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僕はCOMME des GARÇONS(コムデギャルソン)が嫌い


僕はCOMME des GARÇONS(コムデギャルソン)が嫌い

コムデギャルソンが嫌いです。

理由はいくつかあるのですが簡単にまとめますと、

・言ってる事とやってる事に違いが感じられる

という点ですかね。具体的な事例をかいつまんでお話しますと、

「ジーンズ1本が何百円なんてありえない。どこかの工程で誰かが泣いているかもしれないのに、安い服を着ていていいのか。いい物には人の手も時間も努力も必要だからどうしても高くなる。いい物は高いという価値観も残って欲しい」

まずはこちら。”いい物は高いという価値観も残ってほしい”という言い分はわからなくも無いのですが、

それなら何故、H&Mとコラボしたのか。ビジネスとしては正しいと思いますが、H&Mとのコラボはどちらかと言うと「安くて良い物」という価値観が強くなるのではないかと。

その他にも…、

とあるインタビューにて川久保玲さんは東日本大震災直後、

「展示会を中止したら工場が仕事を失うことになる。」

と、展示会開催を強行した時の事を語られていました。しかし、本当に縫製工場の仕事を担保するのであれば「発注量」が重要になります。以前読んだ「鎌倉シャツ 魂のものづくり」から一部抜粋しますと、

宇惠シャツ(大阪府大阪市)は四年前までは、バーバリー、コムデギャルソンなどの高級ブランドを手がけていたが、現在は鎌倉シャツのみに絞り、月四000枚から五000枚を生産している。

そして高級ブランドの生産を辞めた理由としては、

以前、宇惠シャツの他社との取引は、発注が五000枚あったかと思えば、いきなり二000枚になるなど安定しなかった。

と記載されています。結局、発注量を担保できないのであれば仕事があっても工場は困ります。こういったところを見ると、どうしてもコムデギャルソンを好きになれないのです。


【コムデギャルソンとの出会い】

コムデギャルソンとの出会いは大学生の時。兄の着ていた洋服をたまに借りて着ていたんですが、そんないいブランドとは認知が無いまま、何となく着ていた事を覚えています。(コムサデモードと区別付いてなかった…。)

大学を中退し服飾専門学校に入学すると、デザイナーの先生が川久保玲さんを「日本三大デザイナーの一人」と仰られており、尊敬の念を抱くと発言していました。若者にとって学校の先生が「尊敬する」とまで言う人は、一体どのくらいすごい人なんだろうと思わすのに十分な力がありました。この時、自分の中で川久保玲さんの株が爆上げになりました。が、それも束の間、とある出来事から一気にコムデギャルソンに興味が無くなります。

服飾専門学校には一部ですが、デザイナーズブランド信仰の人間がおりまして、安い服(セレクトショップオリジナルも含まれる)を着ているとバカにされたりもします。そういう人間がよく着用していたのがコムデギャルソンでした。

こんな感じですね。僕が今だにオシャレさんが怖いのは、こういった人をたくさん見てきたからでしょう(笑)余談ですが、そういった人たちは就職面接でコムデギャルソンを受け、二次面接で落ちたのにも関わらず、「二次に進めた」と誇らしげになるくらい狂信的でした。

「落ちたのに何で誇らしげなん…?」

と当時から不思議に思っていました。こちらがいくら有名SPAに内定をもらおうが、彼らの「コムデギャルソンの二次面接に進んだ!」には価値として及ばないような、そんな感覚ですね。こういった体験がコムデギャルソン嫌いに拍車をかけたのは言うまでもありません。ここに関してはブランドからしたら、ただのいい迷惑でしょう。


【高級ブランドのビジネスモデルを知る】

そんな捻くれたファッションライフを過ごした僕が、新卒で入社した会社はまさかの「高級ブランド」を取り扱うアパレル商社でした。

「トレンドの起源はコレクションから始まる!」

などと、自身のキャリアを正当化する為に思い込んでいた節もありますね。しかし、ラグジュアリーのビジネスモデルを知るとそんなファッションへの夢や希望を打ち砕かされそうな事実に直面する事もしばしば。

