藤井満

元新聞記者。著書に「京都大学ボヘミアン物語」「僕のコーチはがんの妻」「北陸の海辺自転車…

藤井満

元新聞記者。著書に「京都大学ボヘミアン物語」「僕のコーチはがんの妻」「北陸の海辺自転車紀行」「能登の里人ものがたり」「石鎚を守った男」など。 一部有料記事がありますが、訳あってアクセス数を減らすための措置なので、直接メッセージをいただければ一時的に無料で開放します。

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記事一覧

能登2011-24⑰集団避難のムラに「百姓」はのこった 輪島・南志見

御陣乗太鼓の里  輪島市街から東へ10キロあまりの南志見(なじみ)地区は1954年までは南志見村という独立村だった。「白米千枚田」や「御陣乗太鼓」で知られ、能登…

藤井満
19時間前
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問題意識型と地域描写型 能登半島地震で見た記者の2類型

■問題意識型と地域描写型 記者の2類型  能登半島地震がおきて、輪島の友人から尻をたたかれて2月から取材をはじめた。  そのなかで、記者には2種類いると実感した…

藤井満
5日前
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能登2011-24山が崩れ9人犠牲に 珠洲・仁江を再訪

 海藻の取材をした珠洲市仁江町は、能登半島地震で山が崩落し、直下にあった民家で正月をすごしていた9人が亡くなった。  2024年2月、海沿いの国道249号は寸断…

藤井満
9日前
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能登2011-24日本一の海藻と山菜 珠洲市仁江町ほか

 能登では冬から春にかけて海藻が食卓をいろどる。その多様さは全国でも1、2位を争い、約30種類を食べている。山菜も約100種を口にする。魚介類にくらべべて地味な…

藤井満
9日前
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季刊民族学165 岡本太郎の民族学

「芸術は爆発だ」というヘンなおじさん、というのがぼくらの子どものころの岡本太郎のイメージだった。  戦前にマルセル・モースに師事して民族学をまなび、帰納的で具体…

藤井満
3週間前
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山梨の縄文遺跡

 岡本太郎や梅原猛の本を読んで以来、縄文の創造性にみせられている。2024年5月、山梨在住の友人に地元の縄文遺跡を案内してもらった。最初にたずねたのは南アルプス…

藤井満
3週間前
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能登2011-24 避難所で痛感「能登はやさしや土までも」 藤平朝雄さん(輪島市町野町)

窓岩の窓がきえた  輪島市町野町の曽々木海岸にすむ藤平朝雄さん(84)は、妻の友子さんと息子夫婦、孫の5人で2024年元日をむかえた。  毎年正月には、窓岩の目…

藤井満
1か月前
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最澄と空海<梅原猛>

■小学館文庫 20240429 ▽仏教の流れ  釈迦の言行録の経典をもとに、500年ほど原始仏教(小乗仏教)がつづき、1世紀から3世紀にかけて龍樹らが革新運動をおこす。 …

藤井満
1か月前
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民博「日本の仮面――芸能と祭りの世界」

 民博の「日本の仮面――芸能と祭りの世界」を見に行った。  能や狂言など、さまざまな面がある。それらをただ年代別やカテゴリーで分類してならべるだけでなく、「仮面…

藤井満
1か月前
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能登2011-24 先端のムラ、在来大豆で元気に(珠洲市・横山)

 能登半島の北端ではかつて「大浜大豆」という在来種の大豆が栽培されていた。冬場には豆乳を海水でかためて熱々の寄せ豆腐つくり、囲炉裏端ですすった。高度経済成長をへ…

藤井満
1か月前
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能登2011-24 水仙の咲く桃源郷・大西山(輪島市)

 雪がところどころに残る田の畦で、水仙の葉が頭をもたげ、つぼみをふくらませている。人口わずか50人の輪島市・大西山には4月半ばになると、数万輪の花が咲きほこる。…

藤井満
1か月前
9

能登2011-24 日本史をかきかえた網野善彦の原点「時国家」(輪島市町野町)

