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その人を理解しようという漸近線にある福祉 | トーク「混沌とした時代、これからの福祉のあり方、そして可能性」レポート【ふくしデザインゼミ展 2023】

 混沌、と聞いてみなさんは何を思い浮かべますか?
 私は、コンクリートのような、灰色で淀んでいるイメージを思い浮かべます。

 私たちはどうやら「混沌とした時代」に生きているようです。成長ありきの社会システムの齟齬は明らか。人口減少と超高齢化の進行、社会保障費の膨張と行政府の財政難、格差拡大。課題が多様かつ複雑に入り組んだこの時代。私たちはいかに生きていくのか。そして、福祉は何をなし得るのか。

 トーク「混沌とした時代、これからの福祉のあり方、そして可能性」では、社会福祉法人武蔵野会の高橋理事長に、なぜ武蔵野会が「ふくしデザインゼミ」「武蔵野会の仲間さがし」「伊豆大島 えらべる半福半Xという働きかた」といった新たな挑戦をはじめているのか、これからの福祉のあり方をどのように描いているのかを伺いました。

 混沌とした時代とは?そして、わたしたちにできることは?


あえて「ふくし」ではなく「福祉」

 場のコーディネートをつとめるのは、ふくしデザインセンター設立準備室の今津新之助さん。はじめに今日のテーマの背景が共有から場はスタートしました。

今津:ふくしデザインゼミでは「ふくし」をひらがなで表現していますが、今日のテーマは漢字で「福祉」とあえて書かせていただきました。というのも、社会福祉法人武蔵野会はやっぱり福祉をやりながら、ふくしデザインゼミのようなことをやっているっているわけで、なぜ理事長がこういう取り組みをしようとされているのかという話を、ぜひみなさんに聞いていただきたいなと思いました。はじめに簡単に高橋理事長ご自身のことを教えていただけますか。

高橋:みなさん、こんにちは。ぼくは大学では政治学科にいて、はじめは証券会社に勤めました。結構成績もよかったのですが、なんか違うなあと思っていて、一年くらいで身体を壊してやめました。
そのあと何をしようかと思ったとき、生命誕生についてのTV番組がやっていて、わずかな確率でのむすびつきによって命が生まれることに感動して、生命への畏敬をおぼえました。命を大切にしたとき、その周りにある能力や容姿、障害とかはあまり関係がないのではないかと。それで福祉の方に行きたいと考えるようになりました。それからは武蔵野会一筋、御殿場、練馬、葛飾、大島しながら、本部に来て、いまは理事長をやっています

混沌とした時代、その実情

今津:高橋理事長は 東京都に1,000ちょっとある社会福祉法人の集まりの副会長をされていて、武蔵野会だけでなく、東京1300万人の暮らしをどのようにしてそれを支えていくのか、ひいては日本の福祉をどうしていくのかとかいうことも日頃から考えておられます。
いまの日本は、人口分布が変わり支え手が足りない、社会保障費が上がっているのに国力が失われていると言われていたりもします。格差や分断が広がってきているともいわれる混沌とした時代。制度の枠のなかであれば行き届いたことができるけども、 人は制度の枠のなかで生きているわけではないので、いろんな意味ではみ出てきます。それをなにかしらで支えていくということ、社会の中で網をつくっていくところに、武蔵野会は関わっています。

高橋:「制度の狭閒に落っこちる」人がいないようになと思っています。孤立孤独が取りざたされていますけども、何年も前から言われているところで。 国全体でも4割が単独家庭ですし、東京では5割近くが単独家庭です。ある実態調査では、 孤独を感じる人は20代から30代の人が高くなっています。最近、低年齢者の自殺も多くなってきていて、いろんなあの問題が出てきています。 いじめやハラスメント、生活困窮、そんな問題が出てきているということを我々は理解しておかねばなりません。 対策としてプラットフォームづくりにどう関わっていくか考えているところです。
話が飛びますが、高齢者施設ではですね、3割、多いところでは5割の外国人雇わなければ経営ができないという状況になっています。2割ぐらいはもう当たり前みたいな。 外国の方も取り合いになっていて、特に高齢者施設は厳しい状況です。これからは、畳の上で死ねなくて道ばたで高齢者のかたがなくなるぐらいになってくるんじゃないかと言われるほどで。実態はそのようなところです。

漸近線を歩み続ける

今津:なんとなくこういう話は知っていても、改めて聞いていくと、どうなっていくんだろうと思ってしまいます。でも、こういう現状を踏まえた上で、理事長が仰っているうように「社会福祉法人として何ができるんだろう」と考える。そして、社会福祉法人だけではできないことは、ひらいていく。福祉でない人々が、いわゆる漢字の福祉ではないところをやっていくことがすごく必要になってきています。ふくしデザインゼミ展は、福祉だけで抱えきれないものを「ちょっと共有させてよ!」という場だったりもすると思いますし、そういう風に捉えていただけたらなと思っています。

高橋:まず理解しないと支援のしようがありません。もちろん高いところから眺めて理解ができると思ってはないんですけども、一人称対一人称なんで。 少しでも気持ちが近づける、その漸近線みたいなところにいたいと日々思って仕事をしています。

マーブル模様の混沌を一歩ずつ

 触法障害者、ヤングケアラー、薬物依存、ひきこもり、認知症、孤立、ハラスメント、いじめ、生活困窮、8050問題、不登校。さらには福祉の担い手不足。改めて聞くと足がすくんでしまいそうです。しかし、どんな課題であっても向き合う時は、一人称対一人称。一見大きく見えるこれらの根源も、紐解いていけばそこにいるのは一人の人間です。だとすれば、綺麗ごとに聞こえるかもしれないけれど、やはり私たち一人ひとりが自分自身や自らの周りにいる人を大切にすること、それこそが福祉の課題を乗り越えていく道なのではないでしょうか。

 「混沌」とは灰色一色ではなく、一人ひとりの色が混ざり合ったマーブル模様。暗い部分もあれば明るい部分、透明な部分もありそうです。自分が関われる部分から、一歩ずつ、混沌としたこの時代を歩んでいきたいと思います。

~登壇者プロフィール~


高橋 信夫(たかはし のぶお)
社会福祉法人武蔵野会 理事長
1954年熊本県生まれ。明治大学卒業後証券会社に勤務するも、障害者との出会いにより、静岡県御殿場市にある武蔵野会の障害者入所施設東京苑(現さくら学園)に入職。同法人で練馬区、伊豆大島、葛飾区等の施設に勤務後、本部次長、本部長を経て現職。東京都社会福祉法人経営者協議会副会長、更生保護法人同歩会評議員、医療法人財団厚生協会評議員、一般社団法人生きにくさを抱えた障害者等の支援者ネットワーク理事。


今津 新之助(いまづ しんのすけ)
ふくしデザインセンター設立準備室/SOCIAL WORKERS LAB ディレクター
1976年大阪府生まれ。大学卒業後に沖縄に移住し、人づくり・仕事づくり・地域づくりを行う多中心志向のコンテクスト・カンパニーを経営。2022年より京都に拠点を移し、株式会社bokuminを創業。分野・領域を飛び越え、多様なアクターとの対話・協働によるプロジェクト開発やチームづくり、一人ひとりの持ち味と可能性が発揮される場や仕事づくりに取り組む。

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