見出し画像

僕は放送作家

高校を卒業して故郷の宮古島を離れ、吉本の養成所に入るため上阪した頃、眠れない夜が続いていた。
中学高校と作り続けていたネタも書けなくなり、何をしていても罪悪感が付き纏う憂鬱な毎日だった。
唯一本だけは、あらゆる雑念を一時的に忘れさせてくれる精神安定剤だった。

そんな時、装丁とタイトルに惹かれて図書館で借りた「お父さんはユーチューバー」を読んだ。

宮古島でゲストハウスを営む主人公の父・勇吾は様々な新しいことに挑戦してはすぐに投げ出してしまうのだが、何故かユーチューバーになると宣言してからはどんなにアンチから批判の声を受けても、再生回数が低く結果がでなくても活動を続ける。そこまでユーチューバーにこだわる理由が父の過去と共に明るみになる時、あまりにも自分と重なり共感する部分が多く愕然とした。

現在夢を追っている人、やりたいことがあるがくすぶっている人は是非一度読んでみてほしい。

実際僕は、この本を養成所で講師にネタ見せをする前に読み終えて人目も憚らず号泣してしまった。
タイミングの悪い事にその日の講師は生徒から「鬼」と呼ばれ恐れられる講師で、目をパンパンに腫らしたまま涙声でなんとかネタを披露した後、怒られるのを覚悟していたが「そんなに人前に出るの嫌なんやったら見学からでもいいんやで」と優しい言葉をかけてくださった。

そこには「鬼」とは対極の、久々に都会から実家に帰ってきた娘に「辛かったらいつでも帰ってきて良いんやで」と酒を勧める不器用で優しい父のような顔をしていた。

次はネタについてアドバイスが貰えるように頑張ろうと思ったと同時に、来年の夏は実家に帰って「お父さんはユーチューバー」を再読しようと思った。

あらすじ
宮古島のゲストハウス「ゆいまーる」のひとり娘、小学5年生の海香は絵を描くことが大好きで、将来は東京の美術大学に入りたいと思っていた。 楽しく毎日を送っていたが、父親の勇吾が突如「俺はユーチューバーになる!」と宣言した――。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?