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中村佑介さん / イラストレーター にイラストの講評をしてもらった話

 先日、ASIAN KUNG-FU GENERATIONはじめ多数のミュージシャンのCDジャケットや、森見登美彦 著『夜は短し歩けよ乙女』、東川篤哉 著『謎解きはディナーのあとで』などの装画を描かれた中村佑介さん(以下 中村さん)に、私が描いたイラストを講評していただく機会に恵まれたのでそのことについて書きます。

どのような経緯で講評していただくことになったか?

今回は、中村さんが個人的にツイキャスで配信されている「映像を用いずに、どれだけ絵についてを語ることができるか」に挑戦したラジオ『中村佑介の耳で聞く絵の話(毎週日曜夜9時から 現在は不定期配信)』の第100回目の企画「合評会」に参加させていただき、そこでイラストを講評していただきました。

この企画は番組10回ごとに行われており、事前にイラストレーターを志望する希望者が中村さんにメールでイラストを送り、そのイラスト見ながら中村さんが講評を行うというものです。
毎回、イラストレーターを志望する学生や、仕事をしながらイラストレーターを目指す社会人、はたまたプロのイラストレーターなど多くの方が参加され、中村さんはイラストの講評だけでなくそれぞれの立場に沿ったアドバイスをされています。

イラストレーターとして、超ご多忙を極められる中村さんがなぜこのような企画を行っているのか、その答えは中村さんの著書、『みんなのイラスト教室』の中にあります。

教育には関心はありました(中略)「お金がなくて絵を学べなかった」、また「興味はあったけど周り絵を描く友達がいなかったから何となく描くのをやめてしまった」、実はそんな人たちの方が、絵の学校に通っている人よりも多いという事実を知ったからです。そして僕は、そんな途中ではぐれてしまい、美大や専門学校の入り口にさえ辿りつけなかった人のための教室を開きたいと思いました。
みんなのイラスト教室 / 中村佑介

SNS上での中村さんとそのフォロワーさんとのアドバイスのやりとりの中で始まった企画を元にした著書の中でこう語ります。 
著書以外でも中村さんは自身の講演会やイベント後には会場に残り希望者ひとりひとりに講評をされておられ、イラストの制作以外に『教育』の活動にも意欲的に取り組まれています。
中村さんの講評の特徴は、絵の上手い下手で論じないこと。どのような考え方を持てば作者のメッセージがイラストを見た人にわかりやすく伝わるかを軸にアドバイスをされています。
つまり、老若男女どんな人でも、アドバイスを実践すればすぐに絵が上達できる可能性が高いということです。
絵の上手い下手はデッサンやクロッキーなど日々の鍛錬によるものですが、構図や色彩、心持ちなどは少し考え方を変えて描くことですぐに実践できるものです。もちろん、デッサンやクロッキーをないがしろにして絵が下手なままでいい、というような話でも無いのですが。


中村さんの絵に対しての考え方をもっと知りたい、という方は是非「みんなのイラスト教室」を読んでみてください。
税込でも900円以下、現在はKindle Unlimitedでも読み放題で読めるロープライスでありながらも、この本さえ読めば他のイラストの技法書はいらなくなる、というような内容ではないかと思います。
イラストに興味がなくても、企画立案などをされる方や営業職などモノを売るような仕事の方にもオススメ出来るかもしれません。

番組内のこの企画も中村さんの、絵を描くことの門戸を広げたい、既に絵を描いていて上達したいと思っている人を応援したいという思いから生まれたものではないでしょうか。

以下、実際の講評の様子をお届けします。

見て頂いたイラスト

ツイキャスの前日に中村さんのツイッター上で告知があり、期限の当日19時の2分前に以下のようなメールと共にイラスト・それぞれのイラストの説明を送らせていただきました。

中村先生、こんばんは。

いつもツイキャス拝聴させていただいております、フジワラヨシトと申します。
今回は合評をしていただけるということで、是非絵を見たいただきたいと思いお便りさせていただきました。
現在、私は30歳で以前、テーマパークなどで来場者の似顔絵を描く仕事をしていたのですが、結婚や子供が産まれたことを機に一般企業に就職し、まったく絵を描かない生活を数年間送っていました。
ですが、昨年から絵を描くことを再開し、イラストでも収入を得ることができるようになれば、と考えるようになりました。
最近は絵を描くうえで、構図の組み立て方や主題以外の背景などをどのように考えるかを悩むことが多いです。
また、イラストをどのような層にアピールしていくべきかを考えてしまいます。

