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「花咲舞」の時代の営業推進から、学ぶものはあるのか?~銀行の「マーケティング」と「営業企画」の教科書~

日本テレビのドラマ「花咲舞は黙ってない」を毎週楽しく視聴しています。
設定は「令和」ですが、銀行内の様子はまるで「昭和」。

「銀行っていまだにこんな感じなのか」と学生のみなさんに誤解を与えそう💦。一方、我々世代は懐かしさも感じています。

「歳とってやっちゃいけないのは、説教と昔話と自慢話」(高田純次)らしいですが、ちょっとばかり昔話にお付き合いください。


伝説の人物「暁の栗本」

当行にも、伝説として語り継がれる人物がいます。

「暁の栗本」と恐れられた人物、元西日本銀行専務取締役営業本部長、栗本昭雄氏です。ご存命なら97歳。今から30~40年くらい前の話です。

なぜ「暁(あかつき)の栗本」なのか。

春は暁、日が昇りはじめる朝6時・・・
業績不振店の支店長が本店の会議室に集められます。

神妙な面持ちの支店長たち・・・
そう、今から恐怖の推進会議がはじまるのです。

それはそれは、筆舌に尽くしがたい厳しい会議だったとのこと。

支店長は、みっちり指導を受け、7時からは自分の店へ移動。
8時には自店の朝礼がはじまり、今度は支店の行員が支店長から指導を受けます。

実は私、栗本氏には、若い頃、プライベートで大変お世話になりました。
非常に人間力のある暖かな方で、当時の面影はみじんも感じませんでした。

もちろん、現代ではこんなことはありえないですよね。
しかし、これほどまでの仕事への「情熱」と「意欲」には、尊敬の念を抱きます。

懐かしい「定期預金」の営業推進

さて、私が銀行に入行したのは平成10年(1998年)。
その当時は、金融自由化前で、「投資信託」も「保険商品」も取り扱っていませんでした。

では、何の営業推進をしていたのか?

そうです。ひたすら「定期預金」を集めていました。
マイナス金利の時代、預金はあまり注目されませんでした。しかし、今後金利が上昇してくると、預金の獲得競争は激しくなっていくと予想されています。

従って、当時の「定期預金」の営業推進を思い出すことも、今後役に立つかもしれません。

実は「行動経済学」のポイントが押さえられていた!

「行動経済学」が世の中に知れ渡ったのは、2002年以降と言われています。
思い起こしてみると、「行動経済学」なんてない時代に、当時は非常に理にかなった「営業推進」が行われていたように思います。

❶ポイント推進 「現在バイアス」「損失回避」

銀行では、通常6ヵ月単位の推進が行われます。
人間6ヵ月あると思うと、コツコツと努力が必要な活動もついつい後回しになりがちですよね。

夏休みの宿題なんかがいい例です。私も、夏休みの前半は遊んでしまい、いつもギリギリになって、泣きながら宿題を終わらせていました。

この、将来の利益よりも目の前の利益を優先してしまう傾向を「現在バイアス」と言います。

そこで、本部が設定していたのが「ポイント日」です。
例えば、4~9月の推進の場合、4月末で目標の20%、5月末で40%達成していなければ、期末に100%達成しても満点がもらえないという仕組みです。

ポイント日の推進は非常に強烈でした。ホワイトボードには「残り○百万円」と1時間おきに書き換えられます。閉店した15時以降も目標を達成するまで全員で電話セールスを行うのです。

時には、渉外営業担当が「○百万円とれるまで、帰ってくるな!」とはっぱをかけられ、夜遅くまでお客さまを訪問するなんてこともありました。

ポイントをクリアしないと「満点がもらえない」という仕組みも非常に理にかなっています。これは「損失回避」と呼ばれるもので、「1万円得するうれしさよりも、1万円損する失望が2.5倍」という心理を利用したものと言えます。

私が所属していた営業店の支店長は、ポイントを達成すると、毎回全員にアイスクリームを自腹でおごってくれていました。
こうした小さな達成感を与えるマネジメントも、今思えば見事だったなと感じます。

❷班別推進 「コミットメント」「純粋な利他性」

営業店の推進は、個人戦だけでなく、団体戦も行われていました。
それが「班別推進」です。

私の支店では、いろんな係の人がバランスよく4つのチームに分かれ、毎週推進会議が行われていました。

そこでは、まず、一人ずつ1週間の目標を宣言します。
「今週は、見込が○百万円ありますので、このうち○百万円取り込みます!」

上から目標を一方的に与えるのではなく、自分で宣言させるのがポイント。
何とか目標を達成しようという意識が働きやすくなるのです。

これを行動経済学では「コミットメント」と言います。

私も、毎週noteを書いて、同僚に送信することをあえて公言し、自分自身にプレッシャーを与えることにしました。これで、もうサボれません・・・(笑)。

「班別推進」のよいところは、「仲間に迷惑をかけたくない」「若い女の子にかっこいい姿をみせたい」という心理が生まれる点にもあります。

「自分だけでなく、みんなを喜ばせたい」という心理も、営業推進には欠かせないのです。

かつて、銀行の支店には今田美桜ちゃんのような、素敵な女性がたくさんいました(過去形ですみません)。私も、新入行員の女の子が苦戦していた時に助けてあげたことがあり、その後チョコレートをもらったことを今でも覚えています。

❸手作りの推進グラフ 「ピア効果」

今も昔も、実績を「見える化」することは大切ですね。
今はCRMやパソコンで管理することが多いですが、当時は、大きな模造紙にグラフをつくり、シールを張っていくようなグラフを作成していました。

毎日朝礼で、そのグラフが提示され、実績を挙げると「●●さんががんばった」と褒めてもらえます。
これは「みんなががんばってるから私もがんばろう」という効果(「ピア効果」)を最大限発揮させる取組みと言えます。

推進担当に選ばれた入行2年目の私は、当時所属していた渡辺通支店にちなんで「Watanabe Street」という推進新聞を発行し、店内で好事例を共有していました。

当時は、WordもExcelも主流ではなく、一太郎とLotus123の時代。
その新聞が、支店長や本部の目に留まり、企画業務に従事させてもらうきっかけとなりました。

「銀行はノルマがきつそう」という印象をもたれがちですが(これ、「代表性ヒューリスティック」といいます)、定期預金はお客さまが損をする商品ではありませんし、意外と楽しみながら推進に取り組んでいたことを思い出します。

おわりに:現場に動いてもらうことが本部の仕事

本部でどんなにすばらしい商品・サービスを作っても、お客さまに伝わらなければ、何の成果も上がりません。最近はデジタルで完結できる商品も増えてきましたが、地銀では営業店のヒューマンタッチの力は絶大です。

従って、いかに現場の人たちに動いてもらうかを考えることは、今も昔も非常に大切なことです。そのためには、今も昔も、行動経済学の視点は欠かせないと言えます。

永遠の課題ですが、また別の機会にお話ししたいと思います。

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