 輪島市街から20キロ、能登半島の先端にむかった輪島市町野町の曽々木海岸は、板状の岩に直径2メートルの穴があいた奇岩「窓岩」で知られている。  曽々木は、能登で一…

藤井満
1か月前
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まつろわぬ「両面宿儺」に自らを重ねた、まつろわぬ円空 「円空 旅して、彫って、祈って」から

 2022年、岐阜県高山市丹生川町の「千光寺」という山寺を訪ねた。  1600年前の仁徳天皇の時代に、乗鞍山麓の豪族である両面宿儺(すくな)が、古代信仰の場とし…

藤井満
1か月前
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能登2011~24 鋳物と左官の中居(穴水)

 鏡のような海にカキ養殖の筏が浮かぶ中居湾(穴水町)をながめながら、高台の「さとりの道」を歩くと、わずか1キロほどの道沿いに9つの寺社があらわれた。海沿いの中居…

藤井満
2か月前
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大宮盆栽村の精神性と先進性202404

 埼玉でそだったから、小学校の郷土学習本で「盆栽村」を見た記憶があったが、辛気くさい盆栽には興味のかけらもわかなかった。  でも2020年の四国遍路の途中で香川…

藤井満
2か月前
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ボヘミアンのモロコとりツアー

#京都大学ボヘミアン物語  登場人物たちが、ボヘ一番の釣り名人ミズコの指導でモロコとりにでかけました。コツは……

藤井満
2か月前
能登2011-24⑰集団避難のムラに「百姓」はのこった 輪島・南志見

能登2011-24⑰集団避難のムラに「百姓」はのこった 輪島・南志見

御陣乗太鼓の里

 輪島市街から東へ10キロあまりの南志見(なじみ)地区は1954年までは南志見村という独立村だった。「白米千枚田」や「御陣乗太鼓」で知られ、能登半島地震前は約700人がすんでいた。
 地元の男しかたたくことができない一子相伝の御陣乗太鼓は、夏の「名舟大祭」で奉納される。

 7月31日の夜、山の中腹にある白山神社に4基のキリコがあつまり、神輿とともに急斜面を港にくだる。ここのキリ

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問題意識型と地域描写型 能登半島地震で見た記者の2類型

■問題意識型と地域描写型 記者の2類型

 能登半島地震がおきて、輪島の友人から尻をたたかれて2月から取材をはじめた。
 そのなかで、記者には2種類いると実感した。
 問題意識で切る記者か、「地域描写」をめざす記者か。

 前者のほうが一般に優秀であることが多い。
 珠洲原発計画のあった高屋地区と寺家地区を取材するというのは、ちょっと原発に興味がある記者ならば思いつく(はずなのに朝日と読売は書いて

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能登2011-24山が崩れ9人犠牲に 珠洲・仁江を再訪

能登2011-24山が崩れ9人犠牲に 珠洲・仁江を再訪

 海藻の取材をした珠洲市仁江町は、能登半島地震で山が崩落し、直下にあった民家で正月をすごしていた9人が亡くなった。
 2024年2月、海沿いの国道249号は寸断されているから、山のなかの小道をたどって日本海側にでた。「道の駅すず塩田村」にも、国の重要無形民俗文化財に指定された角花家の塩田にも人影がない。地震による隆起で海岸線は100メートルちかく後退している。これでは塩田に海水をくみあげるのは大変

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能登2011-24日本一の海藻と山菜 珠洲市仁江町ほか

能登2011-24日本一の海藻と山菜 珠洲市仁江町ほか

 能登では冬から春にかけて海藻が食卓をいろどる。その多様さは全国でも1、2位を争い、約30種類を食べている。山菜も約100種を口にする。魚介類にくらべべて地味なイメージだった里海と里山の「草」が健康ブームもあって見直されつつある。(年齢は2012年当時)

