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採用=仲間さがし?|トーク「支援する/される、採用する/されるという関係を越える」レポート【ふくしデザインゼミ展 2023】

 みなさんは、「就職活動」と聞くと、どんなものを思い浮かべるでしょうか?ナビサイトに登録して、エントリーシートを書いて、スーツを着て…普段とは違う、きちんとした自分を見せなければならない。そんな窮屈なものと捉えている人も多いのではないでしょうか。しかし、社会福祉法人武蔵野会は、従来の就活を問い直した、新しい採用活動、その名も「仲間さがし」を今年から始めました。

 本記事では、ふくしデザインゼミ展の関連トークとして3月24日(金)に武蔵野会本部で開催されたトークイベント「支援する/される、採用する/されるという関係を越える」をレポートします。武蔵野会からは、菅春菜さん(仲間さがし担当)、山田真由美さん(ことわらない相談員)の2名が登壇し、ふくしデザインゼミの講師・小松理虔さんとともに、「仲間さがし」誕生の背景を中心に、福祉の現場を取り巻く現場や課題から、今後の福祉や採用のあり方に迫りました。 (学生編集部・菊池)


「仲間さがし」って…?

 武蔵野会が今年から新たに始めた採用活動「仲間さがし」では、法人と学生とが、採用する/されるの関係を越え、互いの声に耳を傾け合い、共通の理念を掲げた「仲間」として出会っていくことを目指しています。菅春菜さんは、武蔵野会でこれまで3年間採用を担当するなかで、悩みを抱えながら学生と向き合ってきました。

菅:仲間さがしというコンセプトは、ポッと出てきたものかというと、そうは思っていません。仲間さがしで大切にしている話のような形は、これまで採用に関わられてきた方々も以前からされていました。けれど、就職活動の形もどんどん変わるなかで悩んでいる学生さんも増えましたし、もう少しできることがあるんじゃないかと感じていました。しっかり学生の声を聞くために個別性を高めてみると、一方で、同時期に活動している人との横のつながりが見えなかったり、模索しつつも課題がずっと出ていました。そういうなかで昨年話し合いを重ねてきて、大事にしてきていた方向性を言葉にしてもらったのが、「仲間さがし」かなと思っています。

菅さん

小松:これまで大事にしてきたものが確かな形をもって見えてきたという感じなんですね。仲間さがしを意識するようになって、学生との向き合い方に変化はありますか。

菅:いままでは、「武蔵野会ってこうですよ!」って、武蔵野会の考え方・条件などを売り子のように発信してたところから、学生さんの話を聞く姿勢をもっと大事にするようになりました。

小松:もちろんいまも発信はしているけど、学生たちがいま何で悩んでいるのかや、困りごととか、就職への不安などに、より耳を傾けるようになったのですね。

する/されるの関係を越える

 武蔵野会でことわらない相談員を務める山田さんは、以前から、支援する/されるのような二つにわかれた関係ではなく、お互いさまの関係を武蔵野会で大切にしていると仰っていました。支援現場で、支援する/されるの関係を越えるように、採用活動での、採用する/されるの関係を乗り越えようとする新たな挑戦を、山田さんは、相談のシーンにも重ねながらみておられるそうです。

山田:相談の仕事では、「とにかく大変なんです」「困ってるんです」と来られたクライアントさんが、実は一つのことに悩んでるっていうより、色々なことが絡まっていることがあるので、まずどういう状況に置かれているのかを整理するという手法があります。それと同じだなと思って聞いていました。

 対話を重視し、その人が求めていること、その人に合う道を一緒に考えるのは、支援現場も仲間さがしも同じ。そしてもちろんそれは決して簡単なことではありません。

山田:支援の仕事って、うまくいかないことの方が多くて、よく行き詰まります。なんでこうなるんだ?って。でも行き詰ったときにこそ、「私」という人間になるんです。支援者じゃなく私になって、人と人の関係になるんだなと、肌感覚で感じています。
採用担当の菅さんが、悩みながらやってきて、仲間さがしに行き着いたっていうのは、それと同じなのかもしれないなって。採用担当と学生という形でうまくいかない。そんな風に行き詰ってはじめて、採用担当じゃなく「菅春菜」という人になる。そうなると、こちらも悩むから、対等な人と人になるんじゃないでしょうか。

