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文脈の接続についての妄想─リアル/バーチャルのサンリオピューロランドから

2022年7月15日からサンリオピューロランドで開催されているショー「Nakayoku Connect」を見てきたので、久しぶりにキーボードを叩いています。
──いたのですが、しばらく筆を置いてしまっていました。ですが来年も「SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio Puroland」が開催されることが決まったそうなので、改めてキーボードを叩き直しています。

「Nakayoku Connect」は、昨年12月に開催された「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」に続き、「リアル/バーチャルで展開される体験型エンターテイメント」と銘打ち開催された今回のショーです。

演出面については私は詳しくないので、つよつよの人が書いてくれることに期待して、本記事では「サンリオピューロランドがリアル/バーチャルで展開されたこと」自体について考えてみます。

「バーチャル」の「サンリオピューロランド」とは?

そもそも「バーチャル」の「サンリオピューロランド」とは…?という方もいると思うので、軽く説明しておこうと思います。

その名の通りバーチャル空間上に公開されたサンリオピューロランドです。
ソーシャルVR「VRChat」上に公開されており、PCVRはもちろん、それなりのスペックのパソコンがあれば、無料で入ることができます(デスクトップでも)。

公開されているバーチャルサンリオピューロランドは、リアルのサンリオピューロランドのエントランスをドローンで撮影した写真から制作したフォトグラメトリを元につくられています。
そのため、一度でもリアルのサンリオピューロランドに行ったことがある人なら分かる、高い再現度になっています。

バーチャルサンリオピューロランド

先述した「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」ではバーチャルサンリオピューロランドで、さまざまなアーティストのライブが展開されました。

その際のイベントコンセプトが「地下空間で開催される音楽フェス」
サンリオピューロランドの地下にはエンターテイメント空間があるというコンセプトでさまざまな意匠の空間が地下5階まで続く世界が構築され、そこでイベントが行われました。

特に地下5階の「ALT3」はVRChat上で定期開催されているバーチャルクラブ「GHOSTCLUB」のメンバーによって制作された空間で、ピューロランドとは思えないアンダーグラウンドな空間が話題になりました。

この「地下」というコンセプトは後程触れる重要なポイントなので、覚えておいていただければ幸いです。

ALT3
ALT3
ALT3

イベント自体の詳細な解説は他記事に譲るので、気になる方は下記の記事などをご覧ください。

さて、好評を博した「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」に続くバーチャルでのイベント第二弾となったのが、2022年7月15日にはじまった「Nakayoku Connect」です。

このイベントは前回と異なり「リアル/バーチャルのサンリオピューロランドで同時にショーが開催される」ことが特徴です。
前回のイベントはバーチャルのみでしたが、今回はリアルでも開催され、両者の繋がりがより意識された内容になっています。そのため、前回ではあまり意識されなかった「リアル/バーチャルの体験」が前面に感じられました。

また、今回は前回とは別に「ピューロフロンティア」というバーチャル空間が新設されています。
この空間では、大きなクレーンが立ち並ぶ、これまたピューロランドとは思えない風景が広がっていますが、この空間に込められたであろう「建設中」というコンセプトも後で触れますので、良ければ覚えておいていただければ幸いです。

ピューロフロンティアへの動線
ピューロフロンティア

簡単にと言いつつ長くなってしまいましたが、そういうことを踏まえて本記事では「サンリオピューロランドがリアル/バーチャルで展開されたこと」自体について考えてみたいと思います。

ここではバーチャルを、リアルに別の視点をもたらすものとして捉えています。ほぼ妄想みたいなものなので、Twitter流し読みする感じで気軽に読んでみてください。

サンリオピューロランドでの「下に降りる」という動作──大髙正人の「人工土地」、と「地下空間」

さて、まず注目したいのは「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」で掲げられた「地下」というコンセプトについてです。
このコンセプトは、インタビューによれば企画のかなり当初から設定されていたようです。

佐藤さんからお声がけいただいた際、「『ピューロランドの地下にVR空間がある』という設定で考えてほしい」というところから話がスタートしていて。

サンリオがバーチャルライブに徹底的にこだわった理由とは? 制作チームにインタビュー

こうしたコンセプトがなぜ設定されていたのかは語られていないため、本当のところを知ることはできません。
しかし、リアルのサンリオピューロランドについて考えてみた時に、その構想に対しての繋がりが朧気に見えてきます。

その繋がりについて考えてみるために、リアルのサンリオピューロランドにたどり着くまでの道のりを辿ってみます。
まず多摩センタ-駅から降り立ち駅から出ます。開けた視界の下、巨大なペデストリアンデッキを渡り、「パルテノン大通り」と名付けられた幅員20~30m程度の大きな通りを歩いていきます。
地面は赤茶けたタイルに、日本ではあまり見られない強い軸性を持った空間になっています。

通りを進み、カラフルな商業施設や近代的なビル等バラエティ溢れる建物群を横目に歩いていくと、やがてピューロランドのエントランスが見えてきます。

そしてピューロランドの中へ入って、メインの空間「知恵の樹」があるフロアへ行くために下へ降りていきます。

このようにリアルのピューロランドはそもそも「下へ降りる」という動作が伴った空間になっています。つまり「地下」を想起させる空間になっています。

そもそもなぜこうした構造になっているかというと、先に述べたように多摩センター駅からの動線がペデストリアンデッキになっていることが要因として考えられます。このペデストリアンデッキについて、もう少し考えてみます。

