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キャンプのたのしさをすこし、知りました。

ほぼ日のみなさんに誘われて、中学以来のキャンプに出かけた。

午後1時に集合して、翌日正午に解散。あつまってみんなで過ごす時間は、1日にも満たない。しかもなんたってぼくは、キャンプ初心者だ。まわりのみなさんのサポートあって、ようやく腹を満たし、寝る場所を確保して翌朝を迎えたキャンプだ。それどころかこれがぼくひとりだったら、いい感じのキャンプ場を見つけることさえままならなかっただろう。

—— 1日目 ——

めいめいの車でキャンプ場に集合すると、やあやあやあ。いい天気でよかったよね、なんて挨拶もそこそこに、テントの設営がはじまる。「もう?」と思わなくもないものの、たしかにテントがなければここはただの広場だ。更地といってもよい。

虫の少ない、いい季節のキャンプ場

今回ぼくらは、8人で出かけた。2人用のテントが2つ、1人用のテントが4つ、そしてまんなかにおおきなテントがひとつ。合計7つのテントがてきぱきと建てられいく。

「このおおきなテントにはだれが泊まるんですか?」。ぼくの質問に永田泰大さんは「いや、だれも泊まりません。このテントはリビングルームみたいなもんです」と答えた。リビングルーム? そのひと言で、いまおこなわれている作業のポイントを了解する。なるほどこれは、めいめいのテントを建てているのではなく、間取りを決め、部屋をつくっているのだ。

中央のテントがリビングルーム

テントが完成すると幡野広志さんが、たくさんの飲みもの(おもにお酒)を準備してくれる。どれくらいたくさんかというと、ウィスキー、日本酒、焼酎、ワイン、コーラ、炭酸水、その他もろもろだ。ソーダ割りに使うロックアイスも、大口の魔法瓶に入れてもってきてくれている。一緒にハイボールで乾杯した。すずしいはずの秋のキャンプ場、冷えたハイボールの飲み口が格別にうまい。

幡野さんのテントは薪ストーブ付き

夕方4時をまわるころにはもう、陽の光もすっかり夜の訪れを感じさせるものになる。やることもなく、やや手持ち無沙汰にしていたら幡野さんが「薪割りやってみます?」と、薪と斧とを貸してくれた。がんばって20本ほどの薪を割ってみたものの、それがけっこうなコツを要する肉体労働であることを知る。

積み上げられた薪
幡野さんの藁

さあ、そろそろ夕食の準備だ。今夜は幡野さんが、カツオの藁焼きとスペアリブをふるまってくれることになっている。手伝えることもさほどなく、むしろ邪魔をしないことが自分の仕事なのだと言い聞かせ、ハイボールを飲みつつ(これも幡野さんが用意してくれた)柿の種をかじる。

……と、この調子で書いていったらとんだ長篇旅行記になってしまう。先を急ごう。さいわいにもこのあたりからは、写真が極端に少ない。食うこととしゃべることばかりに集中して、カメラを構えることさえしていなかった。夜の写真なんて、この1枚きりだ。

おれはなにが撮りたかったのだろう

なのでここからは一部、幡野さんが撮ってくれた写真も交えて紹介する。クレジットのない写真がぼく、クレジット付きが幡野さんの写真だ。

(撮影:幡野広志)

幡野さんがつくってくれた分厚いカツオの藁焼きは、味つけが塩だけとは思えないほどうまかった。持参したワインがあっという間に空き、これまた極上なスペアリブにあわせ、ぐびぐびとビールを飲む。ほぼ日の女性陣がつくってくださったクラムチャウダーも、この時期のキャンプにぴったりのぽかぽか料理だ。

(撮影:幡野広志)

そして食後はテントから出て、焚き火を囲み、薪をくべながらあれやこれやとおしゃべりを続ける。これが都内の居酒屋だったりしたら、だれかの噂話なんかで盛り上がるのかもしれない。けれどもきれいな星を眺め、焚き火で暖をとりながらの話はいかにも簡単に世俗を離れ、自分の好きなことや、むかしから考えていたこと、普段はなかなか口にしないことへと、話題が移っていく。この夜、いちばん口にした相づちは「いいなあ」だったかもしれない。