講評頂けますと幸いです。

フジワラヨシト

応募では【3枚】の応募だったのですが、以前に送らせて頂いた作品も講評してくださり、全部で6枚の作品を講評していただきました。
今回はその中から5作品の講評の様子を紹介します。

実際の講評

日曜日の夜、ツイキャスは少し遅れて22時過ぎより始まりました。私は自宅のリビングでスマホにイヤホンを繋ぎ聞いています。
今回、講評を希望したのは私を含めて9名。
メールを送ったのが期限のギリギリだったので、「講評は最後の方だろうなー。」と、のんびりと他の方の講評を聞いていたのですが、3番目の順番でした。

まず講評して頂いたのはこの3作品。
【どうぶつの蔵人 くま・アライグマ・ねずみ】

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3つの動物がそれぞれ、違ったパートごとに動物の身体のサイズに合わせた作業を行なっている姿を描いたこの作品。

開口一番に「可愛い!いいですね!」と言っていただく。嬉しい。

中村さん「描き方が記号的になっていない、他の人が描いている動物を真似していない描き方ができている。例えばネズミの絵だとリアルに描いているところはリアルに描き、描きすぎるとグロテスクになりがちなパーツはディフォルメができており、リアルなネズミと分かりつつ、可愛さを前面に押し出す絵が描けている。また、机や道具などのモチーフが丁寧に描けている。特に作業着が良いですね」
ということを良い点として褒めていただきました。
その点を踏まえて指摘。ドキドキ。

「この3点を見た上で指摘できるのは、3点目のネズミの作業着に色がついていないということ。1点目の緑、2点目の赤と続き3点目にポイントカラーがないので異様に地味だなと感じてしまう。色を付けるなら計算している冷静な感じが伝わるように作業着を青か紫の寒色をポイントカラーにした方が良い」とのこと。

言われてみれば確かに地味。どこに視点を持って行けば良いのかわからない感じがします。

というわけで指摘を受けて直してみたのがこちら。
画面にメリハリが出て、ネズミが主人公だという感じが出たのではないでしょうか。

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続いてはこちらの作品。

【日本酒の蔵元のお祭りのポスターなどでの利用を想定したイラスト】
この作品はどこかで見たことのあるような絵になってしまってて個人的には良しと思っていない作品です。

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中村さん「さっきの絵の方がいいですね。おじさんが頑張って若い子たちの前で若い子たちの間で歌ってる歌をうたってるみたいな感じが出てしまってる(笑)。辛口にいうとWEBの広告にありそうな絵で、もっというと2番煎じ。いつまで経ってもクライアントに強く出られない絵になってしまってる。それはそれで良いけどフジワラさんがやりたいこととは違うのではないか。」

まさに・・・。描くぶんには手数も少なくて描きやすい絵ではあるんですが、匿名性が高い絵になってる気がします。

中村さん「とは別に、お酒のモチーフの描き方だったり、特におじさんの描き方が優しい!」

↓この二人。
日本酒の酒蔵の製造責任者である杜氏(左)と経営者(右)である蔵元(専務が親の跡を継いで最近社長になった設定 笑)

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中村さん「地味なおじさんを可愛らしく愛嬌を持って描ける人はなかなかいない。オシャレに描こうとしていないところにフジワラさんの良さが出てる。右の人物をオシャレぽく描こうとしすぎてて、左のおじさんたちの絵と分離してしまってる。また、お酒の絵なのに、右の人物たちが本当に成人してるのかわからない。靴や前髪の作り方の幼さがパッと見18〜19に見えてしまう。ブランド物のバッグを下げるなどわかりやすい大人ぽい記号を入れてあげた方が良い。オシャレぽく描こうとするのはフジワラさんの良さではないと思うので、もっと普通の人物を描いたほうが良いと思う。」

確かに、右の人物たち『Pinterest』でファッションを検索しながら描いてるんですよね。
無理して描いているのがバレバレです笑
日本酒を若い人にアプローチが出来るイラストを、と思って描いたイラストではあったのですが、未成年に見える可能性がある、という事はもっとも重要でありながらも、盲点だったかもしれません。
イラストレーションというものは公共の目につく広告が主な使われ方なので、どんな人が見ても楽しめることを意識して描く必要があり、見る人を不快にさせたり、コンプライアンスに疑問を抱かせるようなことを描くことには注意が必要です。

