藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋…

藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋』『星の綿毛』『クサヨミ』『つきとうばん』『植物標本集(ハーバリウム)』『ひみつの植物』『捨てるな、うまいタネneo』など。BFC5に参戦。連絡は、最下欄の「クリエイターへのお問い合わせ」へ。

記事一覧

「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

 ナミブ砂漠に生える一科一属一種の植物、奇想天外。二枚の葉だけが、一年に十センチ程度生長を続け、千年以上を生きるという。人の一生は、奇想天外にとって数メートルの…

藤田雅矢
5日前
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「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

 黄蘗の木から、エサキモンキツノカメムシが飛び立つ。空へ、宇宙の彼方へと帰って行く。ハートマークのカラータイマーの点滅とともに。足もとでは、得体の知れない小さな…

藤田雅矢
12日前
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緑の莢のマイクロノベル 他3篇 #88

 近頃、その緑の莢みたいなの頭に生やしてる人多いよね。そこから宇宙の声が受信できるって、大丈夫か。なに、耳から根っこ生やしてる人には、言われたくないってか。いや…

藤田雅矢
2週間前
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IMAGINARC 想像力の音楽

森下唯さんプロデュース、2台のピアノと小説が織りなす幻想的アンソロジー!『IMAGINARC 想像力の音楽』、すごい曲目、メンバーの演奏会です。プログラム冊子に「異形たち…

藤田雅矢
3週間前
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「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

 茎長120mはあるゴライアスヒナゲシが朝焼けに蕾をもたげる。大きな一日花が散るとき、その花弁の重さに押しつぶされる家もある。熟れた実からこぼれ落ちる一抱えもあるケ…

藤田雅矢
4週間前
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また「終末時計」のマイクロノベル 他3篇 #86

 また終末時計12時過ぎてるやんか、あんたら何考えてんの。ちゃんと脳みそ大きくしてやって宇宙にまで行けるのに、殺しあいするとかアホちゃう。神さんにかて、堪忍袋があ…

藤田雅矢
1か月前
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SFカーニバル2024

代官山蔦屋書店にて開催されたSFカーニバル、ブースまで来てくださった方、お会いした皆さん、ありがとうございました!

藤田雅矢
1か月前
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「ラショウモンカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #85

 鬼女の腕が咲く。花の形から渡辺綱が切り落とした腕に見立てて、ラショウモンカズラと名付けられた。その腕から鬼女本体を再生する技術ができたそうで、そのうち小さな鬼…

藤田雅矢
1か月前
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植物掌景

 このnoteから、よりぬきマイクロノベル20篇のZINE『植物掌景』作りました。冊子で読むとまた違います。 「えほんやなずな」と、 「弥生坂 緑の本棚」で、お取り扱いし…

藤田雅矢
1か月前
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「春風」のマイクロノベル 他3篇 #84

 両手をうーんと伸ばして、両足も上げるんだよ。そうそうその調子、いい感じだ! 春先、眠っていた冬芽たちを機嫌よく起こして、葉を広げたり花を咲かせたりするのが、わ…

藤田雅矢
1か月前
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「黒いケシ」のマイクロノベル 他3篇 #83

 ひなげしの中心にある実となる雌しべの部分、花びらが落ちたあと朱肉をつけて印鑑に使うことがあるのを知っているか。もし、この黒いケシの実の印鑑を求められたら覚悟す…

藤田雅矢
2か月前
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「3」のマイクロノベル 他3篇 #82

「3」が落ちていた。つまり3の差分だけ、これまでとは世界は変わってしまったことになる。裏返しになった3を拾い上げると、3はとても軽かった。そして、小さく鳴いた。3と…

藤田雅矢
2か月前
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「オニシバリ」のマイクロノベル 他3篇 #81

 山道で気づく花の香り、緑の花を咲かせるオニシバリだ。ずいぶん山に木が増えた。迎え撃つ準備を山が知らせてくれている。鬼が攻めてくる日が近い。この木の繊維で綯った…

藤田雅矢
2か月前
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阿弥陀さまのマイクロノベル 他3篇 #80

 今年は仏さまがえらい豊作でな、どんどん生えていらっしゃる。阿弥陀様なんか生えすぎたのを収穫して缶詰にして、下の村で土産物になってる。さっと炒めていただけば、そ…

藤田雅矢
3か月前
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マンホールのマイクロノベル 他3篇 #79

 このマンホールの下には雨のリサイクル工場があって、せっせと雨雲を製造している。砂漠にはそういうものが無いから雨が降らないんだと教わったが、雨の多い熱帯雨林にも…

藤田雅矢
3か月前
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「セツブンソウ」のマイクロノベル 他3篇 #78