(撮影:幡野広志)

そして時計の針が24時をまわったころ、そろそろ寝ましょうか、と簡単な後片づけがはじまる。すこしもったいないような、じゅうぶんしゃべりきったような、ふしぎな気分だ。テントに入り、寝袋にくるまれたらもう、おやすみなさい。ほとんど同時に眠りについた。

—— 2日目 ——


前日の夜、「明日は何時くらいに起きるんですか?」と訊いたらみなさん、「6時か6時半くらいかなあ」とおっしゃっていた。まじかよ、無理だろ、と思っていたものの6時半、しっかりちゃんと、目が覚める。テントの天井が陽に白く染まり、無理やりではなく自然に目を覚まさせてくれるのだ。

澄んだ朝の向こうの富士山

この日の朝食は、幡野さんが羽釜でごはんを炊き、ぼくが豚汁をつくることになっていた。豚汁といえば、ぼくがいちばん好きな家庭料理。自分のためにもみんなのためにも、失敗するわけにはいかない。

幡野さんの羽釜ごはんは、なるほどこれはハマるわけだ、というくらいにおいしいものだった。甘みというよりも、うまみ。どういうわけだかコクがあるのだ、ごはんに。よほどにすごい銘柄米を使っているのかと思いきや、お米はほぼ日さんが準備してくれたもので、幡野さんは銘柄も知らないまま炊いていたのだという。素材が大事なのはもちろん、調理法ひとつでここまで変わるのだ(ちなみに豚汁のほうも、どうにかできた)。

(撮影:幡野広志)
(撮影:幡野広志)

なんだか食いものの話ばかりになってしまった気がするものの、そろそろ撤収の時間だ。なんとなくのまとめを書いておきたい。

撤収の準備がはじまる

幡野さんや永田さんとは、これまで何度も一緒に旅行をしてきた。ネパールに行ったこともあるし、国内をのんびり車旅したこともあれば、台風をくぐり抜けて北海道に行ったこともある。

そういう「旅行」と今回のキャンプは、なにか決定的に違う、と思った。行き先の違いとか、寝る場所の違いとか、アウトドアとインドアの違いとか、そういうことじゃない。


メンバー全員の、「協力」がそこにあるのだ。

(撮影:幡野広志)
(撮影:幡野広志)
(撮影:幡野広志)

全員がゲストでありながら、同時にホストでもあるふしぎ。自分の快適をつくることが、だれかの快適をつくることにもつながる循環の妙味。サービスを受ける側ではなく、サービスをつくる側にも立って動くことが求められる幾多の状況。ひと言でいうなら「協力」。

なるほど旅館やホテルでの旅行に足りなかったものは、これだったのか。わかりやすく言うとみんな、ちゃんと「働いている」のだ。しかもそれが「働かざる者食うべからず」的な決まりごととしてそうしているのではなく、ごく当たり前のこととして、たのしそうに働いている。貢献を提供し、交換し合っている。準備や掃除や片づけが苦手なぼくも含めて。

キャンプはたのしい。

ソロキャンプもたのしそうだったけれども、仲間たちとのキャンプにはまた別のたのしさがある。はじめましての人たちがいるキャンプであっても、ものの数時間で「協力」の関係がはじまる。豊かな自然に触れるとか、きれいな空気を吸うとかよりも、そういう人と人の関係がとても新鮮で、魅力的なものに感じられた。

解散して車に乗り込む際、ほぼ日のみなさんに「また誘ってください」と、ふつうに声が出た。また行きたい、次はこんな料理を食べたい、つくりたいと、心底思った。

さようなら。また行きましょう


ちなみに誘ってくださったのは、ほぼ日のキャンププロジェクト「yozora」チームのみなさん。泊まらせてもらった「kohaku」のテントは見た目にもかっこよく、すこぶる快適なものでした。当日の模様や「yozora」プロジェクトの諸々は、こちらのインスタから。