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【小説】おいしいものを、すこしだけ 第17話

 休日に図書館でボランティア活動をしてみようかと思う、と言ったところ、亜紀さんはいい顔をしなかった。
「何をするんですか」
「何って、配架とか、いろいろ」
「その図書館は問題があると思います。図書館祭りとか、一時的なイベントでボランティアを募集するならともかく、配架のような通常業務で人を頼むというのは、あきらかにその図書館は恒常的な人手不足ということなのに、どうして職員を雇わないんですか。配架は誰にでもできると思われがちですが、職員が蔵書の動きを知るうえで重要な仕事です。職員が事務室にこもりきりで、配架を単純作業扱いでボランティア任せにしていたら、フロアが無法地帯になってしまいます。図書館員のなり手がいないならまだしも、司書資格を持っていて図書館の仕事を希望している人がたくさんいるのに、そういう人たちを雇わないで、暇を持てあました人にただでやらせるというのは」
 暇を持てあました、というところでカチンときた。それで休日に何をしようが私の勝手でとやかく言われる筋合いはない、という話になり、つい勢いでよけいなことまで言ってしまい、それ以来、亜紀さんと口をきいていない。ふだん温厚な人だけに、一度怒らせると長引くのは過去の喧嘩の経験からわかっていた。喧嘩と言ってもたいてい私がついカッとなって言わなくてもいいことまで言ってしまい、亜紀さんが黙りこんで部屋に閉じこもる、というのがいつものパターンだ。

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2,967字

現役図書館司書が書いた、図書館司書の登場する小説です。 (全20回連載予定)

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