見出し画像

本を出版、有名メディアで執筆…大きな夢を叶える前の心構えとは?

「もしかしたら、こんな自分にもできるかなあ……?」

 「初心者」や「駆け出し」向けのWebライタースクール・コミュニティの入会募集などをSNSで見かけるたびに、今のブームを実感する。もはや「ライター」の仕事をしている人は珍しくなくなった。これから目指すという人は、一体どんな動機なのだろうか?

「在宅ワークで稼ぎたい」「手に職をつけたい」などの現実的な理由が大きいのかもしれないが、せっかく“文章を書く”仕事をするからには、同時になんらかの「」も抱いているはずだ。たとえば、いつか出版社から本を出したい(自費や電子書籍ではなく書店に並ぶ商業出版)、有名なメディアで記名記事を書きたい憧れの著名人にインタビュー取材がしたいX(旧Twitter)でいいねが1万を超える“万バズ”させたい……

 もちろん、これらの夢を叶えるために目の前の“今”をがんばることは間違っていない。ただ、頭の片隅に入れておくべきことがある。それは「夢は叶えて終わりじゃない」ということだ。

“いつか自分も本を書いてみたい”と思っていた

 ある書籍出版社の出している本で、名物となっているシリーズがある。10代の頃に偶然、書店で見つけて以来、僕は夢中になって読み漁った。

 今まで生きてきたなかで知らなかっただけで、こんな世界があったのかと。そのシリーズを本棚に並べてニヤニヤ。次第に、“いつか自分も本を書いてみたい”と思うようになったのだ。

 “ネタ”をノートに書き留めるようになり、数冊分のストックができたところで見様見真似の文章を書き、物は試しに「えいやっ!」と企画募集に送ってみた。まあ、通るわけがないだろうと思っていたら、しばらくして出版社の編集者からメールが届いたのだ!

 結果は……当然、不採用だった。そんなに甘くはない。

 しかし、そこにはちょっとした感想とアドバイスが書かれており、憧れの出版社の人が僕の文章を読んでくれたのだと考えると感動した。ただ、そもそもネタが弱いことは自分でもわかっていた。とてもじゃないけど、本棚に並べたシリーズに到底及ばない。絶対に諦めないと心に誓って、何年かかっても地道にコツコツとネタを拾っていこうと思った。

訪れたチャンス「最後まで書き切る“覚悟”はありますか?」

若い頃にネタを書き溜めたノート

 それから月日は流れて、僕は別の出版社に就職し、「雑誌」の編集者・ライターとして歩んでいた。その間もネタをストックしながら、自分なりにどんな切り口ならば本の企画が通るのか考えていた。

 フリーランスとして独立し、30歳を迎える頃だった。雑誌の仕事でそれなりに食っていけるようになっていたが、せっかく文章を書いているならば、やっぱり本を出すという夢を叶えたかった。

 きっと、既存のシリーズと同じようなものでは難しい。原稿の書き方も工夫しなければならない。自分のすべてをさらけ出す必要があると思った。

 イメージとしては、いま書いているnoteの文章が「オフィスカジュアル」ならば、本を出すための文章は「全裸」。心のパンツを脱ぎ捨てて、再び企画書と原稿を送ってみると……。後日、電話がかかってきたのだ!

コンセプトがすごく面白いと思います。最後まで書き切る“覚悟”はありますか?

 書籍出版社の編集者からだった。どうやら僕の企画が会議で通ったらしい。

「はい、がんばります! ぜひやらせてください!」

 外出先で電話を受けたが、本当に浮かれて街中でスキップしてしまうような気分だった。

 執筆中の不安などもありながら無事に脱稿し、僕の本は憧れのシリーズの最新作として発売された。ライター仲間たちから「どこどこの本屋で平積みされていたよ!」なんて報告を次々にもらってうれしくなった。平積みは目立つので、売れる期待値としても大きいということだ。

 ふだんよく足を運んでいる書店にも自分の書いた本が置かれているのを目にした瞬間は、胸にこみ上げてくるものがあった。

 諦めなければ夢は叶うんだ。ライターをやっていて本当によかった、と思った。

夢は叶えて終わりじゃない

 その後、僕の書いた本は、おかげさまで3冊続けてヒットした。

 “ベストセラーを叩き出して夢の印税生活!”と思っている人も多いはずだが、今はなかなか本が売れない時代。1万部を超えれば“ヒット”といわれており、そこで及第点。ようやく担当編集者から「次回作もぜひよろしくお願いします」という流れになる。著者の印税率は8%〜10%程度が相場。仮に本の定価が1000円だとするならば、1冊売れても80円〜100円程度。つまり、ざっくり計算すれば、1万部売れても80万円〜100万円ぐらいのものなのだ。

 僕にとって、もともと収入のベースは雑誌の仕事で、印税はあくまでプラスアルファ(臨時ボーナス)程度で考えていたので、これに生活が大きく左右されることはなかったが、過度に期待していると肩透かしを食らう。

 ともあれ、30歳の頃になんとか夢を叶えた後、僕はどうなったのか?

 じつは(ここでは夢を叶えるまでの過程を大幅に省略してコンパクトにまとめたが、実際にはかなり紆余曲折あったので)“燃え尽き症候群”のようにもなった。

 著書があることで、近いジャンルの有名なライター・作家さんと会って話したり、いっしょに仕事をしたりする機会も増えていったが、そのぶん自分に足りないものに気づかされて凹むこともあった。そんななかで、次の夢や目標もなかなか定まらなかった。

 夢は叶えて終わりじゃない。その後も人生は続いていくのだ……。

「スタートライン」に過ぎない

※写真はイメージです。Photo by Adobe Stock

 さて、冒頭で挙げたような夢の例は、ライターたちにとって実現可能なのか?

いつか出版社から本を出したい(自費や電子書籍ではなく書店に並ぶ商業出版)、有名なメディアで記名記事を書きたい、憧れの著名人にインタビュー取材がしたい、X(旧Twitter)でいいねが1万を超える“万バズ”させたい……。

 多くの出版社は部数を下げても出版点数を増やして売り上げをつくろうとしている。雑誌に関してはページが限られているので、なかなか新規ライターが入り込む余地はないが、Webメディアにおいてはいくら記事があっても足りない。企画の内容によっては、誰もが知るような有名メディアでも書くチャンスはあるし、万バズだって狙えるだろう。

 もちろん、そんなに簡単ではないが、じゅうぶんに叶えられる可能性はある。というか、だいぶ確率は上がっている。だからこそ、夢には「続き」があるということを意識しておいたほうがいい。

 僕は夢を叶えてから、ようやく「スタートライン」に立てたような気がする。むしろ、ここからなのである。

 あれから約10年、今もなんとか踏ん張っている。

<文/藤井厚年>

この記事が参加している募集

ライターの仕事

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?