海苔で稼いでお年玉 「日本海銀行」に感謝

 珠洲市仁江町の皆戸昭利さん(71)と洋子さん(69)夫妻の家を訪ねると、居間にはコナ(カヤモノリ

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季刊民族学165 岡本太郎の民族学

季刊民族学165 岡本太郎の民族学

「芸術は爆発だ」というヘンなおじさん、というのがぼくらの子どものころの岡本太郎のイメージだった。
 戦前にマルセル・モースに師事して民族学をまなび、帰納的で具体的な姻族学と、演繹的で抽象な芸術の双方で創的な世界をつくりあげた天才だったということがよくわかる。
 太郎は戦前のパリで抽象芸術の運動にかかわる。
 人間の思考、とくに芸術は、自分の主観からこうだ、と自己中心的に演繹的に決めていく。一方、ミ

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山梨の縄文遺跡

山梨の縄文遺跡

 岡本太郎や梅原猛の本を読んで以来、縄文の創造性にみせられている。2024年5月、山梨在住の友人に地元の縄文遺跡を案内してもらった。最初にたずねたのは南アルプス市の「ふるさと文化伝承館」だ。

干魃と水害の地

 伝承館は入館無料なのに、スタッフのお姉さんがつきっきりで説明してくれる。まずは周辺の地理や環境の紹介から。
 御勅使(みだい)川扇状地は、南北約10キロ、東西約7.5キロで、日本でも有数

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能登2011-24 避難所で痛感「能登はやさしや土までも」 藤平朝雄さん(輪島市町野町)

能登2011-24 避難所で痛感「能登はやさしや土までも」 藤平朝雄さん(輪島市町野町)

窓岩の窓がきえた

 輪島市町野町の曽々木海岸にすむ藤平朝雄さん(84)は、妻の友子さんと息子夫婦、孫の5人で2024年元日をむかえた。
 毎年正月には、窓岩の目の前の海でとれたイワノリの雑煮をたべる。すまし汁の白い餅に、磯の香りがこうばしいノリをたっぷりまぶす。
 午後2時ごろ、年賀状を書いていて眠気をおぼえ、外にでた。窓岩が日の光をあびてこうこうとかがやいている。2023年は友子さんの病気など

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最澄と空海<梅原猛>

最澄と空海<梅原猛>

■小学館文庫 20240429

▽仏教の流れ
 釈迦の言行録の経典をもとに、500年ほど原始仏教(小乗仏教)がつづき、1世紀から3世紀にかけて龍樹らが革新運動をおこす。
 欲望を否定して清い生活をしているだけではなく、大衆のなかにはいれ、と説き、大衆救済にはげむ人間「菩薩」を生み出す。原始仏教の欲望の否定も「こだわり」であるとし、肯定でも否定でもない「空」という概念を生み出す。これによって人間的

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民博「日本の仮面――芸能と祭りの世界」

民博「日本の仮面――芸能と祭りの世界」

 民博の「日本の仮面――芸能と祭りの世界」を見に行った。
 能や狂言など、さまざまな面がある。それらをただ年代別やカテゴリーで分類してならべるだけでなく、「仮面」の意味をさぐる。民博の展示のおもしろさはそんな「意味」の抽出にある。
 縄文時代や弥生時代から能面のような不気味な「仮面」は存在した。
 島根の神楽は豪華で華々しくて楽しい。出雲では、江戸時代は神職がになっていたが、明治になって、氏子が上

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能登2011-24 先端のムラ、在来大豆で元気に(珠洲市・横山)

能登2011-24 先端のムラ、在来大豆で元気に(珠洲市・横山)

 能登半島の北端ではかつて「大浜大豆」という在来種の大豆が栽培されていた。冬場には豆乳を海水でかためて熱々の寄せ豆腐つくり、囲炉裏端ですすった。高度経済成長をへて姿を消したと思われたが、村おこしの一環で復活。地域の活性化と絆づくりの切り札になっている。(取材は2011年)

