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読書記録『冷蔵と人間の歴史―古代ペルシアの地下水路から、物流革命、エアコン、人体冷凍保存まで』

本書には世界各地で人々が編み出してきた冷蔵方法、天然氷から始まった氷ビジネスの軌跡、冷蔵庫ができるまでの科学者たちの奮闘の歴史が綴られている。

そして現在、冷蔵技術は宇宙ロケット、高層ビルの空調システム、MRI、
スーパーコンピューターなどに応用され、将来的には不老不死、テレポーテーションも可能にするかもしれないという話も出てきている。

もはや私たちの生活になくてはならない、冷蔵技術の存在の大きさをクローズアップする異色のノンフィクション。

冷蔵庫の冷やす仕組みは主に気化熱と凝縮熱によってもたらされ、それらをより効率化するために冷媒が開発されてきた。つまり、冷蔵庫の仕組みは非常に科学 / 化学的なものである。

本書は人類が追求してきた冷蔵方法、低温にする方法を古代からさかのぼって紹介する。氷室等からはじまった冷やす行為は、当初魔術的なものと捉えられていたが、やがて温度の仕組みや圧力、原子の発見によって科学的な分野として確立していく。ロケットエンジンの仕組みは-253℃ほどの液体燃料を3315℃ほどまでに瞬間的に温度を上げることで推進力を生むそうだ。つまり、温度を上げるだけでなく下げる技術も必要なのだ。また、温度を下げる技術の中でも「気体の液化」はMRI装置、体外受精といった技術にも使われているらしい。また、いまや世界にとって重要な建物のひとつとなっている「データセンター」では、サーバーを常に冷やす必要がある。そこでも低温技術は活かされている。
そして、いまや人体冷凍(低温による延命は1960年代から発想されその頃に人体冷凍保存研究所、不死協会が生まれているとのこと)やテレポーテーションなどといった、一見突拍子もない分野にも低温にする技術は関係している。

今年の異常な暑さに対して、エアコンをつけなかったことによる事故がしばしば見られる。「エアコン」というのも家庭用冷蔵庫と共に普及した低温技術の賜物である。高層ビルの登場に構造的な技術以外に「エレベーター」の登場が必須であったというのはよく聞く話だが(レム・クールハース『錯乱のニューヨーク』でも象徴的に語られる)、エアコンの登場も超高層ビルの成立には欠かせない。

また、クールハースは『S,M,L,XL+』でエアコンが空間を成立させるようになっている、とさえ言っている(だったと思う)。
現代におけるショッピングモールの多くは外に向けては閉じており、内部に快適な閉鎖空間をつくり出している。その成立のためにはエアコンが必要というわけだ。

また、冷蔵庫や冷凍庫が生まれなかったら、食料の流通は大きく変わっていただろうし、スーパーマーケットのような業態も生まれなかっただろう。
初期の低温貯蔵は「食品の質の低さを隠す」という認識であったのも興味深い。「新鮮さ」に対する認識も時代によって異なっており(これは今でも人によって違う気もするが)、時代の出来事や各ステークホルダーの思惑によって現在のようなものに近づいてきた歴史がある。
(ちなみにアインシュタインも冷蔵庫の発明をしていたらしい)

「冷蔵」という観点で低温に対する人類の認識や化学/科学的な発見、技術の発明等網羅的に語られた本書。技術の発明によって、新たなビルディングタイプが生まれていったという視点は興味深いので、こういうものは他にも読んでみたい。

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