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伝説のパティスリー「エムコイデ」に行ってきた 前編


エムコイデという伝説のパティスリーがあった。

エムコイデはスイーツ激戦区として知られる自由が丘に突如として現れ、そして突如として消えた。

店先に貼られた「移転します」という張り紙。
どこに移転するのか、いつ頃新店舗をオープンするのか、そんなことは一切書かれていない。

ウチのケーキが食べたければ探してみな。

とでも言うのだろうか。さながらワンピースを隠したゴールドロジャーのような所業。移転先のラフテルを求め、数々のケーキ好きが情報の海に潜ったが、移転先の関する情報は全く得られなかった。

それから数年が経ち、誰もが捜索を諦めエムコイデのことを忘れかけていた。

そんな時にTwitterで見かけた投稿に度肝を抜かれた。

エムコイデが軽井沢で求人を出しているとのことだった。

早速俺は「軽井沢 エムコイデ」でググった。
そしたら本当にエムコイデの求人が出てきたのだ。しかし場所は軽井沢。たまたま同じ名前の店舗が求人を出しているだけかもしれない。

そこから数ヶ月後。
俺はこの求人を募集していたお店のTwitter、インスタアカウントを見つけた。そこには紛れもなく自由が丘で出会ったケーキが投稿されていた。

本物だった。本物のエムコイデが復活したのだ。

心の中の小暮(スラムダンクに出てくるメガネ)がつぶやく

「2年も待たせやがって」

正確には移転しますから何年経ったのかはよく分からないが、小暮と同じような気持ちでエムコイデの復活を待っていたんだ。

なぜこれまでなんの情報も出さなかったのか。なぜ軽井沢なのか。様々な疑問が浮かんだが、この際細かいことはどうでもいい。

とにかくエムコイデのケーキが食べたい。

しかし場所は軽井沢。
遠い。あまりにも遠い。

距離なんか関係ない!とにかく行くんだ!
という気持ちと、
ケーキを食べるために軽井沢まで行くなんてあり得ない。
と思っている自分がいる。

アンビバレントな心境に苦悶する日々の中で、徐々に気持ちはそれでも軽井沢にいきたいという方向に傾いていった。

しかし軽井沢までケーキを食べるなんて正気の沙汰ではないという気持ちもまだ残っている。誰か、誰かこの軽井沢への気持ちを止めてくれ。

マッドサイエンティストによって殺人マシーンに改造されてしまった心優しき青年の気持ちが分かってきた。

「こ…して…ころ…して…僕を、殺して…」

もはや自分の理性だけではエムコイデへの衝動を抑えきれなくなった俺は、第三者への助けを求めることにした。

YouTuberのネコノメだ。彼に
「エムコイデが軽井沢に移転したから食べに行こうぜ〜」
と誘えば、
「軽井沢までケーキを食べに行くなんて狂ってんのか」
と断られるはずだ。そうすれば俺もエムコイデへの衝動を断ち切れるはず。


俺はネコノメに電話をかけた。
「もしもしネコノメさん〜。エムコイデが軽井沢にオープンしたんで食べにいきませんか〜?」

さぁネコノメよ。俺のこの罪深い衝動に終止符を打ってくれ!一思いにやってくれ!断るだけの簡単なお仕事だ!

「軽井沢?あぁいいよ、行こうぜ〜」





おい…見てるか谷沢…お前を超えるケーキ狂いがここにいるのだ…

それも…二人も同時にだ…




まさかの快諾により軽井沢行きが決定。
心境としては山王戦の安西先生のそれ。


後日、もうここまできたら覚悟を決めるしかないと、新幹線の料金を調べていたその時。
ネコノメからラインが入った。


「こしさんも軽井沢いくってよ〜」


こしさんとはアトリエチョコッシーという怪しげなお菓子教室を開いているパティシエ兼熊

なんと、なんとなんと、
もうひとりケーキ狂いがいたのだ。

これには安西先生だけでなく天国の谷沢、湘北高校バスケ部並びに関係者及びPTAの皆さまと来賓紹介・祝電祝辞披露卒業生起立校歌斉唱のクリビツテンギョーだ。

かくしてケーキ狂い3人による軽井沢日帰りケーキツアーが決定した。

この3人でケーキを食べに行くことは過去にも何度かあった。
その度に争いが起きる。そう、

誰が待ち合わせに遅刻するかという凌ぎ合いが始まるのだ。

1分でも遅刻しようものなら「社会不適合者」の烙印を押され、ケーキ代を全額全額奢らされるという地獄のデスゲーム。

そもそも遅刻しないのは社会人として当たり前だ。
遅刻しないことを競い合っている時点ですでに社会不適合に片足を突っ込んでいることに彼らは気付いていない。

ここでそんな我らの足の引っ張り合いをご覧いただきたい。

「ミケ」がネコノメ、「熊吉くん」がこしさん。

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8:44東京駅発の新幹線で行くことになり、集合時間は「東京駅八重洲中央口に8:00」と決まった。


