深志文学部

長野県松本深志高校の文学部は、部員を増やしたい一心でnoteを始めました。 部員の小説…

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長野県松本深志高校の文学部は、部員を増やしたい一心でnoteを始めました。 部員の小説を中心にユルく発信していきます。 毎週木曜日更新中! Twitterもやっています。 そちらもどうぞ。

最近の記事

人 byだて

永遠に広がる空間に、小さな星がひとつ。その星は自ら熱を発することもなく、他の星に温められることはなく。ただ、静かに冷たいまま。  二人の男女が降り立った。 『チッ、やっぱりハズレかよ』 『空気がある星はもう望み薄かなぁ。あーあ、早く新鮮な気体を取り込みたーい、ずっと念話してると声の出し方忘れちゃうもん』  その二人は生身であった。 『まあ、住人を退けるだけの簡単なお仕事だ。さっさと終わらせるか』  ボロボロになった軍服と、身の丈より長い得物を除いて。 『いっつも思うけど

    • 夏目漱石の『こころ』を読んで……ません。byまみむめも

      ※この記事には夏目漱石の『こころ』のネタバレを含みます。『こころ』を未読の方はこの記事に目を通さないことをおすすめします。 また、筆者は『こころ』をまだ読んでいない為、記述や内容理解が実際の作品とは異なる場合があるかもしれません。ご承知おきください。  こんにちは、まみむめもです。進級して早二ヶ月。今回は近況を書いていきます。しばしお付き合いください。  突然ですが、恥ずかしながら私は文學部員であるのに夏目漱石の作品を読んだことがありません。読んでみたいという単純な興味も、

      • そのイスは誰の為にBy南雲すみ

        無事、二年生に進級できました。南雲すみです。  文学部のnote.更新が始まって早9か月が経ちました。光陰ナントヤラ。  さて、社会における人々の役割や立ち位置というのは、時々「イス」に喩えられることがあります。僕が今座っているイスの一つは、「松本深志高校二年生の一人」です。たとえ僕がこのイスに座っていなくても(一年前入試で落ちたとしても)、僕とは違う誰かが座っているはずです。  つまり、ここでいう「イス」とは「社会的に用意された」という感じです。よって、「深志高校

        • 自己紹介 by蟹ノ尻尾

          ペンネーム:蟹ノ尻尾 学年:1年  どうも。一番手は私、新入部員の蟹ノ尻尾です。  好きな食べ物はけんちん汁です。……あ、もちろん蟹も好きですよ。トラフカラッパとか丸くて可愛いですし、ズワイガニなんかとても美味しそうな形してますよね。  好きな本のジャンルは……基本的になんでも読みますが、恋愛系や青春系は自分がダメージを受けてしまうので、滅多に読みません。  そうそう、私が文学部に入部した理由は、単純に本が好きだったからです。読むのも、書くのもです。最近も数冊、新しく本を

          新入部員をお迎えしました! byだて

          お久しぶりです。部長のだてです。 先日、松本深志高校文學部の新入部員歓迎会を実施しました。 新入部員は1年生2名 2年生1名 部員合計10名と、現在の部室では手狭に感じる人数になりました。 お菓子とジュース片手に1人1分の自己紹介を皮切りにして、文學部の概要紹介や文章の書き方講座、アンケートやそれ以降の日程確認など。 これからも、この松本深志文學部は続いていくことでしょう…… 来週からは新メンバーも加わり、また順番を入れ替えてnoteの更新をしていきます。更新の担当者も

          新入部員をお迎えしました! byだて

          カミサマ by春野

          僕、昔ね「カミサマ」になりたかったんだ。 たまたま昔、たまたまテレビがついてて、たまたま映画が流れてて、たまたまとあるシーンが映っていたんだ。 そこでいろんな人が叫ぶの。 「カミサマが私たちをお救いになる!!!」 って。みんな泣きながら笑うの。 「俺たちは幸せになるんだ!」 ってずっとずっと笑ってるの。 ……小さい頃だったからさ、「カミサマ」がなんだったのかわからなくて、とにかくみんなを幸せにできる誰かなんだなって思ったんだ。 だから憧れた。 僕はカミサマに

          カミサマ by春野

          Alive plants by星空

           ある国に、錬金術師の男が暮らしていた。彼は林業用具の製造、販売を行う企業のCEOに就いており、その会社は、斧やチェーンソーの国内シェア5年連続No.1と、経営状況も好調だった。 ところがその頃、彼の国では林業用の斧が凶器となる殺人事件が相次いで起こっていた。 (これ以上、殺人事件が起これば、斧に対する不安感が高まり、我が社の売上が落ちてしまう)  実際には、凶器となった斧は彼のメーカーのものだけではなかったのだが、こうした最悪を想定する思考が、彼を社長に成しあげたのだろう。

          Alive plants by星空

          ネーミング By南雲すみ

          「名前を付ける」。この行為は、かなりしんどいと僕は思う。 子どもの名前。ペットの名前。人形の名前。名前を付けると、基本的にはそのものに愛着が湧いて、「大切にしよう」とか「大事に育てよう」とか思う。僕が将来子供にどんな名前を付けるのか、想像しづらいがその時になればそれなりに真剣に考えると思う。少なくとも、役所の受付で一分くらい考えた思いつきで提出することはない。 さて、文学部ということで小説を書く。その中には登場人物が必須となる。というのも、長い話であれば「彼女」や「彼

