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伝説のパティスリー「エムコイデ」に行ってきた 後編

前回のあらすじ:遅刻しなかった。


駅弁を買い込み颯爽と新幹線に乗り込む3人。
軽井沢までの所要時間は1時間ちょい。意外とすぐ着いてしまうのだ。

1時間ちょいなら自由が丘に行くのとさほど変わりはない。
軽井沢は実質、自由が丘だと言っても過言ではないだろう。

つまりエムコイデは自由が丘から自由が丘に移転したことになる。これには自由が丘マダムたちも大喜び。

新幹線で何を話していたのかはあまり覚えていないが、3人でお喋りしていたらあっという間に軽井沢に到着した。
初めての軽井沢に対して、避暑地、金持ちの別荘があるというくらいしか事前知識は持ち合わせていない。

駅のホームに降り立って、ここが避暑地だということを実感する。
涼しい。体感的には東京よりも2.3℃涼しく感じる。半袖で来たが、風が吹けば少し肌寒くすら感じるほどだ。

すごい。なんて快適な気候なんだ。金持ちどもがここに別荘を建てたくなる気持ちが分かる。金持ちの気持ちが分かるということは、精神的には俺も金持ちなのだ。

軽井沢の澄んだ空気を肺に入れると、
「いや〜さすが軽井沢!空気が軽いっすね〜!軽井沢だけに!」
というしょうもないことを言いたい衝動に駆られた。

全くもってつまらない発言だということは理解している。
ここ軽井沢の地で、今まで数多の人間がこの趣旨の発言をしてきたことだろう。いわば軽井沢版「バナナはおやつに入りますか?」なのだ。

しかしいくらつまらないからといって、この湧き出る衝動を抑えることは難しい。男には、たとえスベると分かっていても言わなきゃいけないことがある。
恐るなフジノシン。大丈夫。こしさんとネコノメなら受け止めてくれるさ!

ぶちかませぇぇぇぇぇ!!!!!!

と思ったその時、

「う〜ん、軽い!軽いぞぉ〜!!!!」

とネコノメが盆踊りのような動きと合わせて叫んでいた。

心の底からぶちかまさなくてよかったと思った。
ネコノメのこの動き、この発言、人としての尊厳を放棄したとしか思えない。
男にはスベると分かっていても言わなきゃいけないことがある???
ないよ。そんなのないよ。

軽井沢に来て「軽いぞ〜」って言うやつ、先生にむかって「バナナはおやつに入りますか?」って聞くやつ、集合写真の1番前で横に寝転ぶやつはだいたい面白くない。多分足も臭い。

人の振り見て我が振り直せとはこのことか。ひとつ勉強になったところで、エムコイデに向かって歩き出した。

エムコイデまでは軽井沢駅北口から徒歩30分。
ほとんど真っ直ぐ進めば到着というなんともわかりやすい場所にある。

通りを進んでいくとレンタサイクルのお店、美術品のお店、レストランなど地域色の出た色んなお店があり面白かった。
ただ、コンビニは一件としてない。

途中で「腸詰屋」という精肉店?のようなお店を6件ほど見た。やたら見かけた。一つの通りになぜ同じ店がこんなにあるのか謎だが、ほんとにやたらと腸詰屋が建っている。コンビニはないのに、コンビニレベルで腸詰屋がある。一体どれほど腸詰を行なっているのだろうか。
軽井沢のイメージが「避暑地、金持ちが別荘を建てる、腸を詰める」にアップデートされた頃、我々はようやくエムコイデに辿り着いた。

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ここまで東京駅から約2時間。
前回の記事から約5000文字ほど使ってようやく辿り着いた。

タイトルが「伝説のパティスリーエムコイデに行ってきた」にも関わらず、前編は新幹線に乗り込んですらいない。圧倒的文字数の無駄遣い。俺の執筆している時間と読者の時間を返してほしい。

ですが皆さん、大変長らくお待たせいたしました。
ここからがようやく本題でございます。ここまではガンツで言うところのオニ星人編、ここからが大阪編です!

さて、エムコイデに辿り着いた我らが、まず最初にすることはなんでしょうか?
そう、決まっていますね。






ジャケット撮影です。

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新進気鋭の演歌ユニット「アトリエ・ネコッシー」待望のファーストシングル

「男酒〜軽井沢浪漫譚〜」

全国のTSUTAYAにて絶賛予約中です。
もはやケーキを食べに来たというよりも、ジャケット撮影のために来たといった方が正確かもしれません。

まぁ冗談はさておき、とうとうエムコイデのドアをくぐります。
店内は当然ながら自由が丘時代よりも広い。正面にショーケース、左手側にイートインスペースがありました。

ショーケースには自由が丘で見たケーキたちと焼き菓子が数種類並んでいました。
ここにきてようやく俺はエムコイデに来たんだなと実感が湧いてきます。

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店主らしき男性(シェフかもしれません)が出てきて、注文を聞いてきます。

