【小説】おいしいものを、すこしだけ 第12話
思えばその日は朝からろくなことがなかった。
エスカレーターの故障であと一歩のところでいつもの電車に乗れず、ようやく乗った電車は異常信号で十数分停車した。車内は地獄のような混雑で、その間ずっと私は悪臭を放つ人の背中に押しつけられていた。遅刻寸前で会社に駆けこみ、ロッカーの扉を閉めたところでビッという嫌な音がしたかと思うと、スカートの裾をまつった糸が全部ほどけていた。仕事中も、前日ささいなミスをしていたことが発覚して、前から嫌いだった人に「あなたこの仕事向いてないんじゃな