晴れる

図書館員(司書資格あり)。 図書館業界、読書術、書評、仕事と生活のあれこれ。

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マガジン

  • 【小説】おいしいものを、すこしだけ

    現役図書館司書が書いた、図書館司書の登場する小説です。 (全20回連載予定)

  • 「提案」シリーズ

    社会制度改革の提案集です

  • 図書館

    図書館全般についての記事をまとめています。

  • 図書館のお仕事紹介

    あまり一般で紹介されないマニアックな業務を解説しています。

  • エッセイ

    ちょっとした思い出話など、とりとめのない雑文です。

最近の記事

  • 固定された記事

図書館のお仕事紹介(番外編) とある司書の一日

これまで図書館の各業務について個別にご紹介してきましたが、では具体的に私の一日のなかでどういう流れになっているのかを解説してみようと思います。 実際には時期によって業務は異なり、たとえば蔵書点検の時期は朝から晩までぜんぶ蔵書点検だったりしますので、比較的バランスの良い日を想定しています。 また、規模の大きな図書館では担当業務がもっと細分化されていることが多いのでここまであれこれやっていないでしょうし、逆にワンオペの図書室などではひとりですべての業務をこなさなければなりません

    • 広告嫌いふたたび

      母の日のPRで「ずっと小児」という表現が使われた切符モチーフのポスターが批判を浴びて撤去された、というニュースがありましたね。 個人的には「なんか引っかかるけど、もっと悪質なものはいっぱいあるのでは」という程度の感想ですが、気になるのはこれが広告であるところです。 もしこれが文学作品だとか、美術館で展示されているアートなら、まったく表現の自由であって何の問題もないですし、嫌なら見るな、という話ですが、広告には「見ない自由」がありません。 まして駅という公共の場にでかでかと

      • 【小説】おいしいものを、すこしだけ 第17話

         休日に図書館でボランティア活動をしてみようかと思う、と言ったところ、亜紀さんはいい顔をしなかった。 「何をするんですか」 「何って、配架とか、いろいろ」 「その図書館は問題があると思います。図書館祭りとか、一時的なイベントでボランティアを募集するならともかく、配架のような通常業務で人を頼むというのは、あきらかにその図書館は恒常的な人手不足ということなのに、どうして職員を雇わないんですか。配架は誰にでもできると思われがちですが、職員が蔵書の動きを知るうえで重要な仕事です。職員

        • 叱られたくない

          世の中では「『叱る』と『怒る』は違います!教育として適切に叱ることは必要です」と言われることもよくありますし、あまりにも叱られないと逆に「叱られたい願望」を持つ人もいます。 私は「なるべく叱られたくない派」なので「叱ってほしい」という気持ちはどうもわかりませんし、子どもの頃から誰かに叱られると「普通に言ってくれればわかるのになあ」と思っていました。 もちろん、私が何か間違ったことをしていたら、ぜひ指摘していただきたくはあるのですが、その場合「叱る」という伝達方法でなくてもよ

        • 固定された記事

        図書館のお仕事紹介(番外編) とある司書の一日

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        • 【小説】おいしいものを、すこしだけ
          17本
          ¥500
        • 「提案」シリーズ
          16本
        • 図書館
          42本
        • 図書館のお仕事紹介
          19本
        • エッセイ
          11本
        • 料理・食生活
          10本

        記事

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第16話

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          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第16話

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          ひとり1言語&1楽器主義の国

          「あったらいいな、こんな国」というお話です。 この国では赤ちゃんが生まれると、出生届と同時に「言語」と「楽器」が指定されます。 たとえば「ケチュア語」と「フルート」を指定されたとします。 指定方法はただのくじ引きです。 (ただし公平を期するため、英語や中国語などのビジネスに役立つメジャー言語は除外されています。またピアノやパイプオルガンなどの自力で運べない楽器も除外でしょう) 指定されてどうなるかというと、ただ「あなたは運命によって、ケチュア語とフルートに選ばれました!」

          ひとり1言語&1楽器主義の国

          アイデンティティ崩壊した図書館の末路

          よくビールの新商品PRで「ふだんビールを飲まない方や、苦手な方にも楽しんでいただけるよう、ビール独特の香りや苦みを抑え、すっきりと飲みやすく仕上げました!」と謳っていることがあります。 私などはビール好きで、それもベルギービールのような個性的で味の濃いビールが大好きなので「だったらビールなんか飲むなよ!そんなにすっきりがいいなら水を飲め!」とつい思ってしまいます。 実際に飲んでみても、どうもビールとしてもビールでない飲み物としても今ひとつで、結局定番化しないことが多いですし

          アイデンティティ崩壊した図書館の末路

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第15話

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          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第15話

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          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第14話

