エフ=宝泉薫

痩せ姫と芸能、美や死についてつらつらと。

エフ=宝泉薫

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最近の記事

命の軽さ、これから死のうとするとき

僕たちは命を、羽のように軽いものだと思っている。けれどもそれは命を粗末にしているという意味ではなくて、僕たちは命を羽のように軽いものとして愛しているという事だ。(太宰治「パンドラの匣」より) 太宰がそう書いたように、命の軽さを自覚しながら、それをどう愛せばよいのか、葛藤する人々がいる。摂食障害の人たちが、体をひたすら軽くしようとするのも、現実の重さに見合わない自分の物質的存在感を希薄にして、受容し、愛そうとする、苦肉の策なのかもしれない。 児童文学者の久保喬は、若い頃、酔

    • 「心」八木重吉

      死のうかとおもう そのかんがえが ひょいと のくと じつに もったいない こころが そこのところにすわっていた 「心」(八木重吉) 八木重吉の詩って、心身を病む人に響くものがある気がする。 彼自身、詩作と信仰を極めていこうとするところで、結核に倒れ、病苦や生と死の恐怖と葛藤しながら、29歳で亡くなった。 衰弱し始めた頃から、魚や肉を、 「可哀そうで食べられない」 と言って、敬遠するようになっていたという。 (初出「痩せ姫の光と影」2010年5月)

      • ガリガリなのに、太って見える。

        摂食障害について、啓発する目的で製作された、海外の有名なCM映像。 最初は、鏡の中の女性(太った姿)だけが映ってるんだけど、カメラがしだいに引いていき、じつは、かなり痩せてる女性が、鏡で自分を見てる構図だとわかる。 つまり、ガリガリに痩せていても、太って見えてしまう、という、摂食障害における「認知の歪み」を、こうして表現してるわけだ。 でも、この写真を見てて、別のことを考えた。CMの意図をあえて無視して、ただ単純に、二つの体型を見比べたとき、世の女性たちは、どう思うんだろ

        • 少食少女と「娼婦と淑女」

          昨日の『天てれ』。戦士取調室のコーナーで、松岡美羽が容疑をかけられた罪は「もっといっぱい食べな罪」だった。 家では、妹よりも小さいお茶碗を使ってて、しかも、米の量はお茶碗4分の1ぐらい。本人いわく、これくらいで、 「おなかいっぱいになっちゃうんですよ」 水泳が得意らしいし、てっきり「痩せの大食い」タイプかと思いきや、この年代(ちなみに中1)に時々いる「少食少女」だったとは。 昔から、少食&偏食で給食を残しちゃうような女の子が好きだったから、 なんか、ドキドキしてしまった。

        命の軽さ、これから死のうとするとき

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        • 2084年
          4本
        • 何処までもやせたくて
          94本
        • 痩せ姫百景
          4本
        • かすみ嬢の居場所
          71本
        • ダイエット大好きJK・水内姫那
          13本
        • 彼女がいい子な理由
          4本

        記事

          マネキンは痩せすぎ?

          「最近のマネキンは痩せすぎだから、規制を!」みたいな海外ニュースが、数日前に報じられ、さっき、確認してみたのだけど。 これって、男のマネキンの話だったのか。イギリスで発表された、最新の男性マネキンが、細く作られすぎ(ちなみにウエスト68センチ)だとして、 同国の摂食障害者支援団体が、抗議したらしい。 ところで、スペインには、国が決めた「美の新基準」なるものが存在し、 「店頭ディスプレイ用マネキンのサイズは38号(日本でいう9号)以上に」 なんて指導がされてるとか。日本のメ

          マネキンは痩せすぎ?

          長澤まさみと宮沢りえ(と、蒼井優)

          今年になってから、激痩せで注目を浴びた長澤まさみ。でも、12歳で東宝シンデレラに選ばれてからの数年間も、きゃしゃな体型だった。 女優として、試行錯誤するなか、彼女が痩せた背景には、もともと、こういう体型で世に出た、ということも関係してるのでは。少女モデルとして出発した宮沢りえが、セックスシンボルとして消費されたあと、痩せを志向したのと、もしかしたら似てるのかもしれない。 (初出「痩せ姫の光と影」2010年5月) これについては、当時から「役作り」という見方もあり、現時点で

          長澤まさみと宮沢りえ(と、蒼井優)

          痩せるのは誰のため?

          ダイエット番組などを見ていると、男性出演者が「僕たちは、女の子にそこまで痩せてほしくないのに」なんて言ってたりする場面に出くわす。でも、最近の女の子が痩せたいのは、どっちかといえば、自分のため、だろう。 たとえば、実用向けのダイエットコミックに載ってた「やせゆく女」(尾形未紀)という掌篇の一場面。 「結局 彼女たちは〝男〟なんて いらないんです」 のあとには、 「女のコの仲間の中で トップ(一番やせてる)になれればいいんです」 「ようするに〝男〟より〝自分〟が 好きなん

          痩せるのは誰のため?

