見出し画像

はじめに:なぜ今、家の断熱について考えるべきか?

住宅展示場を訪れたり、ハウスメーカーのHPを見てみると、「高断熱・高気密」を売りにしている住宅がかなり増えてきたな、という印象を受けています。
実際、積水ホームの「あったかしっかり断熱」や一条工務店の「断熱王」のように、商品名やブランドにしているハウスメーカーもあるほどで、高断熱・高気密はこれからの家づくりのトレンドとなっていくでしょう。

しかし、家の断熱性能についてしっかりとした説明をしているハウスメーカーの営業マンがどれほどいるでしょうか?

「高断熱の家なら夏は涼しく、冬は暖かくて快適に暮らせますよ」と宣伝することはあっても、これまでの家とどのように異なるのか、どうしてそうなるのか、そして価格とのバランスは本当に取れているのか、といった点に関して消費者が十分に理解しているとは言い難いように感じています。

例えば、ネットで「高断熱住宅」と検索すると、高断熱住宅のメリットだけではなくデメリットや注意点を喚起するサイトをいくつも目にします。

でも、ちょっと待ってください。
何千万円もする夢のマイホーム。
そしてその家には、おそらくは何十年も住み続けるわけです。

そんな人生を左右する大切な家づくりに、デメリットや注意点が必要なものを取り入れる必要なんてないはずです。
高断熱の家への注意喚起をしているサイトに目を通してみると、多くの人は高断熱の家にするとカビや結露ができやすくなるのではないか?と心配しているようです。
しかしこうした疑問に対する正しい答えを得るには、原因と対策について知らなくてはなりません。

あなたは、どんな条件が揃うとカビが生えるか知っていますか?

それを知らずに、高断熱の家が本当にカビに弱いかどうかを判断することはできないわけです。
新築かリフォームかを問わず、自分の家を高断熱化するかどうかを決めるためには、断熱に対する正確な情報と知識を取り入れる必要があるというわけです。

結論から言うと、これからの家づくりにおいて高断熱・高気密は”マスト”です。


しかし現段階においては、高断熱・高気密の家づくりには多くの誤解や認識のズレがあるように思えます。
そこで高断熱・高気密の家づくりのために以下の2つの点をお伝えしたいと考えています。
1. どんな考え方をしたら良いのか?
2. どんな選択をしたら良いのか?

家づくりを考えている人にとって、きっと有益な情報になると信じています。
しかしこうした点についてお知らせする前に、どうして今、高断熱・高気密の家づくりについて考えなければならないのか、その3つの理由を見ていきましょう。

Ⅰ. エネルギー問題

光熱費の高騰は、私たちにとっても切実な問題です。
電気料金がどんどん上がっているのは、電気を生み出すための石炭、天然ガス、石油などの価格が高騰しているから。

これら一次エネルギーの多くを輸入に頼っている日本では、エネルギーの安定確保はこれからますます重要になっていきます。
高断熱の家は夏は涼しく、冬でも暖かいので、その分だけ暖房費も削減することが可能です。電気料金はこれからも値上がりすることが予想されているため、高断熱の家づくりはさらに重要になっていくでしょう。
冷暖房機の使用を抑えることができれば、その分だけ使うエネルギーも少なくなります。
さらにそのことは、CO2の削減にも直結します。

長引く猛暑日や大雨、台風の激甚化など、気候変動による異常気象の影響を直接受けている私たちにとっても、CO2の削減による地球温暖化防止は他人事ではありません。
日本にとって家の断熱とエネルギー問題は、切っても切れない関係にあるのです。お財布だけではなく、地球にも優しい。それが高断熱の家なのです。

Ⅱ. 建築基準法の改正

高断熱の家づくりは、国が進める方策でもあります。
というのも、2022年6月に公布された 「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)によって建築物省エネ法が改正され、2025年から原則的に全ての建築物について省エネ基準への適合が義務付けられる予定となっています。
簡単に言うと、2025年以降は基本的に省エネの家しか建てることができなくなるということ。

さらに今年の4月からは、「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度(省エネ性能ラベル)」がスタートします。
この新しい制度によって、これから建築・販売(賃貸)される物件には、それがどれほど省エネなのか示すラベルを表示することが努力義務となります。
家電製品には、その製品の省エネ性能を示すラベルが貼られていますよね。

ちょうどそれと同じように、建物の省エネ性能がラベルによって「見える化」されるわけです。
こうした法律の改正は、国ぐるみで家の高断熱化へ舵を切ったということを意味しています。
高断熱でエコな家づくりは目指すべきものというよりも、ごくごく当然で当たり前なものとなっていくことでしょう。

Ⅲ. 快適で健康的な家づくり

エネルギー問題や法律の改正も確かに大切です。
しかし実際に家づくりを考えている人にとって最も大切なことが、高断熱・高気密な家が住む人にとって快適で健康的なものである、という事実です。

家の断熱性能は、「断熱等級」という指標によって表されます。


出典:lixil

断熱等級4:1999年制定。壁や天井、窓や玄関ドアなどの断熱が必要。
断熱等級5:2022年4月1日施行。 ZEH基準相当。断熱材や窓ガラスなどの等級4以上の性能が必要となる。
断熱等級6:等級7とともに2022年10月1日に施行。冷暖房にかかる一次エネルギーの消費量をおおむね30%削減できるレベル。
断熱等級7:冷暖房にかかる一次エネルギーの消費量がおおむね40%削減可能。

