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海無し県に生まれて【海】

書くンジャーズ日曜日担当のふむふむです。

先週は体調不良のため書けずに終わってしまったため、今日はまとめて2週分をupします。できるかな?

まずは先週のテーマ【海】。

私は海無し県の生まれ。それでも隣接する県は海があるので、大人になれば少し遠出のドライブなどで難なく海を見ることはできる。

ただ、子どもの頃は違った。私は自営業の家に生まれ、土日ももちろんないくらいに父も母も忙しく働いていたため、普段のお出かけはそれこそ街のデパートへ数時間繰り出すことくらい。我が家にとって夏休みの3日間、毎年静岡の伊豆に行くのが一番のレジャーであった。

小学校1年生の夏、水平線を眺め、「ああ、地球って本当に丸いんだ」とその時初めて気づいた。多分それまでは近くの波打ち際にしか興味を持っていなかったんだろう。遠くに見える水平線に手を伸ばして叫んだのを覚えている。

当時は夏休み明けに、クラスで一人ずつ夏の思い出を発表する場面があった。その時にクラスの教壇に立って「旅行で海に行って、水平線が丸いのに驚きました。地球は本当に丸いんだと思いました」と、クラスのみんなにその時の驚きを伝えたくて、自信満々に話したのを思い出す。

ただ、その時にはある男子に「なにかっこつけてんだよ」と言われたことまで覚えている。決してかっこつけて言ったわけではなく、実体験として丸さに気づいて、その時の鮮烈な思いを伝えたかっただけだった。ただ、海無し県に住む子供で、小学1年生という若さの中では、まだ海を体験したことのない子も多かったのだ。

こちらも同じく幼い小学1年生、そんなことまで気づくはずもなく、何故そんなふうに言われたのかとショックだけが残り、あんなに嬉しかった発見も自分だけのものにしておけばよかったと悔し涙が流れた。

***

時は経ち、すっかり大きくなった小学6年生、私たちは東京、横浜、鎌倉へと修学旅行に出発した。最初は先生の話を聞いたり、おしゃべりしたり、明星の付録の歌本を持ってみんなで流行りの歌を歌ったりしながら目的地を目指していた。

そんな時、誰かが「海だ!」と叫ぶと、皆、窓の方にくぎ付けになった。そして一瞬の静寂。今考えると、まるで新幹線から富士山が見えた時のような、あの車内の雰囲気によく似ている。

皆、窓の外に見える海を見つめ、ある者は潮の香りを楽しみ、ある者は遠くに見える船を見つけ、ほんの束の間、それぞれが普段見ることのできない海を楽しんだ。

***

あれから数十年の年月が流れ、私は今海の近くに住んでいる。それでもまだ、海に対してはよそ者の、海無し県に住んでいたあの頃の気持ちとあまり変わりがない。

乗り物に乗っている時に見える海、買い物に行った時に感じる潮の香り、どれもこれもついあの時の「海だ!」の一言で、みんなで見つめた時と同じ思いで眺めてしまう。

恐らく、この先も変わらず、特別な思いで海を眺めることになるだろう。

憧れとは少し違った、海への想い。



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