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つながりつながるまちづくり|トーク「ふくし×まちづくり」レポート【ふくしデザインゼミ展 2023】

  ふくしデザインゼミ、初日夜。すっかり窓の外の暗くなった展示会場に、人の姿が増えてきました。ふくしデザインゼミ展では夜も連日トークが繰り広げられます。

 初日のテーマは「ふくし×まちづくり」。ゲストは、八王子でまちづくりに取り組む及川賢一さん(NPO法人AKITEN)と楢島杏奈さん(はちおうじ若者会議)。及川さんは展示会場となっているギャラリーのオーナーで、楢島さんはインタビューにもご協力いただき「武蔵野会に関わる人図鑑」に登場します。
 そんなお二方に学生編集部の飯田千晴さんも混ざり、福祉とまちづくりの接点を探りました。(学生編集部・本間)


まちをつくるという生き方

 ゲストのお二人は、それぞれ二足のわらじでまちと向き合っていました。AKITENの代表の及川さんのもう一つの顔は、八王子市議会議員です。

及川:私は30歳ぐらいのとき、まちおこしをしたいと思って生まれ育った八王子に戻ってきて、動きやすい民間と行政に提言していける議員とを使い分けながらまちづくりをしてきました。
一人ひとり、なりたい自分があって、そうなれていない今の自分があって、そのギャップがあると思います。まちも同じで、八王子の理想像と現状、その間のギャップがあります。私のNPOの活動では、アートやデザインの力でまちの理想像を提案し、現在のまちの姿と理想像とのギャップの解消にするため、行政とも連携しながら課題解決策を実行しています。NPOで解決策を出しながら、議会では市議会議員として「こういう風にした方がいいんじゃないですか」と提言しています。

力強く八王子への思いを語る及川さん

 もう一人のゲスト、楢島さんは八王子市の福祉部高齢者いきいき課に所属する市役所職員の顔をもちながら、個人活動として、はちおうじ若者会議(通称、はちわか)を立ち上げて、若者の力で八王子を盛り上げておられます。

楢島:私は公務員の両親の影響を受けて役人になり、文字通り「役に立つ人」になれるように日々心掛けています。人や地域の役に立つためにもっと何かやりたいという思いで、2022年7月に個人活動としてはちおうじ若者会議を立ち上げました。
はちわかは、月1~2回の頻度で活動していて、去年印象的だったのは、東京に来ているウクライナの方との交流企画です。一緒に高尾山に登って世界平和のご祈祷をしたのですが、ウクライナの人と実際につながれたことで、世界平和に向けて自分たちに何ができるだろうとしっかりと考えるきっかけにもなりました。公務員としても個人としても役に立つ人になれるよう、どんどんインプットもアウトプットもしていけたらと思っているところです。

自己紹介中の楢島さん

出会い、つながり、何かが生まれる

 そんなお二人の話のなかで、共通して大切にされているものの一つには「つながり」がありました。

楢島:つながるって、次につながる推進力だなと思っています。ウクライナの人とつながったことも、世界平和に向けて何かを行っていく一歩だったと思っています。
最初は私一人で立ち上げたはちわかも、今30人いるんですよ。メンバーも学生から社会人、経営者の方もいたり、本当に多様で面白いし、つながることで可能性がますます広がっているのを感じています。なので、本当につながることは大事だなと思って今動いています。

つながることによって、自分ごとが広がり、世界が広がっていく体験は、ふくしデザインゼミのなかでも起きていました。

飯田:対岸の火事だったロシアとウクライナの戦争、漠然としたイメージだった世界平和が、つながること、知ることによって、自分ごとになる。その自分ごとになるという感覚は、ふくしデザインゼミでいうところ漢字の福祉がひらがなのふくしになる、「ふくしをひらく」ことにも通じている気がします。
ふくしデザインゼミでは、取材する/される、教える/教えられるという関係性を越えて、一緒につくっていく、ともに動いていく関係性を重視していました。だからこそ、お互いにとっての自分ごとが増え、福祉が他人ごとから自分ごとになったりもしたのだと思います。8ヶ月の活動を通して、福祉やデザインといった分野を横断してつながり、学び合うことで、福祉学生がデザイン的視点を持てたり、デザイン学生が福祉的視点をもてたり、だんだん視野が広がってきました。