このアドバイスを踏まえて描いてみたのがこちらの絵。

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水道工事の会社、ポストによく入ってる冷蔵庫に貼れるマグネット(みうらじゅんさん的な言い方をすると『冷マ』を想定して描いてみました。
やや匿名性のあるカットイラストぽくしつつも、自分らしさを出しつつも普通の人を描けたのではないでしょうか。特に真ん中の男性のお腹はよく描けたと満足しています笑
地味な人を可愛く描くということは大切にしていきたいと思います。


最後はこちらの作品。

【女の子とアヒル】
1枚目は子供向け、あるいは幼児~小学生の子供を持つ両親向けの雑誌などの媒体の挿絵をイメージしたイラスト

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中村さん「家に子供がいるだけあって、手や髪型など子供の描き方が上手い。そのうえで、幼稚園〜小学生の範囲をターゲットにした、というようなものは有りえない。なぜなら、子供の成長スピードは著しく、昨日好きだったものを子供っぽいと言って嫌いになるということもよくある。大人になると10代後半〜20代前半と広い範囲をターゲットにした媒体はあるが、子供の場合は何歳単位・何ヶ月単位で趣味が変わるので親たちが欲しい情報も変わっていくため的を絞る必要がある。」

中村さん「小学3〜4年生の児童文学の小説などなら良いが、幼年向けの商業誌の挿絵として考えた時には、もう少しディフォルメをかますべき。バイクやアヒルのディティールを書き込みすぎ、わかりやすい笑顔を描く、お花を描くなど。また、色も渋すぎるので嘘をついてあげても良いのでカラフルな色を使った方が子供も親も喜ぶ絵になると思う。女の子ではなくて保育士さんが乗ってたらよかったかもしれない。」

これに関しては、アプローチする対象を幼年向けの絵に変えて行くのではなく、この方向性が受け入れられる対象をもう少し絞ってアプローチしていきたいと思います。

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↑ ターゲットを絞れてるかどうかはわからないですが、描くべきところは描く、描かないでいいところは描かないは意識できたつもりです。もう少し、自動車の赤の彩度を上げてもよかったかもしれません。

中村さんからの課題

中村さん「これらを踏まえて、フジワラさんが継続して描いた方がいいと思うのは、初めの3作品のようなシリーズ。それも工事現場の人たちや交通整備の人たち、会社員、お医者さん看護師さん薬剤師さんなど、普段絵にならないような人たちにスポットを当てて絵を描いて欲しい。なぜなら、そういう仕事の人たちの絵というのは無いか、あっても○や△などの記号で描かれた絵が多い。企業の人たちはちゃんとリアリティと可愛さを持って描かれた絵を頼みたくても、描く人がいないので頼む事ができない。そういうところに仕事があるかもしれない。」

【それを踏まえての課題】
・それぞれの絵のキーカラーを決める。目に止まる絵にする。
・Facebookをもっと活用する。直接仕事に繋がる層がいる可能性が高い。
・3日に一回なり定期的に絵をSNSにあげる。
・意外とお仕事系のイラストならnoteももっと活用してもいいかもな、とこの記事を描いてて思いました。

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お仕事をする動物のイラストは少しづつSNSにアップしていこうと思います。
自分自身で、ついつい描き込みすぎてしまってるという印象があるので、もう少しシンプルなイラストをたくさん描いていきたいです。

おわりに

今回の講評では、学生時代から憧れていたイラストレーター、中村佑介さんにイラストを見てもらえる機会が、まさかこの歳になって得る事ができるとは思っていなかったので、これからイラストレーターとして活動していこうと思う上で強いモチベーションになりました。
そうじゃなくても大人になると、他の人に絵のアドバイスをもらえるということも無いですし。
日々SNSを眺めていると、絵に対して色んな考え方がタイムライン上に流れいて、自分の軸を見失いそうになる時があるのですが、中村さんの絵に対しての考え方は共感する事がとても多く、絵を描くときには未熟ではありながらも中村さんの考えを少しでも絵に反映できることを意識して描いています。
私もいつか、中村佑介さんのようなイラストレーターになれるよう頑張っていきたいと思います。

また、この記事が「みんなのイラスト教室」や、「耳で聞く絵の話」の内容から絵を描くことについて学ばせていただいた自分と同じようにイラストレーターを志される方の一助になれば幸いです。

中村佑介さん、今回はお忙しい中このような機会をいただきありがとうございました。いい絵が描けるよう精進します!

中村佑介さんの著書

中村佑介さん出演のラジオ番組


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イラストレーター フジワラヨシト Yoshito Fujiwara



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