見出し画像

半日間のコールド・トリップ。

きのうの東京は、すこし寒かった。

とくに夕方くらいから、肌寒さは本格のものになった。けれど、ここ数日が暑かったこともあり、なんとなくTシャツ姿のまま「寒いなあ」と思いながら仕事を続けた。いまにして思えば、この時点でなにか着ればよかった。

帰りの電車で、ちょっと頭が痛かった。駅の階段をのぼるとき、膝が震えていた。うん、これは本格的に寒いぞ。そのままスーパーに行って、鍋の材料を買った。最近気に入って週一以上のペースで食べている、鶏とキャベツの水炊きをつくることにしたのだ。

帰宅してさっそく鍋の準備に入る。この段階でもう、熱が出ていることは必定だった。測らずともわかるほど、発熱時特有の倦怠感と関節の痛みがあった。悪寒がした。読んで字の如くに悪い寒さが全身を包んでいた。ああ、早く鍋を食べたい。温かいものを腹に入れて、この悪寒の根を断ち切りたい。願いつつ、鍋の準備を急ぐ。

やがて手の甲がしびれてきた。なんだかもう、冬の公園で待ちぼうけをくらっているみたいに手が冷たい。がしがしと両手をこすりあわせつつ、どうにか鍋が完成する。

鍋の準備が整ったところで、体温計を取り出し熱を測る。37.5度。思ったよりもぜんぜん微熱だ。感覚的には40度以上出ている感じだったのに。鍋のなかからキャベツをつかもうとする箸が震える。体感と体温の微妙な不一致にもやもやしつつ、鍋を食べる。悪寒がおさまる様子は、まったくない。

念のため、もう一度熱を測ってみた。38.0度。さきほどよりは上がっているものの、このひどい悪寒を納得させる数値では、まだない。鍋を食べる。鶏肉を食べ、キャベツを食べる。豚肉まで、一緒に入れちゃう。けれども温まるのは口のなかだけで、それ以外の身体は冷えきっている。いかにも血がめぐっていない感じが、如実にある。激辛のキムチ鍋にしたほうがよかったかしら。

普段の半分も食べきらないうちに、満腹ではないもののこれ以上は入らないという状態、というか「食べる」という運動をやめて横たわりたい気持ちに襲われる。自分にしてはめずらしく、半分くらいを残した状態で食べるのをやめる。ソファに横たわり、もう一度熱を測る。38.5度。体温が体感に、すこしずつ追いついてきた。毛布をかぶり、温めてもらおうと犬を呼ぶ。警戒するような目でこちらを見た犬は、まったく寄り添おうとせず、おやつを欲したり水を欲したりしている。頭痛がひどい。

毛布にくるまって震えていると、猛烈な喉の渇きを感じてきた。買い置きしてあった、りんごジュースを飲む。りんごの香り、りんごの甘み、そして瑞々しいりんごの果汁が、全身に染みわたる。喉から胸、胸からお腹にかけての細胞が、ぷちぷち息を吹き返すような錯覚に襲われる。

そのまま1時間ほど毛布をかぶっていると、すこしずつ両の手に血がめぐりはじめた。冷えきっていた足先にも体温らしきものが戻り、わあわあ騒いでいた犬も、いつのまにか寄り添って寝ている。体温を測ると、37.8度。熱は下がりはじめた。寝室に行く前にもう一度、りんごジュースを飲む。


そして朝。起きぬけに測った体温は36.5度だった。まだ関節・筋肉の痛みはあるものの、そして頭痛はおさまっていないものの、半日間の風邪体験はなかなかスリリングなものだった。

大病だった場合の、あるいは新型コロナウイルス感染症だった場合の、さまざまな(お仕事上の)脳内シミュレーションが展開され、いろんな人に謝ったり頼み込んだり、それはそれは大変だったのである。

寒暖差のはげしいこの季節、みなさまも気をつけてくださいね。