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業界の怪談

 業界の怪談をネタにした番組をNHKでやっていて、ふと見たら、ユーチューバーの話だった。
 その中に、事故物件専門のユーチューバーがいて、撮影した動画を見せて、そこにいたユーチューバー4人とも『ここ行きたくない。。。』『なんかいる・・・』と言い出したシーンがあった。
 この映像を撮った事故物件専門のユーチューバーは、『ここを撮影したとき、まだ完全に清掃ができていなくて、いかにも人が死んだときの臭いがしていて。そのあと、家に戻って、真夜中に映像の編集とかしていると、ふっとその時のあの臭いがして、びっくりして振り返るけど何もない。そういうのに詳しい人に聞いたら、「ああ、そういうときには、その人があなたの部屋に来てますよ」と言われた』という話をしていた。

 私はホラーは好きだが、同時に非常に現実的な人間でもある。ホラーというのは一つのエンタメとして好きなのであって、現実にはきっとホラーより怖いものが普通にあると思っているので、あえて怖いところに行ったりしないのだが、そう言う私の知識から言うと、このユーチューバーが突然ふっと家の中で、かの臭いがしたというのには、全然別の意味がある。
 この人は人が死んだ部屋に行った。しかも、その部屋には人が死んだ臭いがはっきりそれとわかるほど残っていた。
 これは何を意味するかというと、そこで死んだ人は、死んだあとしばらくその部屋にいたと言うことだ。腐乱するまで発見されなかった可能性もある。(わざわざユーチューバーが事故物件として撮影に行ったのだから、たぶん死に方が少し違ったんだろう)
 実は、死臭というのは、非常に移りやすいもので、いろんな物品にまといつくとなかなかおちない。特に布系のものは臭いを吸いやすく、定着しやすい。紙などもそうで、亡くなった人のそばに置いてあった本には、死臭がかなりはっきり残ってしまうことがある。
 おそらくその人は、その部屋の物品を持ち帰ったかもしれないし、そうでなくてもその部屋に入ったときの服を、そのまま部屋に架けてあったかもしれない。服なら洗濯してしまえば、普通は臭いがおちるのだが、例えば靴とかだと、そこまで洗濯する人は少ない。でもそれが布製のスニーカーなら臭いは吸い込んでしまう。実際には革製の靴でも、臭いはつく。
 体にも、特に髪には臭いがつくのだが、これは風呂に入ればおちる。ただ、身につけたものの中に、そう簡単に洗えないようなものがあると、そこに臭いがついたまま、気づかずに部屋に持ち込むことがある。例えば、撮影に使ったカメラなどは、普通洗わない。洗えない。しかしカメラの表面には、合成皮革の部分がある。手で持ったときに持ちやすく滑らないためだ。しかし合成皮革だと、臭いはつく可能性がある。
 このようにこのユーチューバーは、撮影時に死臭をまといつけた何かを部屋に持って帰ったのだろう。
 
 実は死臭というのは、それが死臭だと知っていないと、何の臭いだかわからないのだ。強い死臭であれば、悪臭この上ないから、何の臭いかに関係なく強烈な印象が残るし、当然何の臭いかわかるのだが、移り香の死臭はそれほど強くないので、相当薄まった臭いだ。
 例えば、ガス漏れみたいな臭いがする。都市ガスとか、天然ガスなどの家庭用のガスは、本来無臭なのだが、それだとガス漏れに気づかずに危険なので、わざとタマネギが腐ったような刺激臭を混ぜてある。あの刺激臭みたいな臭いがする。だから、それが何の臭いか知らない者だと、わからない。
 だが、1度その臭いを知った者は、すぐにわかる。あの臭いだ、と。
 
 たぶん、このユーチューバーが持ち帰った死臭が、とても強ければ、『あの臭いがまといついた』とすぐ気づいただろう。しかし移り香であまり強くなかった。それが家の中にあって、何かしらの空気の流れで、ふっと香る。するとこの人はこの臭いがなんであるか知っているから、はっと気づくわけだ。
 死臭は、他のにおいて明らかに違うので目立つ。しかし死臭だと思っているから、死体のないところで匂うとびっくりする。
 というわけで、『あの死んだ人があなたの所に来ているんですよ』という話になってしまう。
 単なる移り香という物理的な問題だったのだが。

    私がそう思うのは、以前私の親族で、腐乱死体で発見された人がいたからだ。1人暮らしで、急死して、すぐに見つからなかった。2週間ほどして近隣の住人が異臭に気づいて通報してくれたのだ。

 このご遺体を迎えに、親族と私の両親が向かった。一連の葬儀を済ませ、お骨を持ち帰ったわけだが、両親が帰宅したあと、なぜか玄関の前を通るたびに異臭がした。その臭いは、ちょうど都市ガスの臭いに似ていた。都市ガスは、本来は無臭だが、それではガス漏れに気づかず危険なので、わざとタマネギが腐ったような強い匂いをつけてある。ガスも例があったときに臭うあの匂いだ。
 この匂いがなぜか玄関からする。玄関にガス栓がないので、もっと別の場所から漏れているのかと、家中を探したが、原因が見つからない。そこで母にそういった所、「あれだわ。。。」と言ったのが靴だった。
 ご遺体を迎えに行ったとき、腐乱死体のある家に上がったし、その後ご遺体を一晩葬儀社でお守りもした。その間に、服といわず、髪と言わず、死臭がこびりついたそうだ。そうしたものは、入浴したり、洗濯すれば落ちるのだが、靴だけは洗浄できず、そのまま持ち帰ったのだそうだ。ビニールに何十にもくるんでおいてあったそうだが、それでも臭ったのである。
 死臭の移り香はこれほど大きいのだなということを実感した次第だ。

 心霊現象という奴は、ほぼ99%は他の説明がつく。
 本来は、単なる物理現象が、偶然に重なっただけだったとしても、人間の心理は、突然複数の事例を全く合理性もなく結びつけてストーリーを書いてしまうときがあるので、それが心霊現象になってしまう。つまり心霊現象を作っているのは、霊ではなく、人の心だ。
 だとしたら、残りの1%もないのと同じだ。
 心霊現象を作り出すのが99%まで人の心だとすれば、のこりの1%、つまり本当の心霊現象が起こったときのは、『気のせいだ」と思えばいい。
 これで心霊現象は、100%なくなる。

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