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Noteの文章がすべて自動で書かれる未来が来るか?

ロアルド・ダールの『あなたに似た人』という短編 (III)がとても面白い。ロアルド・ダールと言えば『チャーリーとチョコレート工場』という映画の(あのファンシーな格好に身を包んだジョニー・デップが主演の映画ですね)原作者と言えば伝わる人もいるかもしれない。この有名過ぎる短編集はただの"面白い"、もしくは"上手い"小説ではない。もちろん短編の名手というだけあって、ストーリー展開も巧みだし紡ぐ言葉はするするとしているようでいて、ガチっと読み手の心を掴んで離さない。

ただこの本に通底するサディズム --- そう、それは欲望に翻弄される人間のどうしようもない姿を皮肉たっぷりにそしてどこまでも滑稽に描く様には"毒"というものを感じざるを得ない。コーヒーで例えるならば、甘いカフェラテというよりはエグ味たっぷりのエスプレッソをぐいっと飲み干すような感じだろうか。味わった後には、喉の奥で引っかかる苦みに気づくことだろう。

(ここから先はネタバレを含むのでご興味ある方はぜひ先に本をチェックしてみてくださいませー。)

偉大なる自動文章製造機

この短編の中に『偉大なる自動文章製造機』というストーリーがある。

電気エンジニア集団 "ジョン・ボーレン社"で働くアドルフ・ナイプ (背が高くて痩せていてやたらと歯が目立つ男)、そしてその社長のミスター・ボーレン (背が低くて小肥りで脚が短い男)が紡ぎあげる物語だ。

天才エンジニアであるナイプは世界最速の電子計算機を発明した後、あるアイディアを思いつく。それは小説を自動で書き上げるマシーンを開発することだ。彼が心から求めていたこと --- それは実は小説家として成功することだった。

小説を次々に自動で書き上げては、それを出版社に売りまくる。ミスター・ボーレンは最初このアイディアに難色を示す。「そんなものビジネスになるのか?」と。だがナイプはこう説き伏せるのだった。

「最近は、ミスター・ボーレン、手づくりの商品には望みはありません。大量生産品に太刀打ちできません。特にこの国ではーーーそんなことはご存知ですよね。絨毯‥椅子‥靴‥煉瓦‥陶磁器‥なんであれーーー今ではみんな機械でつくられています。品質は劣るかもしれないが、そんなことはどうでもいいんです。重要なのは生産コストです。小説もまた ー そう ー ひとつの製品です。絨毯や椅子同様。商品を届けさえすれば、どのように製造されたかなんて誰も気にしません。ぼくたちはそれを大量に売るんです、ミスター・ボーレン!この国のどの作家よりも安く売って、市場を独占するんです!」

あなたに似た人 II』の『偉大なる自動文章製造機』より

ナイプに気圧されるかたちで、ミスター・ボーレンもこのアイディアに虜になっていく。

小説を自動で書き上げるマジック。それは機械学習だ。あらゆるストーリー、あらゆる言葉をマシーンに放り込んでそれを学習させていく。小説を買い上げる出版社にはそれぞれ好みというものがある。その好みに応じて多種多様なカテゴリー・スタイルの小説をジャンル分けしながら量産するのだ。そして小説家の名前も使い分ける。出版社からすると「あの会社はたくさんの優れた小説家を抱えていて、実に種類に富んだ小説を世に送り出すではないか」と映るわけだ。

小説を書くプロセスは至ってシンプル。ボタンをぽちぽちと押すだけだ。こんな具合に。

「まず、書き手は一連のマスターボタンのひとつを押すことで最初の選択をする。これには歴史もの、風刺もの、哲学小説、政治もの、ロマンス、官能小説、ユーモア小説、オーソドックスな小説といった種類がある。次に二番目の列 (基本ボタンの列)からテーマを選ぶ。これには軍隊生活、開拓時代、南北戦争、世界大戦、人種問題、西部劇、田園生活、少年時代の思い出、航海、海底にまつわるものなど、さまざまな種類がある。三番目のボタンは文体で、古典的、奇抜、痛快、ヘミングウェイ風、フォークナー風、ジョイス風、女性向けなどの中から選ぶ。そして四番目の列で登場人物を、五番目の列で小説の長さを、といった具合に十番目の列まで事前選択ボタンを押していく。」

あなたに似た人 II』の『偉大なる自動文章製造機』より

ナイプはこの画期的なマシーンを開発した後に、どんどん小説を書いては売り捌いてビジネスを軌道に乗せる。

そして更なる一手をかける。それは現役で売れている作家に一生食べているだけのお金を渡すのを条件に、今後小説を書くことを辞めさせるのだ。そうすることで、ナイプのマシーンは狂気のごとく市場を独占していく。