山田さん

 する/されるという一方的な関係を越えて、対等な相互関係になるという考えの基盤にあるのは、武蔵野会の「自分を愛するようにあなたの隣人を愛せよ」という理念です。自分のことを理解していくなかで、自分と他者とを本当の意味で対等のものと考えられるようになり、自分の変化を通して世界が変わっていく。しかし、そんなする/されるの関係を越えるプロセスはとても手間のかかるものです。実際、仲間さがしのコンセプトに基づく採用をおこなうため、武蔵野会では、エントリー後の面接が2回だったところを、今年から面接3回面談2回と回数も増やし、それに伴い採用活動に関わる職員の数も増えています。

小松:する/されるの環境を変えるってことは、結構面倒なんです。
福祉では、目の前にいる人の自分らしさが、背景含めて、輝くように色々なサポートをします。福祉はあるがままでいいんだよって言っているのに、就活ではガクチカを求められ、その人のままでは採用されない。福祉らしさと採用との合致しない感じは、武蔵野会のみならず、日本全体の社会福祉業界の採用の問題だなとぼくは思うんです。ということは、武蔵野会の採用を考えることは、日本全体の福祉法人の採用を考えることにつながる。採用活動を通して世の中の採用を問うているということは、大事なことだし、とても公益性の高いひらかれた取り組みだなと感じています。

小松さん

武蔵野会の仲間さがしは、「ふくし」の仲間さがし

 私は現在、大学4年生。就職活動真っ只中です。今回のお話を聞いて、私のなかで就職活動の捉え方が少し変化しました。これまでは自分を「採用される側」と捉えて、「この企業に採用してもらわなきゃ」「失敗しないようにしなきゃ」という思いを抱いていました。しかし、ありのままの姿を偽っていては、その企業が本当に自分にマッチしているかは分かりません。仲間さがしは武蔵野会独自のコンセプトですが、他の企業だって、企業の方針とマッチしている人を採用したいはずです。これからの人生を楽しく送るためにも、ありのままの私で、対話する姿勢を大事にしたいです。そして、自分の心が共鳴するような企業に出会い、「仲間」になっていきたいです。

 「仲間さがし」は、採用活動を指して使っていますが、より広い意味で捉えることもできる言葉です。武蔵野会でともに働いてくれる仲間、武蔵野会ではないけれど同じ福祉の仕事をする仲間、そして、福祉の仕事ではないけれど、ふくしに関わる仲間。武蔵野会で働く人だけが仲間ではありません。
武蔵野会の高橋理事長もイベントの終わりにこんなコメントをされていました。

高橋:要はみんなが仲間だと思います、これからの福祉は。武蔵野会だけが人を採れればいいって時代ではないですし、人の採り合いではありません。なので、しっかり福祉に関心のある人を増やすって意味で、ふくしデザインゼミはすごく良い案なので、広がっていけばいいなと思っています。

 このレポートを読んでくれたあなたは、もうふくしの「仲間」かも?武蔵野会の「仲間さがし」は、まだ始まったばかりです。

仲間さがしのパンフレット

~登壇者プロフィール~

菅 春菜(すが はるな)
社会福祉法人武蔵野会 仲間さがし担当
1994年生まれ。東京都八王子市で育つ。短期大学保育科在学時の実習で出会った職員の人柄に惹かれ、武蔵野会の障害者生活介護事業「八王子生活実習所」に新卒入社。5年の現場経験を経て、ふくしの仕事をもっとたくさんの人に知ってほしいという思いから、法人本部に異動し採用・広報を担当。武蔵野会の「採用」のあり方を問いなおし、「仲間づくり」を掲げ、SWLABと協働でプロジェクトを推進している。

山田 真由美(やまだ まゆみ) 
社会福祉法人武蔵野会 ことわらない相談員
たまたま始めた福祉の仕事だが、気づけば20年以上。現在は武蔵野会の「ことわらない相談まどぐち」相談員として、地域から追い出された方々のサポートに従事。どんな状況にあっても「ことわらない」ことの重みを感じながらソーシャルワークを行う。都内の私立大学では、非常勤講師として社会福祉士の教育に携わる。これまでの出会いとつながりに感謝しつつ、かけがいのない瞬間を大事に、目の前の人に向き合う日々。

小松 理虔(こまつ りけん)
ヘキレキ舎 代表
福島県いわき市生まれ。地元の商店街でオルタナティブスペースUDOK.を運営しながら、食や観光、医療福祉など幅広い企画、情報発信に携わるローカルアクティビスト。いかにローカルをおもしろがるかを、地域活動・執筆の両方から実践。いわきの地域包括ケアの取り組み「igoku」でグッドデザイン金賞、『新復興論』で第18回大佛次郎論壇賞を受賞。


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