この多摩センター駅周辺の都市計画を手掛けたのは大髙正人という建築家ですが、彼は「坂出人工土地」という人工地盤による再開発プロジェクトが有名です。

これらのプロジェクトで共通するのはあるレベルに構築された新しい地面、つまり「人工土地」がつくられていることです。
この「人工土地」というアイデアは、戦後急激に増加する人口に対して、再開発を行うためにネックとなっていた土地に対する慣習と権利関係の法制を解決するものとして注目されていたようです。

木造建築物が主流で、寿命が短く、容易に変化するというわが国の建物の特性は、逆に不変性の高い土地に対する権利を絶対的な価値と認める慣習を生み出していた。また、所有権、借地権が錯綜する複雑な権利関係に対して、これらの初期再開発法制度は有効な整理を行うような仕組みを持っていなかった。土地に対する強い権利意識への対処の裏返しとして、建築物が相対的に軽視された結果、建築家はこうした再開発制度の構築にかかわる場面が少なかったのである。
この状況を打開する光明を、大髙と槇の提案に見いだした人物が建設省内にいた。

『建築家 大髙正人の仕事』(エクスナレッジ、2014年)049頁

つまり「人工土地」とは(人間が)住まうための都市的な環境を一挙につくる手法として考え出されたものだと言えそうです。多摩センター駅周辺の計画では大髙は機械的空間(=幹線道路網など)と人間的空間(=ペデストリアンデッキ)の分離を意図していたそうです。

これを踏まえると、リアルのピューロランドでは「人間が住まう土地とはまったく別の世界」として「違うフロアレベルを設定する(=(地)下に降りていく)」が採択されたのではないかと想像できます
(もちろん最大限の気積を取るために、という機能的な理由も考えられそうですが)
(さらに多摩センター駅周辺には「東京都埋蔵文化財センター」という施設もあります。地下に埋まっている「現在の人間」とは異なる営為を展示する施設が存在しているというのも「地下」の存在を強めているようで面白いです)。

つまり、ピューロランドにおいては、その世界観を構成する空間的な要素として、そもそも「地下」が重要であったということです。

こうした文脈を踏まえると、バーチャルのピューロランドで「地下」というコンセプトの下、さまざまな試行(エレベーターで降りていくことや、いつものエスカレーターの先が違う世界に繋がっていること等)が展開されたことは、リアル/バーチャルの文脈を接続するようで興味深いです。

ピューロフロンティアへの動線

歴史や土地、対象自体の文脈を深堀りしていくことで「別の在り方」を見せる。そうしたメディウムとしてバーチャル空間が展開されていくと、双方の世界がより面白くなっていきそうです。

「建設中」というイメージ──別の可能性を示す

今回の「Nakayoku Connect」で新しく登場したバーチャル空間「ピューロフロンティア」の空間自体のコンセプトは詳しく語られていませんが、薄暗く霞がかった空間に巨大なクレーンと宙に浮かぶ鉄骨、ここから思い浮かぶのが「建設中」というイメージです。

リアルのピューロランドは全国初の屋内型テーマパークだそうです。
開園当初は今のようなサンリオキャラクターたちのテーマパークではなくピエロをモチーフにした「ピューロキャラクター」というキャラクターがメインで「愛と友情のコミュニケーション」をコンセプトとして開園したそうです。しかし開園後業績は振るわず、さまざまな試行錯誤を経ることで、現在のようなテーマパークになったようです。

つまり、ピューロランドでは「世界観の変容」が大規模に行われたと言えそうです。また、サンリオはキティちゃんを代表としてさまざまなものと盛んにコラボすることが知られています。
ピューロランドでも、なぜか超伝導の仕組みを物語形式で説明するイベントを行ったりなど、こうしたサンリオやピューロランドの歴史や活動からは、「定まった世界観を持たずに常に変容し続けている」というイメージを受けます。
少々強引な接続ですが、サンリオやピューロランドのこうしたあり方は、「ピューロフロンティア」から感じる「建設中」というコンセプトの親和性を感じます。

また、一般的にテーマパークとは「完成された世界」として捉えられています。例えばディズニーランドでは、テーマパーク内にいるときは外の世界を感じさせないように様々な仕掛けがなされているということが話題になります。

しかしながら、リアルの建物はある日突然できる訳ではなく「建設」というプロセスを経た上で、その世界が構築されていきます。
かつては、そうしたプロセスは世界観の維持のために隠される傾向にありましたが、近年ではむしろ公開される状況になってきています。

つまり近年では、こうした「建設」というプロセスもその世界観を構成する要素として捉えられるようになってきているということが読み取れそうです。
それを踏まえると、バーチャル空間の構築においても「建設」という行為を表現することで、ある種のリアリティ、世界観の構築に寄与する可能性があるのかもしれません。

話がまとまらなくなってきましたので強引にまとめますが、「ピューロフロンティア」における「建設中」というイメージからは「リアルのサンリオやピューロランドが積み重ねてきた変容の歴史」「世界観の構築を強化する要素としての「建設」」のふたつの意味が重ね合わせられているように感じました。これもまたリアルでの文脈をバーチャルに繋げていると言えるのかもしれません。

そして、完成された新しい世界を提示するのではなく、あえて「建設中」を見せることで「別の可能性」を示唆する。そのメディウムとしてバーチャル空間が使われているのも、また興味深いことだと感じました。

つらつらと書いてきましたが、これらの状況を実現するためにはショーに出演するサンリオのキャラクターたちが重要になってくるのかと思いますが、ずいぶん長くなってしまったことと思考がまとまるか謎なので、今回はここら辺でやめておきます。


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