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洗濯機の記憶

 引越しの日が近づく。荷物を片付けながら、ひとつひとつのものにはそれぞれの記憶があることに気づく。例えばフライパンがあって、ぼくがそのフライパンについていろいろと記憶していることがあるのと同時に、フライパンもぼくに関するいろいろな記憶を持っているものと思う。お互いの記憶が一致しているかは確認が難しいけれど、同じ景色をみた瞬間はいくつもあってそのことをフライパンも覚えてくれてたらいいなと思う。

 引越しに際していろいろと手放すものがある。それはぼくに関する記憶を手放すということでもある。
 さっき、20年使った洗濯機を手放した。買った頃はまだいろいろと夢見てたなとか、そんな記憶を一瞬だけ蘇らせてくれた洗濯機は業者に引き取られていった。あの洗濯機にはどのような記憶があるのだろう。壊れて動かなくなったのだから仕方ないことなのだけど、仕方ないと思えないぼくは、どうしてそう思ってしまうのか考えながら掃除の手が止まっている。

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