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ふくしデザインゼミのはじまり|トーク「ふくしデザインゼミ 生誕の背景」レポート【ふくしデザインゼミ展 2023】

 3月21日、ふくしデザインゼミ展が幕を開けました。どんな出会いがあるのだろう、と待ち望んだオープンから1時間後、12名の来場者に囲まれてオープニングトーク「ふくしデザインゼミ 生誕の背景」が始まりました。
立ち上げから協働してきた3名、社会福祉法人武蔵野会の津川志帆さん、designと代表の田中悠介さん、SOCIAL WORKERS LAB(以下SWLAB)のディレクターであり、ふくしデザインゼミセンター設立準備室の今津新之助さんによるざっくばらんな語り。福祉と社会の関係をリデザインする実践的な社会教育プログラム「ふくしデザインゼミ」はどのようにして生まれたのか、これまでの経緯、そしてこれからに思いを馳せた1時間半をレポートします。(学生編集部・飯田)


生誕前夜

今津:今日は、噂によるとものすごく日取りが良いらしいんですよ。1年で一番良いくらいの日だそうです。そんな日に武蔵野会の津川さんと、デザイナーの田中さんとご一緒させていただき、このふくしデザインゼミがどういう背景ではじまったのかを話していきます。これまでの熱もみなさんとさらに温めていけたらなと思います。

ぼくと田中さんは、今回武蔵野会と一緒に主催をしているSWLABでずっと活動してきて、「あ、こういうのも福祉なんだ」って感じてもらえるような企画をやってきています。
そんな田中さんが、福祉を学んでいる学生とデザイン芸術や総合的なことを学んでいる学生たちとが関わるプログラムを一緒にできないですか?と発案してくれたのが、このふくしデザインゼミのきっかけでした。これをやろうと思われた背景についてお話いただけますか。

田中:はい。今津さんと一緒に、実は自分も大きな意味では福祉に関わっているんだよということを伝えていくようなプロジェクトをやるなかで、福祉的な考え方やデザイン的な考え方をそれぞれ他の業界に取り入れられたらすごく豊かになるんじゃないかと思っていて、それをプロジェクトとしてできないかって考えていたんですよね。それと、コロナで大学の授業とかも全部オンラインで、学びの場が受け身のものばっかりになっているんじゃないかという課題感もあって、学生たちが活動してアウトプットする学びの場をつくれないかなと企画を武蔵野会さんに持ち込みました。

今津:津川さんは企画をきいて、どう思われたんですか。

津川:最初は武蔵野会としてそこにどういう風に関わるのか、ちょっとイメージが湧かなかったんです。ただ、武蔵野会は地域共生とか地域福祉とかを考えて仕事をしていて、それが地域の人に伝わっていなかったり、職員も自分たちの施設のことはよく知っているけれども、他の施設で何をやっているか知らないといった課題がありました。地域の人にも、法人内の職員同士でも、一生懸命さを知ってもらえるようなことができそうだと思って、やってみようとなりました。

「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」

今津:津川さんの図鑑のなかでも武蔵野会の理念がすごく大事だと語られていて、津川さん自身も働いている一人ひとりが大事にしていてほしいってよく言われているんですけど、その理念がこのプロジェクトや生誕の背景に関係していると思います。その辺りのについて教えていただけますか。

津川:武蔵野会には「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」という理念があるんです。私たちのなかでは「自分を愛するように」を「自己覚知」という言葉で表していて、「あなたの隣人を愛せよ」を「相互変容」と言っています。自分を理解することで隣の人のことも理解できるようになって、理解ができたところで自分が変われば周りの人も変わっていくってことを表していて、私はすごく好きで素晴らしいなと思っているんですよね。そして、本当は社会のなかでもそういう風になったらいいのになと思うんです。

法人内で理念は理解されていればいいっていう風に私たちは考えがちだったんですけど、今津さんは法人外でも理解を深めてもらうべきだって言ってくれた。そうすることで、社会や武蔵野会だけじゃなく、田中さんが言う教育にとっても、いいことが起こるかもしれないからやっていこうかという話になったんです。

今津:田中さん。ふくしデザインゼミのテーマが「福祉をひらく」なんですが、津川さんの話とつながるところはありますか。

田中:そうですね。武蔵野会の理念が外に伝わるというのは、デザイン的な考えや福祉的な考え方がいろんな業界に入ってほしいっていう話と一緒だと思います。それぞれのなかで完結しているのってもったいないことで、それぞれの分野や領域が越境しあって混ざり合うことで豊かなものを生み出すんじゃないかなと思っています。結局、境界線をきっちり引いてしまうから分断が起こるっていうこともあると思うんですよ。そういう意味で言うと今回は「武蔵野会に関わる人図鑑をつくろう」の「に関わる」という部分。立場や組織は外なんだけど、仲間でもある法人外の人を含めて境界を曖昧にすることをプロジェクトを通してもやってきました。