           元日の風邪以来、亜紀さんはあまり具合が良くない。寝たり起きたりしているうちに正月休みが終わってしまったので、ふらふらしながら出勤していった。  食も細くなった。せっかく最近はいくらか食べられるようになっていたのにまた逆戻りだ。私のとっておきの病人食、卵とかつおぶし入り味噌おじやを前にしてため息をついているので、じれったくなってスプーンを取り、おじやをすくって差し出した。 「はい、あーん」  亜紀さんはぎょっとしたように顎を引き、すこし寄り目になって私の差し出したスプーンを見

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第14話

          「売れない○○」であり続けるために

          今回ご紹介する本はこちら。 芸人という病 - マシンガンズ・西堀亮 (単行本) | 双葉社 公式 (futabasha.co.jp) 要するに「売れない芸人のドキュメンタリー」なのですが、何と言ってもこの本の魅力は、成功した芸人の昔話ではなく現在進行形で売れていない芸人さんたちの「生き生き」というか「生々しい」実態の告白であるところでしょう。 データとして、各芸人さんの毎月の収支が掲載されているのもリアルです。 私自身「売れない図書館司書」なので(いや仕事はフルタイムで

          「売れない○○」であり続けるために

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第13話

           年末年始に何の予定もなくなったので、例年どおり帰省することにした。荷造りをしているとコートのポケットからジロに渡す予定だったクリスマスプレゼントが出てきて、クローゼットの奥に放りこんだ。    図書館も年末年始は閉館なので、亜紀さんはいつもの休日と同じように散歩して本屋巡りをして、借り貯めた本を読んで過ごしている。絶対に帰省というものをしないので、私がいないあいだは毎年一人でうちにいるのだと思う。亜紀さんは年末年始が嫌いだった。私も働くようになってその理由がわかった。私たち

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第13話

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第12話

           思えばその日は朝からろくなことがなかった。    エスカレーターの故障であと一歩のところでいつもの電車に乗れず、ようやく乗った電車は異常信号で十数分停車した。車内は地獄のような混雑で、その間ずっと私は悪臭を放つ人の背中に押しつけられていた。遅刻寸前で会社に駆けこみ、ロッカーの扉を閉めたところでビッという嫌な音がしたかと思うと、スカートの裾をまつった糸が全部ほどけていた。仕事中も、前日ささいなミスをしていたことが発覚して、前から嫌いだった人に「あなたこの仕事向いてないんじゃな

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第12話

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第11話

           ジロの仕事が忙しいことはもともとわかっていた。それでも夏前までは一応日曜日の休みは確保されていたし、定時で上がれる日に待ち合わせて会うこともできたので、これくらいならまあいいほうだろうと思っていた。    それが一変した。次の休みがいつになるかまったく見通しが立たず、定時に上がれる日など夢にも考えられなくなった。休めるはずの日に会う約束をしていても、急に仕事が入ってだめになることが続いた。  もっとひどいのは会っている最中に電話が入って呼び出されることだ。  私の誕生日にち

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第11話

          梅はバラ科で、桜もバラ科

          私は本の好きな子どもでした。 毎週、近所の図書館に通いつめて本を借りていました。 当時は貸出冊数の上限が8冊で、それを各2回ずつ読んでいたので(同じ本を繰り返し読むのが好きだったのです)、月間で延べ64冊くらい読んでいた計算になります。 福音館書店の古典童話シリーズが好きで、『三銃士』や『ガリヴァー旅行記』といった上下巻に分かれたぶ厚い本を見るとワクワクしました。 図鑑も好きで『学研の植物図鑑』を愛読しており、料理している母に向かって「キャベツはアブラナ科だけどレタスはキ

          梅はバラ科で、桜もバラ科

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第10話

          「萩原さんは給料分の仕事だけしていればいいから」  そう言ったのは深谷さんだ。私と同じ契約社員で、更新と再雇用を繰り返してもう十年以上働いている。小柄で色白で、いつも瞼が腫れぼったく、下唇がすこし出ているせいか伝統芸能のお面のように見える。腰が悪いそうでコルセットを装着していて、そのせいでアヒルのようにひょこひょこと歩く。年齢は亜紀さんと同じくらいだ。  私が不服そうな目をしたせいか、深谷さんは言い足した。 「がんばるのはいいけど、あまりにも割に合わない努力は長続きしないし

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第10話

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第9話

           卒業してから最初にサッちゃんと会ったとき「じつは今ジロとつきあっている」と打ち明けると、ほらやっぱり、という顔をされた。 「どうせいつかそうなると思った。ジロは最初から日向子が好きだったからね」 「そうかな」悪い気はしない。 「いつから?」 「卒業式のすこし前」 「ジロから告白されたの」 「うん、まあ」  サッちゃんは詳しい経緯を根掘り葉掘り聞きたがったけれど、私は断固としてそれ以上は口を割らず、後はお互いの仕事やほかの同級生の近況を報告して別れた。

          【小説】おいしいものを、すこしだけ 第9話