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紙からWebの編集者に転職して実感。「ちゃちゃっと書いてよ」問題の根深さ

 私は雑誌や書籍など紙媒体の編集者・ライターとしてキャリアを積み重ねて約10年……。そこそこの成果は出してきたつもりだ。とはいえ、「どれだけ時間をかけて制作しても、人に見てもらえなければ意味がない」。より多くの人に記事を読んでもらうため、思い切ってWebメディアのフィールドに足を踏み入れた。

 しかしながら、私は当初、Twitterのアカウントすらもっておらず、ブログはもちろん、基本的にWebメディアは読まない。そんな根っからのアナログ人間だったのだ(取材対象の情報収集にSNSやブログはチェックしていたが)。

 覚悟はしていたが、紙媒体で育った私にとってカルチャーショックを感じることも少なくなかった。そこで、とくにココ半年ほどで感じたこと・気付いたことを少しづつnoteに書いていきたい。

 紙からWebにいこうか悩んでいる編集者やライターなど、未来の仲間たちにとって少しでも参考になれば幸いだ。

ちなみに、現在は再び就職活動中。言い換えると、ニートである。前職場では、Web初心者だった私にイチからていねいに教えてもらい、非常に感謝している。だが、これまで「好き」を突き詰めてお金(ギャラ)に変換してきた人間である。今後は改めて得意分野を中心にWebで勝負してみたいと考えている。

Web人間が言いがちな「ちゃちゃっと書いてよ」問題

「おまえ……すっかりWebの人間になっちまったよなぁ」

 知人の編集者・ライターのAがしかめっ顔でいう。もちろん、ほめ言葉ではない。私の軽卒な仕事依頼に呆れているのだ。断られて当然である。

 Aは、私と同様に複数の著書を出版している。ペンネームを使い分け、週刊誌などでは記事1本で10万円近く稼ぐこともある。それだけ取材に熱量があり、書く内容も面白い。

 そんなワケで、ぜひとも私が関わっていたWebメディアにも寄稿して欲しかったのだが、あいにく予算は少ない状態だった。取材費・諸経費込みのギャラ1万円で、3000文字以上は書かなければならない(紙の取材系読み物でやっていた私の感覚からすれば安いのだが、Webでは悪くない金額とも言える)。

紙とWebの制作予算とスピード感の違いに困惑

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 いくつかのWebメディアの制作に携わってきたが、収益化していない媒体の予算は総じて低い(一部の大手をのぞく)。バイラルやキュレーション系メディアのなかには、記事単価8円というケースさえあるらしい(文字単価ではなく、記事単価)。

 さすがにそれは極端な例だが、今回も諸々の手間を考えれば、ライター側としては1万円では割に合わない。そこで、「以前に出版した著書の内容をコンパクトにまとめて記事にしてくれればOK」という内容で発注したのだ。

(まあ、改めて取材をする必要もないし、簡単な仕事だよね……)

 このように考えるWeb編集者は少なくないと思う。しかし、よく考えてみてほしい。

 書店やコンビニに並ぶいわゆる商業出版の場合、一冊の本を作るのに数カ月はかかる。取材が必要なものであれば、それこそ丸1年かけることさえある。それは自分自身が身をもって体験してきたはずだったにもかかわらず……。

 日々に忙殺され、すっかりと意識から抜け落ちてしまっていたのだ。要するに、てっとり早く面白い記事を発信して評価を得たいという心算……。

 取材に数カ月の労力を費やしてきたライターAの気分を害しても当然の結果だった。思わずハッとし、私は彼に対して謝罪した。

 Webと紙媒体の仕事の大きな違いは、配信(掲載)までのスピード感と記事本数である。SEOの観点からも本数をなるべく多くこなさなければならない。

渾身の1本よりもクオリティはそこそこでも10本

 そんな考え方がWeb界隈に横たわっていることは事実だと思う。

 月刊誌や書籍など、1カ月〜数カ月スパンで制作する紙媒体で活動してきた私にとって、リズムがなかなか合わなかった。WebやITを中心にやってきた人たちにとっても忙しいことには変わりはない。そこでこう考える。

「ちゃちゃっと書ける人に書いてもらおう」

 予算やスピード感など、Webという媒体の性質もあるが、そんなふうに考える風潮が広く深く根付いてしまっているように思えた。

Webメディアには意識改革が必要だ

 ただ、良い記事には、しかるべきリスペクト(と対価)が払われて当然であるということを、今後も忘れてはならない。さもなければ、ライターはもちろん、編集者の未来も明るくはならないだろう。

 徹底して低予算と高スピードだけを追い求めれば、WELQと似たような問題が起きる。

幸いにも私が所属していたWebメディアの制作会社は、1本1本の記事をていねいに作りたいという意識があり、関わっていたクライアントの多くがそれに共感してくれていた。

 私は、いろんな葛藤がありながらも、改めて今後もWebで情報発信の仕事をしたいと考えている。今回のWELQ事件を見て、紙媒体でやってきた経験と価値観を完全に捨ててはならないのだと実感しているのだった。

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