          ネーミング By南雲すみ

          古城(三)by五森

          やがて外れの方まで来てしまった。堀に橋が架かり、そこで内堀と外堀が分かたれている。その傍らに、他の堀からは独立した、一見すると池のような水場があった。おそらくは分離された堀だろう。鳥の姿はなく、水草と、鯉が一匹居るばかりだ。半券は近くの植え込みの陰に落ちて、堀に浮かぶのは免れた。私は屈んでそれを拾うと、向こうから歩いてくる友人に駆けて行った。 「見つかる前に早く戻ろう」 友人はやけに焦れた様子で言った。 しかし既に遅かったようで、門衛がこちらへにじり寄ってくるのに気がついた。

          古城(三)by五森

          台湾研修レポート「台湾のお茶文化」byだて

          ※この文章は「深志高校台湾研修」のレポートの一部を加筆、修正したものです  台湾研修3日目のB&Sプログラムで、猫空(マオコン)を訪ねた。  私たちが滞在していた台北から鉄道で「動物園」駅へ。そこからロープウェイに揺られること30分。合計1時間ほどで猫空という山中の土地に立っていた。  一言に「山中」と書いても、日本の(まして長野県の)山とは様相がまったく異なる。  気候区分的には亜熱帯、沖縄本島よりも緯度が低いこの山には広葉樹が多く、ツル植物もところどころに見られる。針葉

          台湾研修レポート「台湾のお茶文化」byだて

          教えてくれ by雪村平良

           贅沢はしなくていい。スーパーの安いカップラーメンで腹を膨らませて、顔にできたにきびに恨み事を言う毎日の方が絶対に面白い。  有名にならなくていい。誰にも注目されることなく、驕らず、静かに社会の歯車になっている方が私に似合っている。  人の上に立たなくていい。ふかふかした椅子の上でふんぞり返っている奴なんて、私の一番大っ嫌いな人種だ。誰かのことをこき使うよりも、誰かにこき使われて疲れ果てた後、自分の家のベッドに倒れ込む方が寝覚めがいいと思うし。  とかなんとか、偉そうに

          教えてくれ by雪村平良

          親知らずを抜きましたbyまみむめも

          こんにちは。まみむめもです。 あれは雪の日でした。水分を多く含んだ雪で、ふわふわというよりはべちょべちょ。道路には多くの水たまりができていて、私はブーツを履きました。 右上下の親知らずの抜歯をしました。 全身麻酔で行うという選択肢もありましたが、私は局所麻酔で行うことにしました。 病院に足を踏み入れる前は緊張はほぼゼロでしたが、いざ病院へ入ると、その独特な空気感が作用したのか、だんだんと不安が募っていきます。微妙な待ち時間もなんとなく落ち着きません。 名前を呼ばれて案

          親知らずを抜きましたbyまみむめも

          特になんでもない by春野

          窓に雪がつくような寒い日の授業中、瞬きの瞬間、そこは夏だった。 蝉の鳴き声と羽音がやけにうっすらと聞こえて、突然夏の記憶が蘇った。 木から溢れ出した空と葉っぱの影の色が混ざって、目を焼き尽くしてしまいそうなあの夏の色。 暑さにやられたコンクリートがアイスと一緒に溶けたあの匂い。 東京に単身赴任した父親に会いに行ったついでに美術館へ行くために歩き回った、慣れない道の景色。 その全てが教室の中に充満した。 いや、私の周りだけだったかもしれない。 とにかく、それは夏だ

          特になんでもない by春野

          ディスタンス by星空

           「わたし、人との距離感がわからなくて…よそよそしかったり、ぶつかり過ぎちゃうことがよくあるかもしれないけど…こんなわたしで良かったら、よろしくお願いします」  「付き合ってください」というあまりにもベタでなんの捻りもない僕の告白を彼女は笑顔で受け入れてくれた。  その後の生活はというと、内容もないのに長電話したり、二人並んで下校したり、休日一緒にデートしたりと毎日が夏休みのように明るい気分でいられる。ただ、言ってた通り、彼女は人との距離感がわからない人だった。  例え

          ディスタンス by星空

          ザ・テレビジョン By南雲すみ

          こんな話を聞いたことがある。二十年も前からある話で、とある人から説明された。 六月六日の午前六時五十九分に、テレビの前で「ラキツイコンプ」(昔は別の言葉だったらしい)と絶え間なく唱えると、時刻は七時を刻むことなく、六時六十分を表示する。ちなみに他の時計は、アナログでもデジタルでも正常に動いている。ついているチャンネルはどこでもよくて、重要なのは「ラキツイコンプ」と唱えることにあるらしい。 そして、しばらくして画面に六時六十六分と表示されると、テレビ画面に「六時六十六分男」

          ザ・テレビジョン By南雲すみ

          古城(二) by五森

           そこは古城の敷地に建てられた博物館の裏手で、建物を通り過ぎると、いよいよ私たちと城を隔てるものは内堀だけであった。視界については遮るものがなく、古城の全容が見えた。晴天により、堀には古城の反射が美しくあった。そのため実物は存在感はそのままに、反射の方に生気を吸い取られているように見えた。妙に硬く縮こまっており、それはこちらに飛び掛かかろうと筋を収縮させているからだと、そう思えた。私たちは古城の間合いに入り込んでいたのだった。  視界の左にこちらに背を向けた門衛が入り込み、先

          古城(二) by五森