断熱等級4は、国土交通省が認定する「長期優良住宅」の認定基準となっています。
つまり現段階では断熱等級4が、最低限目指すべき断熱性能ということ。
しかし2030年には省エネ基準の水準が引き上げられ、断熱等級5が最低等級とされる予定になっています。
北海道と沖縄では気象条件が大きく異なるため、同じ断熱等級であったとしても地域によって差がありますが、東京では断熱等級5の家ならば冬でも室内の最低温度が9℃を下回らない程度とされています。
しかしそれに加えて、断熱等級6と断熱等級7が新設されました。
断熱等級7まで行くと、冬でも最低気温がおおむね15℃を下回らないレベル(東京の場合)とされています。

私も実際に断熱等級7の家を訪れたことがありますが、本当に快適なんですね。家の中が全く寒くない。築30年くらいの真冬には室内がとても寒くなるような家と比べると、まさに月とスッポンです。
このくらいの家になると、暖房費が安くなるとかいう以前の話として、本当に快適に生活できる。ヒートショックなどの心配も少なくなるので、健康面でも安心です。

家はなにより、快適に過ごせることが一番。

高断熱の家に住むことが私たちの幸せに直結するからこそ、それを目指すべきなのです。

高断熱の家に対する考え方

高断熱の家が快適で、これからの社会が目指すべき姿であることは理解できたと思います。
では、自分がいざ家を建てる、あるいはリフォームするときに、家の断熱についてどれほど考えるべきか?
別の言い方をすれば、どれほどコストをかけたら良いのでしょうか?

例えば土地を購入して注文住宅を建てる場合、そこにはやはり自分なりのこだわりや理想とする家のイメージがあるはずです。
高断熱の家は確かに良いけれど、予算は簡単には変えられません。

家の断熱性能を高めるために、希望していた場所や自分のこだわりを諦めなければならないとしたら、それは果たして本当に幸せな家づくりになるのでしょうか?
あるいは高断熱住宅を建てるために、無理な予算を組むとしたら?
もし家を建てるために生活が苦しくなるとしたら、それは全く意味がありません。家を買うのは、幸せな生活を叶えるためなのですから。

建築費は積み上げなので、こだわればこだわった分だけ、必要な予算も上がっていきます。
しかしこだわった分だけ後で高く売れるかといったら、決してそんなこともない。あなたのこだわりと、他の人のこだわりたい部分は異なるからです。

家の断熱にどれだけコストをかけるかも、難しい問題です。

例えば高断熱の家に40年~50年住むとなれば、暖房費が抑えられる分、断熱にかけたコストは楽に回収できるかもしれません。
しかし、その家に10年しか住まないとしたら?

今は一つの家に一生涯住むというよりも、欧米のようにライフスタイルに合わせて住む家を替えるという人も増えてきました。子どもたちを育てていく家と、老後に夫婦2人だけで住む家とでは自ずと必要な家も変わってくるというわけです。

せっかく高断熱の家を建てようと考えていても、その家にどれだけ住むか分からないというのであれば、コストに対して慎重になるのも当然の理です。
でもだからといって、家の断熱に対して無頓着であってもなりません。

一昔前は、家づくりにおける断熱性能の優先順位はそれほど高くありませんでした。
しかし今は違います。
断熱性や気密性、耐震性といった家の基本性能の低い家はこれから相手にされなくなるでしょう。

だからこそ、壁や床下、天井といった後で変更するのは難しい部分(これを躯体と言います)に対しては、やはりある程度のコストをかけてしっかりしたものにしておきたい。

大切なのは、やはりバランスです。

限られた予算の中でも、高断熱で性能の良い家を建てることは可能だからです。
例えば、後で変更できる部分はとりあえずグレードを落とすとか、一回りコンパクトにするとか、自分でできるところはDIYにするとか、いくらでもやり方はあるのです。

問題なのは家づくりに関しての部分的なところではなく、総合的な判断、プロデュースできる人が建築業界の中に少ないことです。

ハウスメーカーの営業マンに相談したとしても、「これから家を建てるなら、絶対に高断熱の家です。多少無理してでも良い家にしましょう」と勧められるだけかもしれません。自社の商品を売ることが、彼らの仕事だから。限られた予算の中でも家の基本性能を高めるために、他にどんなやり方があるのか。そのためにどんな考え方をしたら良いのか、といったプロデューサー的な役割、手助けをしてくれる人がこれからの家づくりには絶対に必要なのです。

もちろん、自分なりに勉強している人も大勢いらっしゃいます。
今はYoutubeで断熱の専門家などの話を簡単に聞くことができますから、断熱に関しては大工さんやハウスメーカーの営業マンより詳しいという一般消費者も少なくない。

それでも、断熱や気密にどこまでコストを掛けるべきなのか、どこは妥協しても大丈夫なのか、予算を上げずに代わりとなるどんな方法があるのかといった点については、プロの意見に耳を傾けるのがやはり賢明ではないでしょうか。

だからこそ、高断熱の家の宣伝ではなく、家の断熱について

1. どんな考え方をしたら良いのか?
2. どんな選択をしたら良いのか?

この2つを伝えていきたいのです。
ただ単に高断熱の家を求めるのではなく、どの程度の断熱性能が必要なのか、そしてどうしたら予算内でそれが実現できるのか、という点を知っていただきたい。

知っておくことで、選択の幅が広がるからです。

家に対する自分の優先順位、つまりその家でどんな暮らしが実現したいのか。そのためにどんな方法があって、どんな選択をしたら良いのか。そうしたことをお伝えできればと思っています。
家づくりについての全体的なことと一緒に、家の断熱について一緒に考えていきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?