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輸出で販路を広げる

4月20日の日経新聞で、「「TATAMI」世界に香る美 魅力拡大へ畳みかけ」というタイトルの記事が掲載されました。海外の家屋で、日本の畳を好んで取り入れられる例が増えていることを取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

海外で日本の畳の人気がじわりと高まっている。来日時や海外の日本料理店などで魅力を知った人が、自らの生活に取り入れるという。日本の畳店も部屋の間取りに合わせて畳を様々な形に加工するなど、知恵を絞り「TATAMI」文化の普及を目指す。

「最も重要なことに畳は美しい。私は美的なことにこだわりがあるんだ」。米ニューヨーク市マンハッタン在住の経営者、ジェイソン・コーさんは語る。2年前、自宅廊下の一部を畳敷きにした。内装と調和するデザイン性に加え、クッション性に優れている点も気に入っているという。来客から注目されることも多く「どこで購入したのかとよく聞かれる」という。

きっかけは、米国の日本料理店で畳素材のコースターを目にしたことだった。「家に置きたい」と感じ、SNS(交流サイト)を使って生産元からコースターを購入した。美しさに魅了されて、後には畳の注文にも踏み切った。

購入元は福島県須賀川市の久保木畳店。2020年に輸出を始めた。訪日外国人客の多さに注目し「畳を知って魅力を感じている人はかなりの規模でいるのではないか」(久保木史朗専務)と考えた。久保木さんは米国やフランスの飲食店を自ら訪れ、直接売り込んだ。初年に21件だった輸出販売は、23年には50件ほどに伸びた。

輸出件数の7割を占めるのが、コースターやブックカバーといった畳素材の小物雑貨だ。生活に取り入れやすく、米国からでも送料を含めて1万円ほどから購入できる。空輸の送料が10万円以上にもなる大きな畳と比べて、購入へのハードルは低い。

23年には工場の一角に体験型施設「畳ビレッジ」を開設した。観光客が畳作りを体験したり、畳敷きのカフェで一息ついたりできる。畳に直接触れる機会を提供し、購買意欲を引き出す狙いだ。

「どんな形でも対応する」。森田畳店(東京・荒川)の森田隆志さんは力を込める。同店は00年から米英やシンガポールなど60カ国以上に輸出してきた。今では海外からの注文が8割を占める。

海外の住宅の間取りは日本と異なる上、搬入先の部屋が特殊な形をしている場合がある。森田さんは顧客とメールのやりとりを通じて間取りをイメージし、隙間を作らないように畳を慎重に加工する。三角形の畳を作ったこともある。

30年近く前からいち早く自社の情報サイトを作成した。当初は海外在住の日本人からの問い合わせを受けて、国ごとの輸入関税や運送費、輸出に必要な手続きを調査。サイトに詳しく掲載するようにした。

その後、英語やフランス語でインターネットの掲載情報を充実させると外国人からの問い合わせも増加した。2018年には輸出件数が81件に上り、10年前の4倍に拡大した。

18年にはカジュアル衣料大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)のパリコレクションのショー会場に、21年公開のスパイ映画「007」では主人公ジェームズ・ボンドが敵と対峙するクライマックスシーンに、同店の畳が採用された。映画の放映後にはSNSで森田畳店も話題となった。

不動産関連の方からは、賃貸物件の新規入居者募集にあたって、和室を洋室にリフォームする提案をよくすると聞きます。理由は、畳部屋だと若手世代への受けが悪いためです。同じ間取りでも、洋室にリフォームして畳からフローリングに変えるだけで、客付きがよくなり賃料単価も上げやすくなるというわけです。

2014年に350万枚以上あった国内畳生産量は、2023年では154万枚まで減っているそうです。10年間で半分以下への市場縮小です。5年前からの比較でも4割縮小しています。人口減少に加えて、世代交代による畳に対する嗜好の変化が市場縮小要因になっていることが、明らかにうかがえます。

加えて、同記事によると中国産などの安価ないぐさを使って低価格を売り物にする畳店も増えたとあります。一方で、海外の富裕層による買い手は日本文化への関心が高く、本物志向で高品質な畳への一定の需要が期待できる面もありそうです。

本家の日本で畳文化が敬遠され、海外で注目されることで維持を目指していく状況に、なんともいえないもどかしさも感じますが、産業として残り続けることで、時代が変われば日本でも再注目を受けることもあるかもしれません。

嗜好の変化はともかくとして、これから相当期間日本で人口縮小・家屋数縮小が見込まれる以上、日本市場の中で売るだけでは縮小産業になることは間違いありません。日本でも洋風建築を取り入れながら建築や住宅市場が発展したのと同様で、同記事のように海外に和風建築を輸出するのは、可能性として大いにありえる話だと考えます。

類似の例の代表格として、コメがあげられるのではないかと思います。

4月20日の日経新聞で、「コメ産出額、市町村3割で増加 秋田は新ブランドで実り」というタイトルの記事が掲載されました。一部抜粋してみます。

全国の3割弱の市町村がコメの産出額を増やしている。全国有数のコメ所である秋田県では、4分の3の市町村で2022年の産出額が14年を上回った。人口減や食の多様化などで日本の食卓でのコメの存在感が薄れるなか、新しいブランドや用途の開発、輸出強化といった農業者の地道な努力が実りつつある。

農林水産省によると、22年のコメの総産出額は1兆3946億円。市町村別の推計産出額の公表が始まった14年に比べて3%減った。同省は今後も主食用米の国内需要は減少を続け、40年には現在よりも3割減ると予測する。

一方、22年の市町村別のコメの推計産出額を14年と比べると、全1718市町村のうち457市町村で増えた。増えた市町村数の割合を都道府県別にみると、香川県が88%で最も高く、秋田県(76%)、鳥取県(74%)が続いた。

増加した自治体を見ると、中長期で需要が減少傾向の主食用米では新ブランドの導入や農薬の使用削減などを進めて付加価値を向上。新用途の開発や輸出拡大もにらんで加工用米の作付けなども増やす。

市町村別の増加額が全国2位の秋田県大潟村は国内の大規模農業の代表格として知られている。近年は主力の「あきたこまち」に加え、加工品向けの生産を増やしており、現在は全体の5割程度を占める。米菓メーカーなどに原料として供給するほか、健康志向を背景に需要が増えるグルテンフリーの米粉パスタなども生産する。

コメの産出額を増やしている市町村が全国の3割弱あるというのは、少し意外に感じますが、背景に付加価値の高い商品ラインナップを増やす、海外の新規顧客を開拓するという、既存ビジネスの拡張の基本を推し進めていることがうかがえます。

私がこれまでに会ったことのある外国人からも、日本のコメはおいしいと、総じて高い評価を受けている印象です。海外の水で調理した場合にどうなるのかは今ひとつわかりませんが、販売拡大の余地はあるのだろうと、上記記事からも想定されます。加えて、食糧の安全保障や国土保全の観点からも、輸出も活用して産業自体を確保するというのは、必要な視点だと考えます。

人口が減る以上、国内消費だけでは縮小均衡は避けられません。世界全体では、人口増は当面続きます。国外の市場の開拓に取り組む視点を改めてもつべきだと考えます。

<まとめ>
改めて、国外市場に買い手がいないか想定する。


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