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共同運営マガジン~ふくのわ~

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「繋がる、広がる、楽しく続ける」を目的に発信します! 【「ふくのわ」由来】 「ふく」は「福(幸せ)」 「わ」は「輪」「和」「環」 福(幸せ)な繋がりが広まっていくことを願って … もっと読む
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#歴史時代小説

ふくふくの共同運営マガジン『ふくのわ』はじめました

ついに「共同運営マガジン」をはじめました!参加は無料です! マガジン名は『ふくのわ』です。 立ち上げた理由note歴約6年。「みんなで創作を続けることが楽しい」とシンプルに感じたので「良いことは広めよう!」と思い立ち上げました! 私自身、記事を書いても書いても鳴かず飛ばずの時期がありました。それでも創作を続けることが出来ているのは、支えてくれた方たちがいたおかげです。 一人じゃ続かない。みんなとなら続けられる。みんなとなら可能性を広げられる。 「可能性にわくわくした

【連載小説】小五郎は逃げない 第48話 (最終話)

武士たちの選択 5/5 その後、新選組に捕えられた岡田以蔵は、土佐藩へ強制送還された。新選組は桂を逃がしたことを世間に広められることを恐れて、以蔵が強盗目的に商家に押し入ったところを偶然捕えたと嘘の証言をした。以蔵は土佐藩士からの激しい取り調べを受け、拷問の末に武市半平太の指示により、数々の暗殺を企ててきたことを自白した。これにより、武市半平太は切腹、岡田以蔵は斬首され二十七歳の生涯を閉じた。以蔵は武市の裏切りに合い、最初から自白するつもりだったのかもしれない。しかし、彼が殺

【連載小説】小五郎は逃げない 第46話

武士たちの選択 3/5「犬は命乞いするもんじゃと思っていたが、わしらにしっぽを振らんのか。犬はそこで遠吠えでもしていろ」  近藤は以蔵を見下すように言った。 「えらい上からものを言うやつやき。新選組がどれほど偉いんかえ。おまんらこそ、幕府にしっぽを振り倒してんのじゃないかえ。」 「何だとぉ、もう一回言ってみろっ」  以蔵の挑発に乗って、何人かの隊士が鯉口を切った。 「何回でも言うちゃるぜよ。おまんらこそ何の大義名分も持っちょらん、幕府に言われるまま人を殺すしか能がない、あほの

【連載小説】小五郎は逃げない 第45話

武士たちの選択 2/5 桂は以蔵に構うことなく、土方に襲い掛かった。凄まじい気迫と共に、上段から刀を振り降ろした。まともに受け止めた土方は、危うく後ろに飛ばされそうになったが、何とか堪えて鍔迫り合いに持ち込んだ。それを桂は突き放すと、次から次へと土方に真剣を打ち込んだ。桂の強靭な身体から繰り出される一刀一刀が重く、それに体力が底知れないために、攻撃が尽きることがない。桂の攻撃を受け止めているうちに、土方は腕が痺れ始めた。以蔵は他の隊士たちに刀を向けて、桂の戦闘が邪魔されないよ

【連載小説】小五郎は逃げない 第44話

武士たちの選択 1/5 幾松は小舟を六条河原の岸に着けようと、必死に川の底を竹の棒で突いた。女性にとっては川の流れが速く、もたもたしていると目的地を大きく行き過ぎてしまう。しかし、なかなか思うように船が岸に近付かない。幾松は桂ともう一度会い、共に地の果てまで逃げる覚悟はできていた。桂は必ず来る。こんな所でもたついている訳にはいかない。自分にそう言い聞かせ、持てる力を振り絞った。  やっとのことで岸に辿り着き、船を岸に引っ張り上げるとしばらく船の影に隠れていた。しばらくすると、

【連載小説】小五郎は逃げない 第42話

闘走 4/5 残りは四人。桂と以蔵は二刀流のまま対峙した。何と敵の隊士は、一人が以蔵の足を止め、桂に三人で攻撃を仕掛けてきた。桂は一人が囮になり、残った二人が仕留めにくる相手の攻撃パターンを読んでいた。桂は囮の攻撃を片腕で受け止めると、気配だけを頼りに後方に木刀を突き出した。その一撃が見事に敵隊士の眉間を捉えた。その隊士はそのまま気絶した。桂は鍔迫り合いから対峙した隊士を押し返し、一気に仕留めようとした時、何かに足が引っ張られて動けなくなった。足元を見てみると、先の攻撃で動け

【連載小説】小五郎は逃げない 第41話

闘走 3/5「以蔵殿、斬り込むか」 「いや、相手は二十人程おるきに。まともに斬り合っては、こっちに勝機はないぜよ。」 「トラはもう走れない。それでは、敵を分散させることは難しいぞ」 「わかっちゅうがぁ。こいつらの刀を奪い取って走れば、こっちの耐力が消耗しゆう。とにかく小五郎は、もう大回りをするのはやめて河原町通に出たら南に走れ。ほいで次の四条通の戦闘予定場所で待っちょれ」 「どうするつもりだ」 「うまくいくがどうかわからんけんど、これでいくしないぜよ。トラは隠れちょれ。小五郎

