざっくりとした内容を今回は綴っていきたいと思います。



著作権は「作品を初めて生み出した人が困らないため」にある

著作権をざっくりした言葉にすると「その著作物(作品)を初めてこの世に生み出した人が困らないように他人に勝手に取り扱わせない権利」です。つまり著者(作者)が「やってもいいよ!」と言っていないのに著者以外の人間が著作物(作品)をコピーしたり、売ったり、自分が作者だ!と嘘を吐いたりしてはいけません、と法律で決めています。
※他にもたくさん禁止事項があるのですが、今回はハンドメイドの書籍について大きく関わる事項をピックアップしています。

ハンドメイドの書籍は作り方をわざわざ載せているのに作っちゃダメなの?

文化出版局さんのホームページや書籍の奥付などに「私的利用すること」という文言があります(書籍によっては文章が異なるかもしれませんが「私的利用」の部分に着目してください)。小難しい単語で言われると「ん?」となるので、言い換えるとこんな感じです。

「私的利用」=「作っていいけど作品を自分と家族以外に渡さないでね」

これが「私的利用」のざっくりとした意味合いです。
ハンドメイド書籍を参考にして作った作品を赤の他人の手に渡してしまう「販売・頒布行為(売ったり、配ったりすること)」を著者は認めていませんよ、という事なのです。そのため、文化出版局さんはフリマアプリへの出品は違反行為だから止めてくださいね、とSNSでお願いの文章を出したのでしょう。なので、書籍を参考にご自身の手で作品を作る事自体を禁じている訳ではありません。家族にプレゼントとして渡すために作るのも範囲内なので基本的にはOKです。作った物を自分と関わりの薄い他人に売ったり譲ったりするのがダメなのです。


著作権を守ってもらえないと……?

最初に定義した通り、著作権が守られないと作品を作った人が困る事態が発生します。ざっくりですが下記のような出来事が考えられます。

①偽物の作品が買われ、本物の作者の作品が売れなくなってしまう
②偽物の作品の値段が低くされた場合、作者の作品が売れなくなってしまう
③偽物の作品を買った人から誤認され「粗悪品だ」とクレームを受ける
④本物の作者が今後発表予定だった色違いの作品を偽物に先取りされた
⑤偽物の対策に追われ、創作の時間や心の余裕を失ってしまった

著作権違反によって大きいダメージは「作者(著作権者)の売り上げが少なくなること」です。これは①~⑤すべてに共通します。類似作品と混同されて買われなくなってしまったり、偽物作品が低価格で販売しているために望まない価格競争をさせられるケースがあります。

ハンドメイド書籍を出版するほどの作家さんであれば、既に有名な方が多いので③の偽物出品者から買ってしまった購入者から誤解によるクレームの発生や対応を迫られる可能性があります。この場合、直接メッセージを貰えれば誤解を解く方法がありますが、ただSNSで「○○先生の作品すぐ壊れた。期待外れ」などと書きこまれてしまうと簡単には訂正できません。

そして④のように書籍に掲載されているデザインを改変したものが出品されてしまうと本物の作者が予定していたはずの新作のアイディアを潰してしまう可能性があります。

最後に見過ごされがちですが⑤のようにこれらの著作権違反行為は作者(著作者)の心をすり減らします。「だったら本なんか出さなきゃいいのに」「書籍が出る事でさらに作家さんのお名前が認知されるという宣伝効果があるんだから有名税だよ」と思う方もいるかもしれません。でも「○○さんみたいな作品を作ってみたいです!」と純粋なファンの方からコメントを貰ったり、もっとハンドクラフトを気軽に楽しめるようになれば、と良かれと思って制作過程を公開してくれた作家さんも大勢いるのです。

著作権は作家の利益を守り、心を守る法律です。
偽物の品物を作るのは誰にでも出来ますが、オリジナルの作品を自分の力で生み出せる作家さんは限られています。そういった貴重な創作家さんの暮らしを脅かさずに尊重しましょう、というのが「著作権を守りましょう」という事なのです。


著作権違反をし続けるとどうなるか。

とはいえ、お金が必要だからちょっとだけ……どうせ個人がフリマでやる範囲だし……と思う方もいらっしゃるでしょう。でも、この著作権、違反したのがバレて悪質だ!と裁判で訴えられてしまった場合は想像以上の厳罰が下る可能性があります。以下にざっくりとした罰の内容を記載します。

民事、刑事どちらでも訴えられる可能性がある(W裁判の可能性あり

・民事であれば「偽物販売を止めるような命令(差止請求)」「被害者に対してお金を支払いなさいという命令(損害賠償)」「著作権者の評判を落としているから発言内容を取り消したり謝罪文を掲載しなさい(名誉回復)」等の判決を受ける可能性がある

・「偽物を売って出した利益は被害者(本物の著作権者)に返すこと!利息もつけてね!(不当利得返還請求)」という判決もあって、著作権違反を知っててやったか、知らずにやったか、で少し金額が変わってくる

刑事上の裁判になった時は「10年以下の懲役」「1000万円以下の罰金」のどちらか、あるいは両方の罰を受ける可能性がある

大まかには上記のような罰を受ける可能性があるのです(本当はもっといっぱい罰則の種類があり、およそ100万円規模の罰金が科されます)。
これほど「ちょっと魔が差して……」と軽率な行動をした結果、厳罰が課される可能性がある犯罪は珍しいので本当に注意が必要です。(※殺人罪が懲役5年以上~なのを考えるとこの厳罰の恐ろしさが分かると思います)

著作権に関わる裁判は基本的には親告罪(相手に訴えられなければ成立しない罪)です。例外として海賊版作成は刑事上の非親告罪(被害者が訴えなくても警察が捜査して犯人を捕まえる罪)となります。

もしも今、フリマアプリで模倣品を売っているけど捕まっていない、訴えられていない、という方がいたのであれば、それはまだ出版社や著作権者に訴訟を起こされていないだけの状態です。

文化出版局さんはとても柔らかくて優しい真摯な「お願い」のメッセージを掲載する事でもう一つある事を伝えています。

あなたがやっていること、見ていますからね。

企業さんが著作権関連の声明を出している時は今までの違反者の行動について魚拓(証拠集め)は終わっていますからね、という意味の場合が多いです。文化出版局さんの今後の方針はわかりませんが、あの声明を無視してまで違反行為を続ければ、当然「悪質な違反」と法的には解釈されてしまうでしょう。

ハンドメイド作品であれ、その他のイラストや小説といった創作であれ、著作権が関わっている世界は「誰でも簡単に始められて、誰でも簡単に違反できる」という非常に自制を求められる場所です。慎重に行動するように心がける事を強くオススメします。


最後に「著作権」に興味を持ったクリエイターさんへ

これで著作権についてのざっくりとした説明は以上になります。
何度も「ざっくり」「ざっくり」言ってしまっていますが、著作権法は本当にややこしい部分が存在しているので、今回ご説明したのはほんの一部の情報です。クリエイター活動をしていて、もっと著作権について知りたい!と思った方にはこちらのような解説書を読んでみるとよいと思います。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
それでは、またの夜に。

古河なつみ




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