そこで僕はエムコイデに来たら言ってみたいセリフ第一位のあの言葉を解き放ちます。

「ショーケースのケーキ全部ください」

このセリフを言えただけでも、遥々軽井沢まで来た甲斐があるというものだろう。

イートイン席に横並びで座ると、次々とケーキが運ばれてくる。
テーブルは4席あったが、撮影している僕たちを見てテーブルをくっつけてくれた。なんという気配り、心遣い、ほんとうにありがたい。

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エムコイデのケーキが一堂に会した、なんとも壮観な眺めだ。

大変お待たせいたしました。
やっとこさケーキの紹介です。

ズコット

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マスカルポーネムースの中にドライフルーツ、ナッツ、チョコチップが入っています。チョコチップの食感がいい仕事をしていてうまピヨでした。
エムコイデは「フランス菓子」しかやらねぇぜ!ってイメージだったので、イタリア菓子のズコットがあるのは意外でした。


ムース・ピスターシュ

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ピスタチオムースの中にチェリーのムースとコンフィチュール

やはりエムコイデと言ったらムース、そしてこの六角形のイメージが強いです。シンプルながら美味しかったですね。


モンテリマール

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モンテリマール大好きです。
ハチミツとレモンのムースの中にドライフルーツが入っています。口当たりは軽くて何個でも食べられそうです。


ムースキャラメル

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キャラメルムース、オレンジジュレ、チョコレートムースの構成。
キャラメルの風味が濃厚でうまピヨでした。


ムースカシス

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カシスムースの中にバニラムースとオレンジコンフィチュール

爽やかで食べやすいです。上のさくらんぼは、激しい争奪戦の末に僕が食べました。


シブースト・グリオット

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チェリーのシブースト、バニラのムース、チャリーのコンポート

うまピヨ。タルト、ムース、そしてキャラメリゼのパリッとした食感の対比が良かったです。3等分にするのが難しかったです。


ムースアプリコ

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アプリコットのムースとフロマージュムース

1番好きでした。シンプルにアプリコットのムースの酸味がとても好みです。
週8で食べたいですね。


モンブラン

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モンブランでした。


ムースショコラ

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イートイン限定ということもあり、口どけは段違いでした。
チョコレートムースの中にピスタチオムース、フランボワーズのジュレが入っています。
王道の組み合わせですが、王道は美味しいからこそ王道だと思い知らされました。

緊張していたのか、ネコノメは食べるときに手がプルプル震えていました。


さてこの時ショーケースにあったケーキは全部食べましたが、あくまでこの時にショーケースにあったものを食べたに過ぎません。

実はジャンドゥーヤというガトーショコラが、まだショーケースに並んでいなかったのです。ネコノメは昔、このジャンドゥーヤを食べて衝撃を受けたそうな。軽井沢の地でもう一度食べたいと出発前から申しておりました。

せっかく来たのに1番目当てを食べられないのは可哀想だと思い、店主さんにジャンドゥーヤは今日は出ないのかと聞いてみたところ、13時ごろには出ると教えていただきました。

現時刻は11:30
まだ時間があるので、お昼ご飯を食べてからまた来ようということになりました。

ケーキ→お昼ご飯→ケーキ
という狂気の沙汰。

たださすがにケーキを食べた直後にお昼はキツイので、腹ごなしをかねて軽井沢を散策することにしました。
別荘が立ち並ぶ通りは緑豊かで、都会では聞こえない鳥の鳴き声、風が木々を揺らす音に心癒されます。

都会の喧騒を離れたいという人の気持ちが今なら分かる。
そう思っていると左手に「御膳水」と書かれた看板が目に入りました。
看板を読むと、どうやらこの先に湧き水があるとのこと。
通りの脇にある階段を下ると、なんとも自然豊かな沢がありました。

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おぉ!これぞまさしく軽い沢!軽井沢の軽い沢だぁ!