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6:30に起床すれば間に合うと豪語したフジノシンであるが、実は6:00に起きないと厳しい状況だった。

そのことを前日の夜に気付き、目覚ましを6:00にセットし眠りについた。
決して遅刻は許されない。仮に遅刻しようものならケーキ代を払うだけでなく、この国での基本的人権までもが奴らによって奪われることになるだろう。

そして朝、私の目を覚ましたのはアラーム音ではなく背筋を凍らせる感覚だった。
誰もが一度は味わったことのあるあの感覚。微かな違和感。

なんだか朝日がいつもより眩しい気がする。
アラームが鳴った記憶はない。待て、今の時刻はっ?!そんなバカな…!

6時、、、30分だと、、、!!!??


ち、遅刻だ、終わった、、、
俺はもう、自由に外を走り回ることはできないだろう、、、

いや、まだだ。
まだ諦めるわけにはいかない。

最後まで希望を捨てちゃいかん。諦めたらそこで試合終了だよ。

心の中のカーネルサンダースがそう教えてくれる。

電車の時刻を改めて調べると、10分後の電車に乗れば間に合うことが分かった。
普段なら準備をして駅に着くまでに30分はかかる。
しかし私はラピュタの海賊のおばさんも腰を抜かすほどの疾さ(はやさ)で身支度を済ませ、早朝ランニングをしているおじさんの追随を許さない俊さ(はやさ)で駅まで向かい、なんとか電車に間に合った。

電車の中で息を整えていると、ネコノメからラインが来ていた。
俺がちゃんと起きているかを確認するためのものだ。

無事間に合うことを報告しようと思ったその時、妙案を思いついた。

ネコノメが8:20に着くと言い出したのだ。
ここでこしさんと俺が8:00に間に合うと言い出せば、ネコノメは意地でも8:00に到着するように頑張ってしまうかもしれない。

ここは俺もそのくらいの時間になると油断させて、ネコノメの遅刻を誘導するのが上策。

ハハハハハハ!地獄に堕ちろネコノメぇぇぇぇ!!!!

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作戦通り、東京駅に一番乗りを決めたフジノシン。

こしさんも集合時間には間に合ったようだ。
問題はネコノメ。さぁあと20分後に来い。ケーキを奢るのだ。

こしさんらしき人物を見つけると、後ろに見覚えのある姿があった。

「どうも、ネコノメです…違うな、腕の振りが弱い…どうも、ネコノメです…これも違う…ソリットがネイキッドにジャックインしていない…どうも、ネコノメです…ネコノメです…」

間違いない。
このブツブツ言いながらオープニングの挨拶を練習しているこの男…!

ネコノメだ…!!!!

なぜ、なぜ奴がここにいる?!
貴様は遅刻しているはず…!?

まさかやつも遅刻すると偽の情報を流し、俺たちを油断させる作戦だったのか。

この時の気分は山王工業の松本。
「もう俺は腕もあがんねぇのによ」という三井のブラフにまんまと引っかかった松本だ。

騙し合いばかし合いの結果、三人とも集合時刻に間に合うという奇跡的な結果でエムコイデ前哨戦は終了した。

次こそはなんとしても遅刻させてやるという決意を胸に秘め、いよいよ軽井沢へ出発。

まずは新幹線の切符を買わねばならない。
券売機に三人横並びになり購入するが、私は新幹線に慣れておらず、いまいち買い方が分からなかった。これは恥を忍んで2人に教えてもらおうとしたその時、

隣のこしさんが
「これ、どのボタンを押せば良いんですか?」
と聞いてくる。

オーマイガー

「大人になってチケットの買い方すら分からないなんてそりゃないっすよこしさん〜」
と棚上げマウントを取ろうとしたその時、

隣のネコノメが
「え?金沢行きでいいんだよね?」
と聞いてきた。

こいつに関しては論外だろう。
軽井沢に行くって言ってんだろう。なんで更に遠くに行こうとしてるんだよ。ルミュゼドゥアッシュ行く気なんか?

チケットが買えない2人と行き先を把握していない1匹。
果たして彼らは無事に軽井沢のエムコイデにたどり着けるのか!

後編へ続く!












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