8ヶ月をふりかえる

今津:お二人に今日の場にいたるまで、やってみての感想をいただきたいと思います。

田中:いやあ、思ったより過酷だったなと(笑)

津川:最初考えていたよりみんな苦労したし、がんばったし、本当にありがたかったなと思っています。ここまで本当によく辿り着いたなという感想です。編集者の小松理虔さんも言ってましたけど、自分でやっちゃえばすごく楽だしすぐ終わるんだけど、学生さんと一緒にやるからには一緒にまとめ上げたいって。田中さんも自分一人ではなくて学生と一緒の仕事という風にやってくださったので、より時間も使ったでしょうし。

田中:ぼくは自分が学生の時にチャレンジする場とか、いろんな大人との出会いとかもっとあったらよかったなと思うし、そういう場がどんどんできたらいいんじゃないかなと純粋に思ってやっている感じでした。福祉に興味がある学生とデザインに興味がある学生に集まってほしいって思ったのも、デザインの学生はプロジェクトに自分から参加するような積極的な子が多いなってイメージがあって、福祉の学生は控え目だけど真面目にこつこつやる子が多いなみたいに、それぞれいいところがあるんだけど、それぞれ足りないところを補完しあうような関係もあったらいいなと思っていたんですよね。

今後に向けて!

今津:最後に、今後について考えていることはありますか。

田中:今回18人取材したうち、武蔵野会さんの職員でいうと12,3人とかで、全体の職員数が1200だから100分の1とかしか取材してないんですよね。例えば武蔵野会さんの職員100人分の図鑑ができると「武蔵野会はこういう人の集まりだ」みたいなのが見えてくるんじゃないかなと思っています。あとは、境界線の話にもつながるんですけど、武蔵野会で始まった図鑑づくりがいろんなところで行われて「福祉に関わる100人の図鑑」みたいになっても面白いのかなと思います。

津川:同じ形なのか、また別の形なのかはわからないですけど、細くても長くつづけられたらいいかなと思っています。もうちょっとしんどくない形にしたいですね(笑)

道はまだはじまったばかり

 ふくしデザインゼミは「福祉をひらく」をテーマに、福祉と社会の関係をリデザインしようと試みてきました。一筋縄ではいかない道のりを一歩ずつ踏みしめてきたのだと思います。所属も地域も異なる多様な方が会場に足を運び、福祉やデザインについて思いを馳せる。そんな時間もまた、福祉をひらく道のりのなかにあるのではないでしょうか。まだまだ道はつづきます。ふくしデザインゼミはこれからも、思いを同じくする仲間と共に「福祉に関わる人」の輪を広げていきます。

~登壇者のプロフィール~

津川 志帆(つがわ しほ)
社会福祉法人武蔵野会 本部課長
岩手県出身、神奈川県育ち。子どもの頃は漠然と「人のためになる仕事につきたい」と思っていた。しかし就職活動ではせっかく勉強した経営学や簿記を活かした仕事に就こうと考えて活動するも、就職難時代で苦戦。そんななか紹介してもらった福祉法人の事務職に子どもの頃の想いを重ねながら就職。措置から障害事業、介護事業、様々な経験を経て本部へ異動。本部では、武蔵野会の施設が段々と増えていくのにあくせくとしつつ、現在に至る。

田中 悠介(たなか ゆうすけ)
design と 代表/デザイナー
1985年大阪生まれ。大学、大学院で建築を学ぶも、建物を建てるという手法だけでなく、あらゆる領域の課題に対してニュートラルな視点を持って解決できるようになりたいと思い、デザイナーになることを決意。数社のデザイン事務所を経て、2016年に「designと」を設立。デザインの分野にしばられず、さまざまな領域の課題に取り組む。SWLABにおいては、プロジェクト全体のアートディレクション、デザインを担当。

今津 新之助(いまづ しんのすけ)
ふくしデザインセンター 設立準備室/株式会社bokumin 代表取締役
1976年大阪府生まれ。大学卒業後に沖縄に移住し、人づくり・仕事づくり・地域づくりを行う多中心志向のコンテクスト・カンパニーを経営。2022年より京都に拠点を移し、株式会社bokuminを創業。分野・領域を飛び越え、多様なアクターとの対話・協働によるプロジェクト開発やチームづくり、一人ひとりの持ち味と可能性が発揮される場や仕事づくりに取り組む。

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