【連載小説】小五郎は逃げない 第37話

奪還 5/6 桂はこの戦いが終われば、寅之助を以蔵から引き取りたいと思っていた。以蔵も一緒に長州に来てくれると言っている。長州に帰れば、以蔵にはやってもらいたいことがたくさんある。高杉が画策している兵力の増強に、以蔵の力が必要になる。以蔵の戦闘スキルを、新たな兵に伝授することができれば、個々に高い戦闘能力を持った無敵の兵団を作ることができる。以蔵にはぜひその団長になってもらいたい。桂はその指揮官となる。そうなれば、以蔵は日本中を連戦して回ることになり、寅之助の面倒を見ることが

【連載小説】小五郎は逃げない 第36話

奪還 4/6 以蔵の方はとにかく速い。最初に対峙した隊士の正面から接近戦に持ち込むと見せかけ、以蔵のスピードについていけないその隊士は、刀で以蔵の一刀を受け止めようとしたところで、以蔵は相手の刀を弾き飛ばすと同時に背後に回り込み、低い姿勢のまま真一文字に相手のふくらはぎのじん帯を切断した。これも一瞬の勝負だった。呆気にとられた二人の隊士は、一人は右後方から、もう一人は左後方から、同時に以蔵に切りかかった。以蔵は苦痛に顔をゆがめて倒れている隊士の髷を掴んで無理やり引き起こし、右

【連載小説】小五郎は逃げない 第35話

奪還 3/6 土手を駆け上がった沖田たちは、目下で右往左往している隊士たちの姿を見た。 「なんだ、桂などいないではないか。一体だれが嘘を言ったのだ」  斎藤が怪訝そうに言った。 「何がどうなっているのだ。だれかに担がれたのか。しかし、この河原にいたのは我々新選組の隊士だけだったはずだが・・・」  永倉も状況が全く飲み込めなかった。 「だれがおれたちを騙したのだ」  土手の上から斎藤が、隊士の一人に言った。 「わかりません。見慣れない隊士が突然叫びながら走りだしたので・・・。し

【連載小説】小五郎は逃げない 第34話

奪還 2/6 やがて迎撃隊は三条河原に差し掛かった。土方らの心に諦めムードが漂った。土方は一人思った。自分が桂の立場であれば、どうしただろうか。桂と幾松の関係は詳しく知らないが、この女は桂を守るために命を懸けていることだけは知っている。いつ斬り捨てられるかもしれない状況で、近藤や土方にあれだけの悪態をつけるなど、女にしておくにはもったいない度胸をしている、執拗かつ厳しい取り調べにも耐えた。  土方は幾松の芯の強さを見抜いていた。自分には新選組を立派な佐幕組織にするという大

【連載小説】小五郎は逃げない 第33話

奪還 1/6「総司、永倉、斎藤、そろそろ行くぞ」  土方の口調はいつになく重々しかった。食事の速い土方は、自分が朝食を食べ終わると、まだ食べ終わっていない隊長たちのことはおかまいなしだった。沖田たちは慌てて飯をのどにかき込んだ。  近藤や土方でも勝てるかわからない相手が、いつどのようにして襲ってくるかわからない。敵を待ち受ける立場でありながら、各隊士に恐怖心が蔓延していた。相手は日本でも有数の剣豪である。しかも、必ず襲ってくるとわかっている。そのような空気が漂うのは、無理

【連載小説】小五郎は逃げない 第32話

決別 3/3 子供の頃はよく友達にいじめられていた。しかし、悔しくて泣いた記憶などなかった。剣術を始めてから誰にも負けたことがなかったが、龍馬に始めて試合で負けた時も悔し涙など流すことはなかった。池田屋で新選組の襲撃を受け、仲間を置いて逃げた時に、走りながら泣いていた気がする。友が死に行く姿を思い浮かべると、意識することなく泣いていた気がする。自分が苦しくとも、辛くとも泣くことはなかった。しかし、親愛なる友の苦しみには耐えきれない、耐えきれずに涙してしまう。桂はそういう男だっ

【連載小説】小五郎は逃げない 第31話

決別 2/3 蒸し暑い夏の夜だった。珍しく京の町にも蛍が舞っていた。以蔵は一人、深い悲しみに包まれながらうす暗い闇の中を歩いていた。蛍が放つ微かな灯りが、以蔵の前で怪しげな人影を映した。  最初に人を殺した時のことは、なぜかよく覚えていた。土佐の道場で剣術の稽古に励んでいたころから、以蔵は武市に心酔していた。いっしょに京に上ってきた動機は、武市の教えを乞いながら、身の回りの世話ができればいい、その程度にしか考えていなかった。ある日、武市から人を殺してくれと頭を下げられた。