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デマで銀行は破綻するのか?~「取り付け騒ぎ」の恐ろしさ~

2024年5月17日、X(旧Twitter)に「福岡銀行で取り付け騒ぎが起こる」と虚偽の投稿をし、同行の業務を妨害したとして、偽計業務妨害の疑いで容疑者の男が逮捕されました。

ターゲットにされたのが地銀最大手の1つ、福岡銀行であったため、デマを信じる人は誰もいませんでした。

しかし、悪い条件が重なると、非常に恐ろしいことが起きます。
福岡銀行が毅然とした対応をとったことは、非常に良かったと思います。

思い起こされるのは、2003年に起きた佐賀銀行の取り付け騒ぎ。
では、今回の事案と2003年の事案を比較してみたいと思います。

福岡銀行の事案

2024年3月3日、Xにご覧の投稿がありました。

福岡銀行は翌日、これを否定する告知を行います。
五島頭取は、3月5日の定例会見で、「今回の対応を教訓に危機管理体制を一段と進めていきたい」と述べています。

福岡銀行(ふくおかフィナンシャルグループ)は、地銀最大手の1つで、もっとも健全な経営が行われている銀行の1つです。
地元の信頼は厚く、「福岡銀行がつぶれるくらいなら、他の地銀は全部あぶない」との声が聞かれました。

今回は、大事に至りませんでしたが、タイミングが悪いと大騒動に発展することがあります。
それが、2003年の佐賀銀行デマメール事件です。

佐賀銀行デマメール事件

事件の概要

2003年12月25日、佐賀県在住の20代前半の女性が友人から「佐賀銀行が26日につぶれるらしい」という話を電話で聞き、26人の友人・知人に次のメールを送ったというものです。

緊急ニュースです!

某友人からの情報によると26日に佐賀銀行がつぶれる そうです!!
預けている人は明日中に全額おろすことをお薦めします(;・_・+

一千万円以下の預金は一応保護されますが、今度いつ佐銀が復帰するかは不明なので、不安です(・_・|

信じるか信じないかは自由ですが、〇〇は不安なので、明日全額おろすつもりです!
松尾建設は、もう佐銀から撤退したそうですよ! 

以上、緊急ニュースでした!! 

素敵なクリスマスを☆彡

この情報は、一瞬のうちに、メールやネット掲示板で広がり、不安に駆られた預金者が一斉に佐賀銀行の窓口・ATMに押し寄せ、長蛇の列ができました。

報道によると、総額で500億円もの預金が引き出されたり解約されたりしたとのこと。

私自身も、ニュースを見ながら、大変不安な気持ちになったことを覚えています。

人々はなぜ信じてしまったのか

では、なぜこれが真実と勘違いされてしまったのでしょうか。
これには、その当時の時代背景が大いに影響しています。
具体的に見ていきましょう。

松尾建設のリストラ報道(2003年3月)

佐賀県にある九州最大のゼネコン、松尾建設は、53歳以上の従業員116人全員に自主退職を要請しました。また、全従業員の給与を一律10%削減することも発表されました。

このニュースで、松尾建設だけでなく、メインバンクの佐賀銀行も大丈夫なのかという一抹の不安を県民が感じることとなりました。

佐賀銀行の決算見通し(赤字)の発表(2003年11月)

2004年3月期の見通しとして、経常損失が193億円、当期純損失が196億円の見込みと発表されました。

足利銀行の破綻(2003年11月)

栃木県の地方銀行である、足利銀行の破綻が発表されました。
この後、雑誌などで「次はどこか?」といった記事がたくさん出ていたように記憶しています。

中堅建設会社の民事再生法申請(2003年12月)

佐賀市に拠点を置く中堅建設会社を民事再生法を申請し、佐賀銀行は79億円が回収不能になる虞があると報道されました。

こうした一連の報道や、当日、佐賀銀行のホームページがつながりにくくなっとことが重なり、人々がデマメールの内容を信じるに至ったと考えられます。

今、起きたら被害はもっと大きい

もしもこのようなことが、今の時代に起きてしまったらどうなるでしょうか?

当時はまだインターネットバンキングがさほど普及しておらず、お金を引き出すために、多くの人は「窓口」か「ATM」に足を運ぶ必要がありました。

しかし、今は状況が異なります。
インターネットバンキングやアプリバンキングなら、わざわざ銀行に行かずとも手元で簡単に送金ができてしまうのです。

当時、佐賀銀行が引き出された金額は500億円と報道されていました。
今同じことが起きてしまえば、この金額が2倍、3倍に膨らむ可能性があるのではないでしょうか。

お金が大量に引き出されたとき、銀行は市場から資金を調達し、自身の当座預金の赤字を埋める必要があります。
そのとき、中小の金融機関が市場から潤沢に調達できる保証はどこにもありません。

最悪の場合、デマで銀行が倒産なんてことも、可能性としてはありえるのです。

おわりに

この事件をきっかけに、多くの銀行でデマが発生した時の対応マニュアルが整備されています。
福岡銀行の対応が迅速だったのも、そうしたマニュアルがあったからではないでしょうか。
我々銀行員にとって、非常に教訓の多い事件だったと言えます。

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