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編集者の病い

「ああ、それは編集者の病いですねえ」

 出版業界の大先輩に相談してみると、こう返ってきた。有名な『編集者という病い』ではなく、“編集者の病い”である。

「車を運転しながら、なぜだか涙が止まらなくてねえ……。僕もそうだったんだけど、だいたい40代ぐらいで同じように悩む人も多いから気をつけたほうがいいよ」

昼夜逆転・不眠不休でも大丈夫だと思っていたけど…

※写真はイメージです(Photo by Adobe Stock)

 Web編集者のなかでも「ネットニュース」に関わる仕事は、広くて深い海を24時間泳ぎ続けるようなものだ。陸にあがって、心から休めるタイミングは少ない。

 慣れてくれば、ある程度はスケジュールを自分でコントロールできるようになる。とはいえ、熾烈な競争を強いられるなかで、平日のオンタイムにゆるゆるとやっているだけで褒められるような結果が残せるほど甘くはない。土日祝日や深夜に対応を迫られることもしばしば。記事中のちょっとしたミスや言い回しのせいで炎上してしまう時代、あらゆる方面に神経を研ぎ澄ませる……。

 20代から昼夜逆転や不眠不休で戦うことに慣れていた。体育会出身で体力には自信がある。“いざという時もその気になれば大丈夫”と思っていたが……。そんな生活を長く続けてダメージが蓄積されてきたせいなのか、完全に身体がバグってしまい、ここ数年は様々な不調に悩まされてきた。もう40代の扉を開こうとしている。若い頃の感覚では限界があったのだ。

ライフワークバランス?

今年の夏、出社前のウォーキングが日課だった

 30代以降はライフステージの変化も大きかった。もはや仕事だけに自分のリソースすべてを注ぎ込むわけにもいかない。家族やプライベートと仕事のバランスをいかに取るのかも重要になってくる。こう言ってはなんだけど、みんな大っぴらには口に出さないだけで、じつはいろいろと抱えながら生きているのだなと(笑)。

 ともあれ、なんとかギリギリのところで均衡を保って持ちこたえてきたけど、昨年秋、コロナ罹患がきっかけ(※)となって全てが崩れてしまった。今までの「当たり前」が当たり前ではなくなってしまったのだ。

(※)医者いわく、直接の因果関係は立証できないが、同じように訴える患者が非常に多いとか。

 それは仕事にも大きな影響が出るほどで、努力うんぬんではなく、本当に諸症状のせいで「できない」と思うことが出てきて、自分でもショックを受けた。次第に僕は“一度しっかり休職するか、もしかすると辞めるしかないのかもしれない”と塞ぎ込むようになっていた。本音をいえば、ぜんぶ投げ出したかった。ただ、そうもいかない「現実」がある。ごまかしながら働き続けるしかない。

「自分史上最低」を更新するなかで…

 自己肯定感でいえば、「自分史上最低」記録を更新。このまま自分は終わっていくのだろうか……。不安の渦に飲み込まれそうだった。

 医者からは「大きな病気の疑いがある」とのことで、病院で精密検査を受けた。しかし、結果は異常ナシ(あくまで、疑いがあった「大きな病気」に関して)。そうなってくると、僕が編集者の仕事を続けていくために、残された選択肢は、ただひとつだけだった。

人間として強くなるしかない

 これは人間としての「器」というより、シンプルに生物として心身を強くする必要があると思った。そのためには、生活習慣をがらっと変えるしかない。そこで、まずは15年以上ほぼ毎日摂取し続けた酒、タバコ、栄養ドリンクをいったんヤメることにした。

決意のポスト

 酒、タバコ、栄養ドリンクは日常における「ルーティン」だったので、今まで何度もヤメようと思いながらグダグダと続けてきたけど、今回の場合は、“いまヤメなければ自分が終わる”ぐらいには体調が悪かったこともあり、いさぎよく断ち切るしかなかった。

 そのおかげで約1週間程度で効果を実感し、数ヶ月ぶりの安眠……。明らかに体調が良くなっていった。そして、少しずつ生きる気力が湧いてきたのだ。

 とはいえ、まだまだ身体が重かった。長時間のデスクワーク&運動不足で、実際に体重は過去一で重い。部活動に励んでいた青春時代、つまり自分の中での「全盛期」よりも10キロ以上ある。ダイエットして、あの頃に戻りたい。自分史上最低から自分史上最高へ……。

#100日間で10キロ痩せるアラフォーおじさん

記録を始めた時点では69.4キロ(年始は72キロぐらいあった)

 ダイエットといえば、ランニング。なんとなく思い立って、通勤中に小走りしてみたものの、マジで10メートルぐらいで息があがってしまった。ぜんぜん走りたくない。

 これまでまったく運動していなかった人間がいきなり走るのはハードルが高いことに気づき、会社がある浜松町の1つ手前の田町で電車を降りて、出社前にウォーキング(早歩き)してみることにした。これが気分転換にもなって、思いのほか楽しかった。田町、高輪ゲートウェイ、品川……。

 少しずつ距離と時間を伸ばしていくと、今度は自然と「走りたくなってきた」のだ。そこで毎朝6時に起きて、30分程度のランニングからスタートさせた。

 そのぐらいのタイミングでX(旧Twitter)に「#100日間で10キロ痩せるアラフォーおじさん」のハッシュタグをつけて記録するようになった。

 ずっと人知れず自分と戦ってきたけど、とりあえず周囲に宣言することで、確実に痩せようと思ったからだ。まあ、たいしてフォロワー数もいない弱小アカウントなんだけど、それでも少なからず仕事関係者も見ているので失敗したら「ダサい」状態にしたほうがよいなと。

 ウォーキングでは体重がほとんど落ちなかったけど、もともと筋肉質ではあるのでランニングにしてからは超スピードで減っていった。

10年後の自分からすると、これが「人生の転機」?

100日間でギリギリ10キロのダイエットに成功

 年始に72キロあった体重は59キロまで落ちた。何度も病院に行って薬をもらったりしても治らなかった不調が寛解し、以前と同じように「全力で」働くことができるまで回復した。周囲からすると「いつもパワフルに働いていて、そんなふうには見えなかった」らしい。まあ、努力して回復できたからこそ、「じつはあの頃は苦しかった」って言えるんだけどね。

※写真はイメージです(Photo by Adobe Stock)

 これが10年後、20年後の自分からすると「人生の転機」だったような気もしていて、ざっくりでもいいから、とにかくまとめておきたいと思った。

 あまり具体的に書きすぎると多少の問題が出てくるかもしれないので(笑)、やや抽象的な言い回しが多かったかもしれないけど、今年1年を振り返ると、大体こんな感じだったかな。2024年はいったい、どんな年になるのかな。

<文/藤井厚年>

#今年のふり返り

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