 鬼は外の声に、豆が飛んで来る。やめてくれ、どうしてそんな嫌うんだ。逃げる途中、鬼はそっとしゃがんで大きな手でセツブンソウを摘んで去って行く。セツブンソウの花言…

藤田雅矢
4か月前
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「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

 ナミブ砂漠に生える一科一属一種の植物、奇想天外。二枚の葉だけが、一年に十センチ程度生長を続け、千年以上を生きるという。人の一生は、奇想天外にとって数メートルの葉の時間。探検家ウェルウィッチが見つけた。

 伊勢撫子は江戸時代に作出され、門外不出の献上品でもあった。長く垂れ下がった花弁は傷みやすく、保護のため室内において鑑賞した。うちの先祖は、その花弁を丁寧にほぐして花を整える職にあったという。誇

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「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

 黄蘗の木から、エサキモンキツノカメムシが飛び立つ。空へ、宇宙の彼方へと帰って行く。ハートマークのカラータイマーの点滅とともに。足もとでは、得体の知れない小さな生き物が溶けていく。今回も地球は守られた。

 優曇華の花は三千年に一度咲く吉兆の花だ。だがこの花なら年に三回ほど見かける。ということは、一年で九千年分の時が過ぎ、三度もいいことがあったはずだ。思うに、昨日の麦酒が旨かったのがいいことかも知

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緑の莢のマイクロノベル 他3篇 #88

緑の莢のマイクロノベル 他3篇 #88

 近頃、その緑の莢みたいなの頭に生やしてる人多いよね。そこから宇宙の声が受信できるって、大丈夫か。なに、耳から根っこ生やしてる人には、言われたくないってか。いや、この根から聞こえる大地の声はたまらんよ。

 あっ、逃げちゃう。庭で遊んでいた息子が、急に空を指さして声を上げた。あの雲の上を、大きななにかが走って逃げたという。半透明な奴が青空に蠢いていたのを、息子くらいだった頃、自分にも見えたのを思い

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IMAGINARC 想像力の音楽

IMAGINARC 想像力の音楽

森下唯さんプロデュース、2台のピアノと小説が織りなす幻想的アンソロジー!『IMAGINARC 想像力の音楽』、すごい曲目、メンバーの演奏会です。プログラム冊子に「異形たちの輪舞曲」テーマの掌編「空の瞳」で参加しています。チケット好評発売中!!ぜひに!

https://www.imaginarc.jp/

「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

 茎長120mはあるゴライアスヒナゲシが朝焼けに蕾をもたげる。大きな一日花が散るとき、その花弁の重さに押しつぶされる家もある。熟れた実からこぼれ落ちる一抱えもあるケシ粒を拾って帰ると、今日の夕飯になる。

 六十年前、こうしておまえを囚えておけば、この国のどこまでもオレンジ色の花を咲かせることは無かったかも知れない。そして、あの重大な事件も起こらなかったかも知れぬ。ああナガミヒナゲシよ、時を戻して

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また「終末時計」のマイクロノベル 他3篇 #86

また「終末時計」のマイクロノベル 他3篇 #86

 また終末時計12時過ぎてるやんか、あんたら何考えてんの。ちゃんと脳みそ大きくしてやって宇宙にまで行けるのに、殺しあいするとかアホちゃう。神さんにかて、堪忍袋があるんやで。もうええわ、次は鯨に任せるし。

 同じ季節にコスモスとオダマキとチューリップとビオラの花が一直線に並ぶとき、あなたの心の奥底にある願望も、この花の直列に引き寄せられて一気に開花する。そのための特別な開花調節装置、お安くしておき

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SFカーニバル2024

SFカーニバル2024

代官山蔦屋書店にて開催されたSFカーニバル、ブースまで来てくださった方、お会いした皆さん、ありがとうございました!

「ラショウモンカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #85

「ラショウモンカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #85

 鬼女の腕が咲く。花の形から渡辺綱が切り落とした腕に見立てて、ラショウモンカズラと名付けられた。その腕から鬼女本体を再生する技術ができたそうで、そのうち小さな鬼女が咲きまくって暴れだすから気をつけなよ。

 幸せの黄色いテントウムシ、植物のうどんこ病の菌を食べるのだそうだ。そういえば、となりのスナップエンドウの葉、うどんこ病にやられて白くなっていたな。ありがたい虫だな。さてと、街路樹を切りに行くと

