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雇用条件に沿った配置転換を行う

4月27日の日経新聞で、「同意ない配置転換、職種限定では違法 最高裁が初判断」というタイトルの記事が掲載されました。

同記事の一部を抜粋してみます。

仕事を特定の職種に限って働く人に対し、使用者が別の職種への配置転換を命じられるかが争われた訴訟で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は26日、労働者の同意がない配転命令は「違法」とする初判断を示した。労働環境の変更を巡り、労使間の合意を重く捉えた判断といえる。

労働契約法は双方が合意すれば契約で定めた労働条件を変更できるとしている。契約上で従事する職種を限った場合には、労働者が同意しなければ別の職種に配置転換できない。

同小法廷は、職種や業務を限定する合意があれば「使用者は同意なしに配転を命じる権限を有しない」と指摘した。配転の必要性などを踏まえ「適法」とした二審・大阪高裁判決を破棄し、賠償責任の有無などを検討するため同高裁に審理を差し戻した。

上記が裁判官4人全員一致の結論ということです。今後同様の訴えが起こった際に、上記が重要な判例となっていくことが想定されます。

同日付の別記事「働き方、労使合意を重視 最高裁 「一方的な配転不可」初判断、丁寧な協議が要に」からも一部抜粋してみます。

使用者による一方的な配置転換を「違法」とした26日の最高裁判決は、労使の対等な関係や合意を重視する法の趣旨を改めて確認したといえる。「ジョブ型雇用」を含めて働き方が多様化する一方、労使間のトラブルは絶えない。4月からは就労条件の明示義務も拡充され、労働契約の締結や変更を巡る合意形成の重要性が増している。

原告の男性は滋賀県の社会福祉協議会が運営する福祉施設で、福祉用具などを改造する技師として約18年間勤務した。施設側は2019年、事前の打診なく総務課に配転する人事異動を内示。男性は配転命令は違法として訴訟を起こした。

最高裁が前提としたのが08年施行の労働契約法だ。同法は労働者と使用者は対等な立場と強調し、労働契約の締結や変更には合意が必要と定める。労働基準法が守られるべき労働条件を示しているのに対し、個別契約を巡る基本的なルールとされる。

最高裁はこの日の判決で、労働契約で職種限定の合意があった場合、使用者には労働者の同意なしで配置転換する権限がないと明確に示した。ベテラン裁判官は「職種だけでなく勤務地などを限定した場合にも同じ考え方が当てはまる」とみる。

原告代理人の塩見卓也弁護士は判決後の記者会見で「本人の意思に反する形で配転されることへの歯止めとなる判決だ」と評価した。

大手企業の人事担当者は「職種限定で雇用した場合、合意がなければ他業務に従事させない運用は実務上定着している」と話す。一方、職種間の人事交流は業務上も有効で「(判決を受け)配転にはより慎重な検討が必要と感じた」と話した。

労働契約法の施行から15年超が経過したが、トラブルはなお多い。厚生労働省によると全国の労働局が行政機関と連携して対応する「個別労働紛争解決制度」で寄せられた民事上の相談は22年度に27万件を超え、高止まりしている。

こうした状況を受け、就労条件を明確化する新ルールの運用が4月に開始。改正労働基準法施行規則に基づき、使用者側は全ての労働者に就業場所や業務内容の変更範囲を労働条件通知書などで明示する義務がある。

ジョブ型やテレワークなど働き方が多様になるなか、職務変更時に多い労使トラブルを予防する狙いがある。日本能率協会が23年1月に実施した調査によると、人事制度を見直すなどした企業のうち2割超がジョブ型を「導入済み」で、大企業では約3割を占めた。

厚生労働省は「法律上の明示義務がない労働条件も含め、適切に労使間で意思疎通を図ることが望ましい」とし、双方による丁寧な協議を求めている。

企業労務に詳しい田村裕一郎弁護士は「最高裁が同意のない配転命令は認めないと明確にしたことで、企業側は職種廃止の場合などには解雇を検討することになるだろう」とみる。「職種廃止時などの配転命令権を例外的に残した職種限定合意を検討する企業が出てくる可能性もある」と話した。

前回、必ずしも個人発の意思決定ではない配属に関する「配属ガチャ」について考えました。配属ガチャも、運用次第で人材マネジメントとキャリア開発に資する取り組みになりえますが、あくまで雇用契約において成立する範囲内の話です。職種や勤務地などを特定することを前提に雇用契約している従業員に対しては、契約範囲外の対応を求める辞令は無効となることが明示された判例と言えそうです。

事案の内情の詳細は存じ上げませんが、以前からの労働契約で職種限定の合意がなされていたものと思われます。

その人の持ち味、強み、職業感などは、人それぞれです。より幅広い職務領域や人脈づくりを通してキャリア資本を蓄積していくことを望む人もいれば、特定領域に集中特化することを早くから意思決定している人もいます。

人事異動・配置転換に関するトラブルは、いろいろな会社で見聞きすることがあります。採用時の条件や就業規則で、社員は辞令に沿わなければならないと決まっていながらも、本人の希望に沿うかのような話を採用面接で受けているといった、あいまいな合意形成が背景になっていることが多いものです。これからはますます、あいまいな合意形成ではすまなくなるということを、同記事も示唆していると思います。

以前のような、会社員であれば一律で職種・勤務地・勤務時間が無限定であるという考え方が、自社の経営に最適解とは限りません。限定付き雇用にすることでパフォーマンスを引き上げることのできる人材に対しては、限定付き雇用契約を積極的に活用していくことが有効になります。

個人の側としては、そのメリットとリスクをよく考えるべきだと思います。同記事にもあるように、職種や勤務地で雇用を限定する場合、その職種や拠点が維持できなくなった場合は、本来的には雇用維持ができなくなるということになります。無限定であることのリスクや不都合を避けられる分、別のリスクを受け入れる必要があります。

少なくとも、これからの経営、採用、雇用契約においては、

・(状況の変化によっては解雇の可能性を含む)雇用条件をより明確にする
・採用時に雇用条件を労使双方がよく確認し、合意形成する
・人事や人材配置は雇用条件に沿った内容にする

ことに対して、一層丁寧に取り組む必要があると言えそうです。

少し前から各社で動きが盛んになってきている「ジョブ型雇用」を自社で採用する場合には、上記のことが一層求められます。

<まとめ>
雇用条件を明確にし、労使双方でよく合意形成する。

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