「そうしてこの世のすべての小説はあのマシーンによって量産されていくのだった‥。」とまでは書いてないけど、そんなことも想像させる。

ちなみに作家がカネをもらって小説を書くことをやめるのか?その問いにナイプはこう得意げに答える。

ナイプはにやりと笑った。唇がめくれ上がり、長く青白い歯茎が剥き出しになった。「なぜって、機械が書いたもののほうが自分で書いたものより出来がよかったからですよ。ただそれだけのことです。」

あなたに似た人 II』の『偉大なる自動文章製造機』より

Noteでも出来るんじゃないか?

この作品は震え上がるほどおもしろい。スリル満点ながらある種ホラーのような怖さも感じさせる異様な作品なのだ。なぜだかAmazonのレビューはそんなに高くないけれど (文学作品にありがちですね)、文句なしの傑作だ。

この小説が初めて世に出たのは1953年。その時代に「機械学習で小説を書き上げる」という着想を得ていたところにまず驚愕する。ぼくらがAIとかビッグデータとかChat GPTとか言う前にこんな具体的なアイディアを持っていたとは。そしてそれを一級のエンターテイメント作品に仕上げてしまうとは。すごいですね、ほんと。


さてこの話を読んでいるときに、ずっと頭に浮かんで離れない考えがあった。それは「Noteでも出来るんじゃないか?」ということだった。つまりNote上にあるすべての文章を機械学習させて自動で文章を書き上げてリリースしていくのだ。

Noteが持つ大量のテキストコンテンツ。それは小説、エッセイ、日記だったりと多岐に渡る。そのカテゴリー別に、そして更にジャンル別に (例えば小説だったらラブストーリー、ヒューマン、ホラー、ミステリーといった感じで)コンテンツを整理した上でどんどんマシーンに放り込む。その中でも閲覧数やスキ数が多く、また読了率が高いものを中心に機械学習させていく。するとあたかも一流の作家が書いたような作品が生まれていくのは時間の問題だと思う。

奇想天外なことを言っているようで、技術的には十分可能だと思うのだ。もちろんたくさんの時間と労力を要することは明白だけれど、それはタイムマシーンを開発することよりもずっと現実的なことだと思う。

一流の作家と自動文章製造機がNote上で競い合う世界。おもしろいですね。「今年の創作大賞は〇〇さん、××さん、そして△△さんです!」と発表したところ、調べてみたら実はどれも自動文章製造機が作り出したアバターだった‥なんて世界も来るかもしれない。

Noteがやらないとしたら?

「クリエイターの創作意欲を向上・維持していくことを大事にしているNote社がわざわざそんなマネはしないだろう。」

そんな意見はもっともだと思う。でもNote社が自分でやらなくても外部の人がそういうマシーンを作ることはぜんぜん出来ると思う。図らずも誰かがやってしまうという話だ。

Noteのコンテンツがオープンになっててどこからでもアクセスできるようになっていることを踏まえると、外部からコンテンツを(ボットであることがバレないように細工しながら) 収集して自前のマシーンで機械学習させて…なんてことは出来そうですね。そして文章が出来たらどんどんそれをNote上で発表していく。クリエイター名は文章のタイプや文体のスタイルに応じてそれぞれ別のものを用意する。30代女性っぽかったら「アラサーのミドリ」さんとか、50代男性だったら「初老のタケシ」さんとか。裏にいるのが本物の人間かマシーンかなんて、きっと誰にも分からないだろう。


え?なんでわざわざそんなことするのか?

うーん、なんででしょうね。でも実は理由ってそんなにいらないかもしれない。

Noteを書く人が文章を書くことにクリエイティブさを発揮したくなるように、マシーンを作ることにクリエイティブを発揮したくなる人もいるだろう。

この「自動文章製造機」というアイディアに虜になってしまったマッドなエンジニアがいたとする。そんな彼や彼女は、誰に頼まれるでもなく好奇心の奴隷になってある日想像上のものを創造してしまう。そんなことも十分に考えられることだ。

それはその昔ジャック・ドーシーが「あ、こういうのあったらいいな」と思ってTwitter (現X)を開発してしまったように。ある日ぽんっと世の中に出てくるなんてこともあるかもしれない。

さて今日はなにを飲もうかしら。

今日はそんなところですね。シアトルにて、港の近くのカフェでぼんやり考えごとをしながら。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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