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植物掌景

植物掌景

 このnoteから、よりぬきマイクロノベル20篇のZINE『植物掌景』作りました。冊子で読むとまた違います。

「えほんやなずな」と、

「弥生坂 緑の本棚」で、お取り扱いしております。

「春風」のマイクロノベル 他3篇 #84

「春風」のマイクロノベル 他3篇 #84

 両手をうーんと伸ばして、両足も上げるんだよ。そうそうその調子、いい感じだ! 春先、眠っていた冬芽たちを機嫌よく起こして、葉を広げたり花を咲かせたりするのが、わたしの仕事。もう、春風になってしまったんだ。

 世が乱れたとき、空から降りてくると予言された救世主の瓶詰めを開けるため、いにしえに造られたという栓抜きが、これだ。栓抜きを使うための巨大ロボットはすでに完成しているのだが、救世主はまだ降りて

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「黒いケシ」のマイクロノベル 他3篇 #83

「黒いケシ」のマイクロノベル 他3篇 #83

 ひなげしの中心にある実となる雌しべの部分、花びらが落ちたあと朱肉をつけて印鑑に使うことがあるのを知っているか。もし、この黒いケシの実の印鑑を求められたら覚悟するといい。特別な印鑑は、別世界との契約だ。

 ネアンデルタール人は、ムスカリの花を死者に手向けた。というけれど、土から花粉が見つかっただけだ。自分が昔スナネズミだった頃、あの花が好きで地面の巣穴に貯め込んだものだ。骨が埋まってるとは知らな

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「3」のマイクロノベル 他3篇 #82

「3」のマイクロノベル 他3篇 #82

「3」が落ちていた。つまり3の差分だけ、これまでとは世界は変わってしまったことになる。裏返しになった3を拾い上げると、3はとても軽かった。そして、小さく鳴いた。3と暮らすようになったのは、それからだ。

 3と暮らすいっても、なんということはない。朝起きたら「おはよう」といい、「ただいま」と帰ってくれば、3はちょっと起き上がって応えてくれる。世界の差分が部屋にいるというだけで、外の世界と違う気分に

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「オニシバリ」のマイクロノベル 他3篇 #81

「オニシバリ」のマイクロノベル 他3篇 #81

 山道で気づく花の香り、緑の花を咲かせるオニシバリだ。ずいぶん山に木が増えた。迎え撃つ準備を山が知らせてくれている。鬼が攻めてくる日が近い。この木の繊維で綯った縄は、鬼には切れぬという。縛り上げるのだ。

 冬の空っ風に乾ききった藤の莢がカランと音を立てて落ち、中の種子がバラバラとこぼれる。その様子から未来を予言するのが、藤莢占い師だ。だがそれを攪乱するのは、子供らによる莢の投げ合いだ。それで未来

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阿弥陀さまのマイクロノベル 他3篇 #80

阿弥陀さまのマイクロノベル 他3篇 #80

 今年は仏さまがえらい豊作でな、どんどん生えていらっしゃる。阿弥陀様なんか生えすぎたのを収穫して缶詰にして、下の村で土産物になってる。さっと炒めていただけば、そのまま極楽へと連れて行ってもらえるらしい。

 オランダミミナグサ、漢字で書くと阿蘭陀耳菜草。阿蘭陀のところが、阿弥陀と一字違いで、ありがたい気がして、拝んでいるうち宝くじが大当たりした人がいるらしい。あやかりたいと、道ばたで拝んでいる人も

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マンホールのマイクロノベル 他3篇 #79

マンホールのマイクロノベル 他3篇 #79

 このマンホールの下には雨のリサイクル工場があって、せっせと雨雲を製造している。砂漠にはそういうものが無いから雨が降らないんだと教わったが、雨の多い熱帯雨林にも無いとわかって、疑うことは大事だと知った。

 その鉄板、増えるよね。鉄板に見えるかも知れないけど、それ生きてるよ。裏返したら、脚がいっぱい生えてると思う。やがて大きな鉄板は消え、そのあとに落ちていた小さな鉄板が人を襲いはじめるのは三日後の

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「セツブンソウ」のマイクロノベル 他3篇 #78

「セツブンソウ」のマイクロノベル 他3篇 #78

 鬼は外の声に、豆が飛んで来る。やめてくれ、どうしてそんな嫌うんだ。逃げる途中、鬼はそっとしゃがんで大きな手でセツブンソウを摘んで去って行く。セツブンソウの花言葉は「人間嫌い」、鬼がつけたとも言われる。

 この辺りでは、仏さまはこうやって地面から生えてくるのだよ。たくさんの仏さまがいらっしゃるよう、丹精にこの木を育てるんだ。よかったら、この木の種子をあげよう。この木も、ほかの惑星から持ち込まれた

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