葉たばこ拡大で消えた品種

 能登半島北端の禄剛崎の西側に位置する珠洲市の横山集落は、約30軒の農家がそれぞれ5反(50アー

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能登2011-24 水仙の咲く桃源郷・大西山(輪島市)

能登2011-24 水仙の咲く桃源郷・大西山(輪島市)

 雪がところどころに残る田の畦で、水仙の葉が頭をもたげ、つぼみをふくらませている。人口わずか50人の輪島市・大西山には4月半ばになると、数万輪の花が咲きほこる。「能登の桃源郷」とよぶ人もいる水仙の里の歩みは30年前、ホームセンターの店先にあった3粒の球根からはじまった。(2013年取材)

ホームセンターの球根3粒から

 輪島市中心部から東へ14キロ。大西山地区は、川沿いの細い道をのぼりつめた標

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能登2011-24 日本史をかきかえた網野善彦の原点「時国家」(輪島市町野町)

能登2011-24 日本史をかきかえた網野善彦の原点「時国家」(輪島市町野町)

 輪島市街から20キロ、能登半島の先端にむかった輪島市町野町の曽々木海岸は、板状の岩に直径2メートルの穴があいた奇岩「窓岩」で知られている。
 曽々木は、能登で一番大きな河川である町野川の河口にあたり、かつて大きな潟湖があり、昭和のはじめまではたくさんの船が出入りしていた。
 町野川を数百メートルさかのぼると、時国家(下時国家)、さらに300メートル上流に上時国家がある。
 下時国家は間口24.2

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まつろわぬ「両面宿儺」に自らを重ねた、まつろわぬ円空 「円空 旅して、彫って、祈って」から

まつろわぬ「両面宿儺」に自らを重ねた、まつろわぬ円空 「円空 旅して、彫って、祈って」から

 2022年、岐阜県高山市丹生川町の「千光寺」という山寺を訪ねた。
 1600年前の仁徳天皇の時代に、乗鞍山麓の豪族である両面宿儺(すくな)が、古代信仰の場として開山したとつたえられている。

 両面宿儺は、ひとつの胴体にふたつの顔があり、手足が各4本ある怪物で、「日本書紀」では、人々をしいたげる凶賊として武振熊命に討たれたことになっている。
 出雲には、大国主命が大和王権の祖先である天孫族に国を

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能登2011~24 鋳物と左官の中居(穴水)

能登2011~24 鋳物と左官の中居(穴水)

 鏡のような海にカキ養殖の筏が浮かぶ中居湾(穴水町)をながめながら、高台の「さとりの道」を歩くと、わずか1キロほどの道沿いに9つの寺社があらわれた。海沿いの中居の集落には重厚な土蔵がいくつもならぶ。わずかな農地しかない集落に、多くの寺社と蔵をたてる経済力をもたらした背景には、江戸時代の塩づくりがあったという。

塩づくりささえた鋳物産業

 中居はかつて鋳物の町としてさかえた。砂鉄や粘土などの原料

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大宮盆栽村の精神性と先進性202404

大宮盆栽村の精神性と先進性202404

 埼玉でそだったから、小学校の郷土学習本で「盆栽村」を見た記憶があったが、辛気くさい盆栽には興味のかけらもわかなかった。
 でも2020年の四国遍路の途中で香川県高松市の鬼無という、松の盆栽の8割を産出している集落を歩いたとき、大宮の「盆栽村」を思いだした。
 2024年4月、東武野田線に乗って大宮公園駅におりて、北にむかった。
 日本近代漫画の先駆者とされる北沢楽天を顕彰する「漫画会館」をへて1

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ボヘミアンのモロコとりツアー

#京都大学ボヘミアン物語  登場人物たちが、ボヘ一番の釣り名人ミズコの指導でモロコとりにでかけました。コツは……