          身もなくあえかなり(「源氏物語」女三の宮)

          「いと御衣がちに、身もなくあえかなり」 『源氏物語』若菜上、より。 前記事で「身もなき雛」という表現を引用したが、似たような表現をされた女性に、女三の宮がいる。意訳すれば、 「衣裳ばかり目立って、中身がないように弱々しく細い」 という感じだろうか。 体型同様、精神的にも未成熟で、そういう幼さゆえに、夫の光源氏から疎んじられ、柏木との密通から不義の子を生んでしまった直後、出家するわけだが、その「不義の子」こそ、宇治十帖の主人公・薫であり、彼が成人して恋した大君が「身もなき雛」

          身もなくあえかなり(「源氏物語」女三の宮)

          身もなき雛(「源氏物語」大君)

          「腕などもいと細うなりて、影のように弱げなるものから、色あいも変わらず、白う美しげになよなよとして、白き御衣どものなよびかなるに、衾を押しやりて、中に身もなき雛を臥せたらむ心地して(略)」 『源氏物語』(宇治十帖「総角」)の一節。愛への不信から、求婚問題に懊悩したあげく、拒食状態に陥った大君が、死を迎える直前の描写だ。 紫式部は、もともとひどく痩せていた大君が食を拒み、命が保てないほど痩せ細った姿を、このように書いている。 原文のままだと伝わりにくいかもしれないが、か細くて

          身もなき雛(「源氏物語」大君)

          拒食の可能性と、ダイエットの不可能性

          拒食時の最低体重が、19.8キロだという女性を見つけた(身長はたしか、154センチ。今はかなり回復したようだ)。 人間は、骨と臓器だけでも20キロ前後はあるそうなので、まさに、極限まで痩せたことになる。 それでも、死なずに済んだのは、人間が飢餓というものに、極めてしぶとく対応できる仕組みを持っているからだろう。タモリあたりが、テレビでもよく言ってることだけど、人間の歴史はとにかく、飢餓との戦いだったから、栄養状態が悪いなりに、体が必死にやりくりして、生き延びようとする。不幸

          拒食の可能性と、ダイエットの不可能性

          転生としてのダイエット

          少女マンガの『シルフィードの罠』(竹崎真美)は、主人公が〝空気の精〟に憧れて、拒食症になっていく物語だけど、小説の『鏡の中の少女』(レベンクロン)でも、主人公は〝フランチェスカ〟という本名を嫌い〝ケサ〟という別の名前をこさえて、激痩せを目指す。 大なり小なり、ダイエットというのは、今の自分を否定し、別の自分になろうとする試み。その転生へのモチベーションが、過激なほど、病的な展開を示すように思える。 転生としてのダイエット。でも、哀しい哉、人間はまるっきり別の人間に生まれ変わ

          転生としてのダイエット

          骨モデル

          「骨モデル」 何年か前、摂食障害のサイトで見つけた言葉。 Q&Aのコーナーで、158センチ38キロの女性が、 「32キロまで落とすにはどうすればいいですか。私は、骨モデルになりたいんです」 と、質問していた。 アンサーのなかには「骨モデルって何?」みたいなツッコミもあったけど、なんとなくわかる。 その女性に限らず「骨モデル」になりたい人、少なくないと思うから。 (初出「痩せ姫の光と影」2010年5月)

          「シルフィードの罠」~ある間接的オマージュ

          昨日に続いて、アメブロ初期記事の再録。 新記事の更新と並行して、こういうのもやっていくつもりです。 ・・・・・・ 『シルフィードの罠』(竹崎真実)より。 空気の精を演じることになった演劇部の少女が、ダイエットにのめりこみ、拒食症になっていく物語。これは、着替えをしていて、母親がそれを見てしまう場面だ。 この作品は、拒食症における変身願望、もしくは別世界への転生願望をよく描いている。 じつは今、強く惹かれるブログがあり、そのブログに対する間接的なオマージュのつもりで、

          「シルフィードの罠」~ある間接的オマージュ

          154センチ23キロのサイズ測定

          「痩せ姫の光と影」(アメブロ)を始めてから、ちょうど14年。 初期の記事を再録してみる。 ・・・ 以前、ニュース番組に登場した拒食症女性。 154センチ23キロの彼女は、拒食のつらさを激白しながらも、全身のサイズを測定されるとき、どこか誇らしげにも見えた。 バスト 65(痩せる前は80) ウエスト 44(痩せる前は60) 二の腕 15 太もも 27.5(浮腫みで朝より4センチ増、とのこと) ふくらはぎ 22 別のサイトで、かなり前に、同身長で30キロの女性のサイズを紹

          154センチ23キロのサイズ測定

          食べたくないの~古い新聞記事より

          痩せ姫との出会い、として思い出されるのが、中2の夏に読んだ新聞記事。 「心のカルテ9 食べたくないの」と題された医療コラムだ。 アメブロではかなり前に紹介したけど、こちらでも全文を引用掲載して、雑感を付け加えてみる。 ・・・・・・ 思春期の少女がガリガリにやせて、病院の小児科病室で静かに息を引き取った。病名は「神経性食思不振症」。「思春期やせ症」ともいう。精神的な原因が引き金となって、食事を拒否する病気で、重い場合は、栄養失調となって餓死することも。全国にどれほどいるかは

          食べたくないの~古い新聞記事より

          2084年(4)クレイジーSを着るために②

          ソファーに座りながら、少女は自分が呼ばれるのを待った。 すると、9時57分が過ぎたころ、玄関とは反対側のドアが開き、20代くらいの女性が出てきた。 おそらく自分の前の客だろう、と少女が思ったのは、その体型がやはり細かったからだ。 身長は170センチ近いのに、体重は30キロあるかないか。 購入品が入っているとおぼしき袋を持つ腕が、長袖を着ていてもわかるほど頼りなく、膝丈のスカートから伸びたふくらはぎもまったく肉がついていない。 しかも、顔はそれほどコケてはおらず、10人が10人

          2084年(4)クレイジーSを着るために②