と叫ぼうとしたその時、軽井沢駅でのネコノメが脳裏をよぎりました。
軽い軽いぞぉ〜と叫ぶ、恥を具現化したような姿。口は災いの元だ。
軽い沢だぁ!というのも、ここにきた誰もが言う使い古されたジョークだろう。そんな使い古しのジョークは使わない。ここはひとつ、黙ってこの自然を素直に楽しもう。

そう決めた時だった。

「いや〜これは完全に軽い沢ですね〜軽井沢だけにw」

と意気揚々と発言するこしさんがそこにいました。
どうしよう。一緒にいるのが恥ずかしい。

軽井沢で軽い沢発言をする人間は、えてして六本木には木が6本だけ生えていると言い出す。危険思想の持ち主として公安からマークされていてもおかしくない。

ネコノメとこしさんは、軽井沢を軽い材質でできた何かだと勘違いしているんじゃないだろうか。
そんな彼らはこの美しい自然の中で、あろうことか手押し相撲を始めた。

成人男性による手押し相撲を撮影するという、私の人生の中で最上級に不要な時間を過ごした後、我々は昼食を食べることにした。

行き先は川上庵という蕎麦屋さん。
「軽井沢 そば」でググったら最初に出てきた。

何やら信州そばというものが食べられるらしい。

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俺はせいろ蕎麦。他2人は天ぷら蕎麦を注文。
信州そばと東京で食べる蕎麦の違いはまんじりとも分からなかったが、美味しいことだけは分かった。


成人男性3人が蕎麦屋で話す話題と言ったらひとつしかない。
恋バナである。

俺たちは過去から現在、そして未来に至るまでの恋愛事情を互いに語り合った。元カノの話、理想の結婚生活、いちご100%では誰が好きか、ジャンプのハーレム物において理想のヒロインの人数とは何人なのか、いちごパンツというのは現実に存在するのか、パンツといえばいちごパンツというのはどこから生まれたのか、そもそもなぜいちごなのか、俺たちにとってパンツとはなんなのか、、、、

この問答に答えは出なかったが、お互いのパンツ感を共有することにより絆は深まった。

昼食を食べ終え、再度エムコイデに向かって歩き出した。

今回は購入するケーキが1つだけなので、イートインせずどこか適当なベンチで食べようということになった。
しかし我々はある不安を抱えていた。それは、

果たしてフォークがもらえるのか?という不安である。

通常、パティスリーでは使い捨てのフォークやスプーンがもらえる。
しかし自由が丘時代のエムコイデでは貰えなったのだ。これを知らずに素手でケーキを食べた者、コンビニで不要な買い物をしフォークを手に入れた者は俺だけではないだろう。

とはいっても今のエムコイデにはイートインすらある。これは十中八九フォークは貰えるとみて間違い無いだろう。
いや、しかし!それでも不安を覚えるほどに自由が丘時代のエムコイデのスタイルは尖っていた。もちろんそこが魅力でもあった。

貰えるのか、貰えないのか。
ケーキを注文した俺は、震える声で聞いてみた。

「あの、フォーク、、、付けてもらえますか、、?」


いけるか、、、、


ダメなのか、、、、




心臓の音がうるさい




汗が滲んでくる




まだか、まだ返答はないのか。
返答が来るまでが永遠のように感じる。





そして、、、、




遂に、、、、






「かしこまりました。3つでよろしいでしょうか?」




こんなにフォークを貰えることをありがたいと思ったことはない。今まで貰えるのが当たり前のように感じていたが、そんなことはなかったんだ。フォークは色んな人の想いや奇跡の積み重ねだったんだ。

エムコイデはそのことに気付かせてくれた。
ありがとう。ありがとうエムコイデ。

店を出ると、目に映る風景は今までのものとは変わっていた。
世界っていうのはこんなに眩しくて色彩に溢れていたのか。

感謝。今胸の内にあるのはただひたすらの感謝。
エムコイデに、エムコイデを形作る全てに、そしてこの世界への感謝。

そしてケーキをいただく。

ジャンドゥーヤ

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ネコノメのお気に入り。
ヘーゼルナッツのガトーショコラだ。

中は半生のようにトロッとしている。ガトーショコラというよりもフォンダンショコラに近い印象を受けた。
味はもちろんうまピヨだ。

これでその日エムコイデのショーケースにあったものは全て食べた。
その達成感を感じた途端、今まで旅先の興奮で忘れていた疲労感が3人を襲った。

ここらが潮時だ。
そう感じた僕たちは、また30分かけて軽井沢駅まで歩いた。

こしさんは疲労でおかしくなったのか、駅に向かう途中ずっと日体大コールを口ずさんでいた。


にったいだ〜いにったいだ〜い日体大!

にったいだ〜いにったいだ〜い日体大!

にったいだ〜いにったいだ〜い日体大!


なぜ日体大コールなのか。そんなことをツッコむ気力はもうない。
こしさんの日体大コールが風に乗り、森に溶けていく。

新幹線に乗り込むとすぐに眠ってしまったらしく、気が付いたらすでに東京駅だった。
寝ぼけた頭の奥では、まだ日体大コールが鳴り響いている。

新幹線から出たときの湿度と喧騒が、東京に戻ってきたことを実感させる。

これから厳しくなる暑さの中で、俺は何度も軽井沢を想うだろう。
その度に軽井沢の風を感じ、エムコイデに感謝し、そして日体大コールを口ずさむんだ。





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