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多様性ある組織で成果につなげる

4月30日の日経新聞で、「ファストリ、外国人管理職8割に 30年度めど、海外で採用増」というタイトルの記事が掲載されました。

役員や管理職で女性比率や外国人比率の目標を設定し、多様性を実現させていこうという話をよく聞くようになりましたが、同社の目指す状態は一定の比率目標といった次元ではなく、日本人は国籍のひとつに過ぎないといったレベルまで国籍の別を問わない状態のように感じられます。

同記事の一部を抜粋してみます。

ファーストリテイリングは2030年度をめどに、全世界の管理職に占める外国人の割合を8割に引き上げる。

富士フイルムホールディングスや日立製作所などが役員や管理職層に外国人を登用し始めた。ファストリが定めた管理職の外国人比率の目標は日本企業の中で先行する。

ファストリは経営戦略を担う本社機能を日米に置く。経営人材に厚みを持たせ店舗展開から開発、調達、IT(情報技術)化まで世界規模の体制を整える。店舗の運営だけにとどまらない幅広い分野で幹部人材が必要となっており、23年8月末時点の管理職は2144人に上る。このうち外国人比率は56%。現在19%の執行役員の外国人比率も30年度をめどに4割にする。

ファストリは将来の管理職を育成するため、世界各地で連携する大学の数を増やす。インドとベトナムでは6大学と連携済み。IT専門人材や経営学修士号(MBA)を取得した人材を中心に累計で約70人を採用した。

海外の学生を日本で受け入れるインターンシップ(就業体験)も始めた。一連の取り組みで23年度の採用では約1100人の新卒のうち海外採用が6割を超えた。

新卒・中途ともに、店舗従業員からエリアを統括するマネジャーを経て、各国・地域の最高経営責任者(CEO)になるキャリアパスを想定している。物流や商品開発などの部門では、各部門を統括する役員になるコースを歩む場合もある。

入社した人材はきめ細かい支援で定着率を高める。条件を満たせば、国や部署をまたいで人材を登用する社内公募制度を23年に再開した。ほぼすべての部署で募集しており、各国・地域で経験を積んでもらい将来の経営層に育てる。待遇も改善し、中途を含めた人材を引き寄せる。

グローバル化を進める日本企業は外国人登用に乗り出している。日立は30年度までに役員層に占める外国人比率を30%に高める目標を掲げている。ただ、外国人の管理職比率の目標を掲げる企業はまだ少ない。企業統治助言会社のプロネッド(東京・港)によると、売上高が5000億円以上などの東証プライム上場企業で執行役員に外国人が1人以上いる企業の比率は22年度時点で29%にとどまる。

東証プライム上場企業の他社の現状と比較しても、同社の外国人比率、管理職8割・執行役員4割という状態が、いかに群を抜いているかがわかります。

加えて、同記事の内容からは、単に比率を数合わせで高める施策ではないことがわかります。同社にとって必要な人材を世界中から集め、集めた後に自社なりに最適と考える仕組みの中で育成していく、そのような基盤があっての目標であることが改めて認識できます。

ところで、同記事に類することで昨今言われているような、女性管理職比率で一定の目標値を設定したり、北欧などで発達しているといわれるクオータ制(人種や性別、宗教などを基準に、一定の比率で人数を割り当てる制度)によって多様性を確保したりすることの意義や正当性は、どれだけあるのでしょうか。

この問いに対しては、大きく2つの観点があると思われます。

1.ある属性に基づくメンバー選定を一定の割合で課すことは、公平性に反する。例えば、Aという属性の持ち主を一定数確保するために、Bの属性ながら優秀だと目される人物がメンバーに入れないとすると、不公平となり適切でない。

2.ある属性に基づくメンバー選定を一定の割合で課すことは、現状を変える力となりえる。Aという属性の持ち主を一定数確保しようとすることで、専門性や経歴などに不足感のある人材も入ってしまうかもしれないが、多様性を確保することのメリットがそれに勝る。

少なくとも、同記事のファストリには1.の懸念も2.の事象も、そのままは当てはまらないものと思われます。同社が求める能力の持ち主で、かつ多様性の要素を備えた候補の中から選ぶことができていると思われるためです。

これが、他社ではまったく状況が異なる場合があります。例えば、女性役員の比率や外国人役員の比率の目標があるものの、それに該当する候補者がまったくいないような場合です。その際に、専門性や経歴といった選定要素のバーを下げてでも選定すべきなのでしょうか。

このあたりは、実に悩ましいテーマです。クオータ制について「一時的な不公平を生むことは承知の上で導入すべき。そのうち運用が安定した暁には、各属性から相応の候補者が出てくるようになるはず」といった説明をしているサイトも見られます。だとすると、いつまで待つべきなのかという時間軸の問題も出てくるかもしれません。

いずれにしてもひとつ言えるのは、「組織の成果創出を目的とすべきである」ということだと考えます。

知人から強い勧めがあり、「多様性の科学(マシュー・サイド氏著)」という書籍を読んでいるのですが、上記のテーマに対して同書からヒントを探してみます。

同書によると、多様性は大きく2つのカテゴリーに分けることができます。そして、この2つとも大切だということです。

人口統計学的多様性:性別、人種、年齢、階級、信仰などの違い
認知的多様性:ものの見方や考え方の違い

同書では、多様性による「見える世界の違い」やその効用、そしてその逆で、画一性による失敗事例についてわかりやすく取り上げてあります。

例えば、米国でのある調査によれば、司法業務、保険サービス業務、金融業務において、職員の人種的多様性が平均から1標準偏差上がっただけで、25%以上生産性が高まったそうです。

別の調査では、ドイツとイギリスの企業を対象に行った分析で、経営陣の人種及び性別の多様性の豊かさが上位4分の1に入っている企業は、下位4分の1の企業に比べて自己資本利益率が66%も高くなっていた、米国企業では100%高くなっていた、という結果もあるそうです。

サッカーイングランド代表チームを低迷から脱出させるために、2016年に設置された技術諮問委員会には、起業家、女性陸軍士官、元ラグビーイングランド代表ヘッドコーチなども招聘されたとあります。「なぜこんなメンバーにするのかまるで意味が分からない」などと批判されながらも、ふたを開けてみると同委員会では、斬新なアイデアや闊達な議論が行われ、有益なアドバイスが出続けたと紹介されています。

これらも参考にすると改めて、多様性の確保は、成果を上げることと関連付けて考えることのできるテーマだと言えそうです。

続きは、次回考えてみます。

<まとめ>
多様性の確保は、組織の成果を上げることにつながる。

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