新卒で入社した当時、先輩から「デニムの生地代なんて500円程度だよ」と言われた時に、自分が売っている5万円以上するデニムって何なんだろう?と思ったりもしました。(もちろんクラッシュ加工などしているデニムは人の手が加わっているので、その分コストアップするのですが。)

それでもそんな環境にいると、不思議と高い物に対して抵抗もなく、自分もめでたくデザイナーズ信仰の一人になってしまいました。ちょっとした素材感やシルエットの違いで、数万円の価格差も気にならなくなってしまうんです。服って本当に不思議。

そんな感じでブランドのビジネスモデルについて知ってくると、コムデギャルソンがいかに優れたビジネスを展開しているかがわかってきたりします。

上記記事のタイトルにもなっている「畏敬」という念は僕自身、コムデギャルソンのビジネスモデルに対しては同様の心情です。しかし、世の中にコムデギャルソンのクリエイションにフォーカスした記事や書籍はたくさんあるのに、ビジネスモデルにフォーカスしたものがあまり見当たらないのです。(僕が知らないだけかも知れませんが)という事で、取り急ぎAmazonでコムデギャルソンに関する本を買えるだけ買ってみまして、個人的にコムデギャルソンのビジネスモデルがすごいと思う点を自分なりにピックアップしてみました。


○複数ラインを運営

ブランドビジネスをしていると必ず出てくるのが、「別ライン」の展開。単純に売上を増やそうと思うと、既に確立されたブランドネームを使い、新たなラインを展開するのは効率が良いでしょう。最新のインタビュー記事を読む限り、コムデギャルソンの現時点でのブランド数は18ブランド。

しかし、これはラグジュアリーのビジネスモデルとは対極に位置します。ラグジュアリーではブランドイメージがブレてしまうからという理由でラインをむやみに増やしたりしません。シャネルやエルメスのようなブランドにセカンドラインが無いのはこの為ですし、最近ではバーバリーもライセンスを廃止した事で有名ですね。アルマーニやドルチェ&ガッバーナはセカンドラインを継続していますのでブランドによりけりではありますが、濃さを維持したまま18ブランドを運営するのってめっちゃハードル高いと思います。一つ一つを規模拡大していないからこそ可能なビジネスモデルかと。市場規模を読むのが難しく、規模拡大のさじ加減が命取りになりかねないでしょう。

面白いのは、それぞれのブランドアイコンは明確であり、新しいラインを増やす度に、まるで自社ブランドで実験をしているかのように見えます。ジュンヤワタナベのMENSラインでは有名ブランドとのコラボが目立ちますし、アパレルより利益率の高い香水も、特化したラインを用意しています。

そして、決まってアイコンが確立された後は、トータルブランドとしてアイテムを拡張しているのです。(香水は流石に拡張していないようですが)シャツブランドとして作られたCOMME des GARÇONS SHIRTが、後々バッグや靴を展開するといった感じですね。売上を最大化しようと思うと良い手なのですが、アイコンやコンセプトがユーザーに刺さってないと使えない手法かと。このあたりのブランド展開が非常に秀逸ですね。


○クリエイティブと経営の分離

ラグジュアリーではクリエイティブと経営は分離しています。シャネルでもマーケティング部門はニューヨークに、アトリエはパリと分けています。しかし、コムデギャルソンではデザイナーである川久保玲さんが経営もクリエイティブも担っています。

「自分のやりたいこと仕事にする。自分の作ったものに最後まで責任を持つということにつきます。だからデザイナーがトップにいた方が良いでしょう。」

とあるインタビューでも上記のように語っています。ヨウジヤマモトはそれで失敗しているのですが…。これは超個人的見解なのですが、川久保玲さんはビジネス寄りの人であり、クリエイションを担保しているのはパタンナーの皆さんなのでは?と勝手に解釈しています。(ご本人は「クリエイティブとビジネスは別物ではない」と語られています。)