ふくしデザインゼミで起きていたことを紹介する飯田さん

 ふくしデザインゼミでは、する/されるの関係性を越え、新たなつながりを生んできたからこそ、ふくしを自分ごと化する仲間が広がってきました。

つながりつながるまちづくり

及川:目の前で困ってる人がいたら手を差し伸べる。それだけでも大きく変わってくると思います。地域にとっても自分にとっても得られる付加価値をちょっとやってみるだけでぼくはいいと思っています。そしてもう一歩地域にひらかれたことをしようと思った人たちに、専門家がつながって、サポートしていけるといいですね。自分たちのまちを自分たちで住みやすくすることが、楽しく、生きがいになっていくように。

 これまで「誰か」がやっていたことを自分ごととしてやっていく。それは義務感からではなく、楽しいからみんなでやっていけるものなのだと思います。

楢島:ふくしって、結局人だと思うんです。人人と人とがつながり、輪が広がることで、他人ごとが自分ごとに変わっていく。身近なことでいえば、近所の人とのつながりを深めることで、地震があったときに「近所の人大丈夫かな」と思うことができる。つながっていれば、その人のことを思うきっかけになる。でも知らなかったら、近所の方を思うってことはあんまりないと思うんです。

 人と人とをむすぶつながりという線は、想像できる範囲を広げ、世界と自分とをむすびつけていく補助線になります。
 ふくしデザインゼミでは、8ヶ月の活動を通して生まれたり浮かび上がったりした人間関係を「武蔵野会に関わる人の相関図」にまとめました。その線をもう一つ伸ばせば、このトークに来場してくださった方々も相関図に入り、ふくしの、まちの関係者になります。立場や経歴などを越えて集いつながるふくしデザインゼミ展も一つの、それぞれの自分ごとを広げる、まちづくりの現場であり、ふくしの現場なのではないでしょうか。

「武蔵野会に関わる人相関図」
この記事を読んでくれた方も、線を伸ばせばこの相関図に仲間入り?

及川:自分の人生に福祉がどういう風に訪れるのかをまだ想像しづらい人もたくさんおられると思います。けれど、年齢を重ねれば自分自身が福祉が必要になるし、自分の家族が福祉が必要になることもあります。5年後10年後、30年後なのかわからないけれど、そういう状況に自分が置かれたときのことを、自分が福祉が必要になるまでにリアルに考えることが大事だと思っています。どういう社会やまちだといいのかな、その状態を作るのにどれぐらいの時間・人・つながりが必要なのかな、って。そんなことを考えるなかで、「自分一人で何とかする」「専門家に頼んで丸投げする」じゃない思考、「これを自分は知っておかなきゃいけない」「誰かとつながっておかなきゃいけない」と考えるようになって、新しいつながりが生まれるのではないかと。自分の人生を想像することが、ひらがなのふくしにつながっていけばいいなと思っています。

 誰かとつながり、自分ごとを広げながら、自分にできることをおこなう。そんな風に楽しみながらみんなで、まちを理想へ近づけ、自分らしい暮らし、日々の幸せ、すなわち「ふくし」へと近づいていければいいですね。


~登壇者プロフィール~

及川 賢一 (おいかわ けんいち)
NPO法人AKITEN代表理事

1980年八王子市生まれ。東京都立大学大学院 (経営学修士) 修了後、ソニー(株)、経営コンサルティング会社を経て、現職。民間と行政、両面からのまちづくりに取り組む。AKITEN代表として、アートプロジェクトおよび、ギャラリー/アーティストインレジデンスを運営するほか、デザインとアートを切り口に、食や繊維、林業、福祉など様々なプロジェクトに関わる。

楢島 杏奈(ならしま きょうな)
はちおうじ若者会議 代表/八王子市高齢者いきいき課

市民のために働く両親の姿に憧れて、自らも公務員に。他市の同世代の奮闘に刺激され、市役所で働く傍ら個人活動として若者と八王子の未来を考える「はちおうじ若者会議」(はちわか)を立ち上げた。行政とはちわか、2つの視点で「誰かのために、地域のために活動したい」と語る。

飯田 千晴(いいだ ちはる)
慶應義塾大学大学院メ ディアデザイン研究科 修士1年

1998年富山県富山市生まれ。「千晴」の「晴」で、通称サニー。暮らしやすさ、生きやすさについて考える中で、導かれるように大学で福祉を学び始める。「誰もが自分らしく暮らせる社会」のためのユニバーサルデザインに出会い関連資格を独学で取得。徐々に福祉とデザインの親和性に触れ、一昨年4月に慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に進学。ふくしデザインゼミでの活動を題材に研究活動も行う。趣味はハンドメイド。

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