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ワールド探索日記 2022/8/22

NarrowBuilding By haruki_haru

ラーメンの構造体の床・天井が穿たれ、そこに工事用足場や階段が掛けられ、移動できるワールド。
あちこちには配線が行き交い、ぽつりと灯る蛍光灯がそれらの姿を露わにしている。構造物の圧を感じる、(僕にとっては)居心地の良いワールドだった。

ところで、バーチャル空間ではこのようにあえて配管や配線、構造体を見せる空間を結構見かけることがある。現実の空間では、こうしたものはどちらかというと隠すように努力されることが多い。
これらの要素は現実の空間には否応なく必要なものではあるが、それは設計者が想定する空間にとって、どちらかという異物になり、いかにそれをうまく見えないように収めるかというのも、設計の能力を示すひとつの指標となるからだ(もちろんあえてこうした要素を活かす設計も存在する)。

一方で、バーチャル空間の創造にとって、これらの要素は「否応なく必要となる」ものではない。むしろ制作コストをかけなければ存在し得ない。

現実の空間は具体で占められているからこそ、その情報量は莫大となる。そのため、情報量をコントロールすることで、設計者は自分の創造したい空間を実現していく。そのコントロールの手法として「線の数を減らす」、つまり「情報量を削減する」ことがポピュラーな手法とされている(と思っているが、なぜこうしたことが行われるのか、軽く調べてみたけどよく分からなかった)。例えば、日本建築の近代化を目指した建築家として知られている吉田五十八は驚くべき努力で「線を減らすこと」に注力している。
配管や配線のようなものはなるべく見せないための努力というものも基本的にはこうしたものと連続するものだろう。

今里:やることはきちんとやるのですけど、どうでもよい所はぼかす。線の余分なものをとるようなデザインをする。できあがってすっきり見えるわけです。

Su:大きい柱間では、薄い鴨居(厚み4分)をボルトで吊られていますね。

今里:これは竹の中にステンレス線を入れて、天井裏で調整する。なるべく線を無くそう無くそうという所から始まった。これが吉田先生の建築です。この後は欄間障子の組子合せの所にかくれたステンレス線を入れました。

一方で、バーチャル空間は情報を1から組み立てていくことからはじまる。つまり、削減するべき情報量が存在しない状態がスタートとなる。そのため、多くのバーチャル空間の設計者は自分の創造したい空間を実現していくために「情報量を増大する」ことに力を費やしていく(そしてその「情報」にはいろいろな種類があるのだと思う)。配管や配線などがそうしたことに貢献する要素として扱われるのだろう。

ここから考えられるのは、このふたつの世界のアウトプットはまったく真逆のものであるが、その根底にある考えとしては「自分の創造したい空間を実現するために情報量をコントロールする」というものであり、連続しているということだ。
基本的に現実の空間の設計は前提条件が0ベースで始まることがない。そのため、バーチャル空間の持つ前提というのは現実の空間の設計とはかなり異なる。
一方で「空間設計」という営為に目を向けてみると、そこで思考される事象についてはおそらく関連する部分が多い。仮にアウトプットがまったく異なるものだとしても、そこには連続するものがあるのではないか?
そういうことを考えながら観察していきたい、と改めて思った。


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