コムデギャルソンでは、川久保さんが言葉をパタンナーに伝えて、それをパタンナー自身が考えて制作するというフローのようです。それが原因からなのか、社内で新ブランドが立ち上がる時は、パタンナーが起用されています。川久保玲さんがクリエイションと経営のどちら共を完全に担っているのではなく、ここで上手く使い分けされているのではないかと。



○販促がやけに上手い

コムデギャルソンの過去事例を調べていますと、販促が秀逸だという印象が強く残ります。(流通戦略も含まれてたりするかもです。)下記、代表的なところを抜き出してみました。

・ゲリラストア

内容としては、2004年から2009年にかけて世界各地で期間限定店を出店。出店場所の基準が、ファッションのメインストリート以外の地域。店の経営はファッション業界以外の異業種の人に任せた。(現地の学者や食堂の経営者が経営を担当)販売したのはパリのデッドストック(つまり不良在庫)で、在庫が無くなるまで実施されたとの事。

つまりこれって、言い換えればいつもと違う商圏とコミュニティに対して不良在庫を販売しただけなんです。それを「ゲリラストア」という見せ方にした事で付加価値が高く見えるし話題にもなります。ブランド力が備わっていなければ実現できない手法ですが、見事という他ありません。


・オウンドメディアの先駆け?

ファッション雑誌などの既存メディアの編集ではコムデギャルソンの表現が十分ではない。という事で、自前のメディア(オリジナルカタログ)を1975〜87年まで発行します。ブランドが発行するルックブックというより、ビジュアルメインのオウンドメディアといった位置付けでしょうか。自社でメディア運営をするという発想が早すぎますね。


・PLAYBOX

プレイコムデギャルソンのTシャツ販売のブースのようなものなんですが、これを見た時に一番思ったのが「坪効率めっちゃいい!」って事ですね。プレイってTシャツがめっちゃ売れるんですが、それならそんなに坪数いらないし、こういった屋台的な売り場でも十分。効率良いし、見た目もキャッチー。しかもこれが国内売上の1割を占めているというのですから(2012年時点)驚きです。人も場所もいらず、売上は取れるって最高ですね。タピオカ屋と面積変わらんのじゃないの。。


○ファッションは「商い」?

これだけ見ても、コムデギャルソンがどれだけビジネス巧者かよくわかるかと思います。そして、川久保玲さんがどのインビューでも語る事があります。それは、

「前のものをなかったこととしてはじめる。価値観の否定です。新しいもの、見たことがないものへ。」

上記のような「新しいもの」へのこだわりです。これも一見すると、クリエイティブな発言に聞こえるかも知れません。しかし、新しいものを創り上げることで古い物を陳腐化させるファッション業界では、ビジネスとしても正しいと捉える事ができます。ユニクロの柳井さんが言う「成功体験の否定」と同様のようにも思うのです。

それを裏付けるかのように、川久保玲さんはインタビューでしきりに「ビジネスをやっている」と答えています。しつこいくらい、毎度言ってるのにインタビュアーがやけにアーティストにしたがるようにも取れる。そして毎回クリエイティブを賞賛し、ビジネスモデルにはあまり触れていない。読む層を考えると自然とそうなるのかもしれませんが、このせいか僕のようにコムデギャルソンに対して誤解している人間も少なからずいるのではないかと。

カールラガーフェルドも同様な言葉を残していますが、ここまで「ファッションをビジネスに利用している」という明確なスタンスを取っています。ブランド設立から50年が経った今でさえも注目されるブランドであり続けるには、いかにビジネスが上手く回るかをトップが設計できないといけない。何冊読んでも相変わらずコムデギャルソンの事を好きにはなれませんが、ブランドが濃さを維持しながら50年継続している理由は改めて理解できた気がしますね。


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