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中東の人が漫画やアニメで学んだ「日本語」、なんでそれ?8選@ヨルダン生活

中東ヨルダンにある素敵な本屋に一目惚れし、「ここで働かせてください!」と飛び込み、本屋で暮らしていたときの話。(第一話はこちら

●店長に「手土産」を渡した日

まだあまり知られていないが。どうやら、この本屋に来るにあたって「サプライズ」を仕込んできた日本人がいるらしい。私である。

無事に本屋に着いて、生活を始めたばかりのある日のこと。「実は日本からの手土産があるの」と、ご飯の後にいそいそと準備を始めた。

店長は「え!さては桜の苗だな!?」と目を輝かせている。私はヨルダンに来る前、店長から「桜の苗を持ってきてくれ。庭に植えたいんだ」とリクエストを受けていたのだ。

本屋の庭にはいろんな植物が植えられている

しかし、海外旅行の荷造りなんてわずかな隙間も惜しいのに「木の苗」など持って来れるわけがない。そんな隙間があったら私は迷わず「タオル」を詰めるに決まっている。(第2話参照)

私は「う〜ん植物を持ち込んじゃうと、ヨルダンの生態系を壊しかねないから」と伝えて、桜の苗は持って来なかった。

代わりに持って来たのは、ブックオフで集めてきた色々な漫画だった。店長は日本のアニメや漫画が大好きらしいから喜んでくれると思ったのだ。それに漫画なら、ヨルダンの生態系にもやさしい。

しかし一口に漫画と言っても、少年漫画、少女漫画にジブリといろんなカテゴリがある。店長の好みが分からなかったので、色々持って来ていた。

いよいよ、お披露目だ。

喜んでくれるかな…と緊張しつつも、「じゃ〜ん、まずはナルトです〜」「じゃ〜ん、次はコナンで〜す」と1冊1冊手渡すと、店長はもう大興奮!

「うおおおおおおおおおおお、コナ〜〜ン!」「ナル〜〜ト〜!」
この嬉しそうな顔

最後にドラゴンボールを渡すと、もう興奮冷めやらぬ様子で「本当にありがとう!この漫画は当店の宝にする!」と漫画を抱き締めていた。

中でも、印象に残っているのがこの反応。

「うおおおおお、これは!大羅門・キャ〜〜ット!!!」


だ、ダイラモンキャット?

よく見ると「ダイラモン・キャット」とは「ドラえモン・キャット」のことであった。

●店長がずっと聞きたかったこと

そんな店長は、幼少期からアニメを通じて日本語をリスニングしている。日本語について「ずっと気になっていたんだけどさ..」という質問が飛んできた。

「なあ。オオサカ(大阪)とオカアサン(お母さん)は、違うのか?」


・・すごい質問だ。全く気づかなかったけれど、言われてみれば確かに構成音がすごく似ているではないか!まったくもう、いろんな単語が海外に伝わっているんだな〜、としみじみ感心したのであった。

そして「あまり違いは無い」と教えてあげた。

店長はこのように、日本語の単語を断片的に知っているのだった。

●猫のアニーギー

ミャ〜オ ミャ〜オ

日本語といえば、他にもこんなことがあった。本屋に住む4匹の猫を店長が紹介してくれた時のことだ。

「この猫は、コーヒーという名前だ」
「茶色いもんね。覚えやすい」

「隣の猫は、ミナ」
「ほうほう」
「ミナは強い。つまりアニーギーなんだ

・・・どういうことだ?
ミナには、アニーギーという別名があるのか?

「ちがうちがう!ミナは、アニーギーなんだよ!!!」
「ええ?アニーギー??」

その後、熱心な説明を重ねてくれてやっと分かった。どうやらこのミナという猫は「アニーギー」=「アニキ」。つまり兄貴分で、態度がでかい猫らしい。

私はすっかり「Aniegy」とか「Anygie」といった未知の英単語なのかと思って「我が勉強不足」「誠に遺憾です」と必死に考えを巡らせていたが、この部分だけ日本語だったとは…。猫兄貴、勘弁してください。

●アルプスの少女「ハイジ」の名シーン

当店の店長だけでなく、店長と同世代の副店長も小さい時から日本のアニメを観て育ったそうだ。

副店長はいわゆる「クール系」な性格で、おそらくディズニーランドに行っても「ん〜まあ俺はいいかな」と言ってミッキーの耳を付けないタイプだ(しらんけど)。

そうでありながら、いつも店内を歩きながら小声で「い〜、くぅぅ、さあん♪」と一休さんを口ずさんでいるのを私は知っている。

「フウ。俺はね。ハイジのセリフが言えるんだよ」
「え〜!言ってみて〜!!!」

うんうん、ハイジには「クララが立った!」とかの有名なセリフがあるから、それを言ってくれるのかな?

と思っていたら…


「・・・おでぃ〜たん!おでぃ〜〜〜〜たん!」

おお。

まさかのおじいちゃんを呼ぶシーンだった。

ハイジの放映が終わっても、はるばる中東で「おでぃ〜たん!」と叫ばれているなんて、ハイジの作者もびっくりである。

「フウ、まだあるぞ」
「なに」

「チュートマーテー!チュートマーテーーー!」

お手本となったシーンを見せてもらうと、少年少女が「ちょっと待って〜〜!アハハハハ」と仲良く野原を駆け回っている。

色々とシーンがある中で、なぜそこなんだ。

ハイジの作者もびっくりである。

● 下品ドクターの「決め台詞」

本屋のスタッフだけでなく、ある常連客も日本語を知っていた。彼は医者だった。

彼は夜になると時々、「スタッフ以外立ち入り禁止」のはずの当店のキッチンにズコズコ入ってくる。

そして扉を開けるや否や「いや〜〜〜、今日の患者は知り合いでもないし、適当に診察しちゃったわガハハハ」「診察の時さ、おしりにカメラを入れると、どんなヤツでも全員『あああ〜』って言うんだぜ?ウケるだろww」とか、もうめちゃくちゃなことをベラベラベラベラ喋りに来るのだった。

スタッフたちは「本っっっ当に最低www」「おい!おまえは目医者だろ!適当なこと言うな!!」「こいつはドクター・ダーティーだ!」と口々に言いながら、みんなでゲラッゲラ笑っていた。

そんな彼に「はじめまして」と挨拶した日のこと。

「ほう、フウは日本人なのか。…ってことはよォ…」とニヤリと言うと、ただでさえ狭いキッチンで突然「剣道の構え」をし、すんごいドスの効いた声で突然叫んだ。

「カタナ!!!ケツ〜〜〜!!」

ポカンとするスタッフたち。目医者はチラリとこちらを見ると、「そういうことだろ?」と満足そうに聞いてきた。

うん、うん!

何が「そういうこと」なのかさっぱり分からないが、その点は大丈夫そうだろうか?


●突然の「好きだ!」

またある日のこと。みんなの前で、店長が私に突然「好きだ」と言ってきた。またもや意味がわからない。

「なんで今『スキダ』を言ったの?」と聞いてみると…

驚くべきことに、なんと店長は「スキダ」の意味を「好きです」ではなく「僕の話を聞いてくれ」だと思っていたらしい。

店長「ええ!?だってアニメで、主人公が『スキダ!』と言うと、相手は振り向いて話をしっかり聞くんだ。だから『スキダ』は『聞いてくれ』という意味かと思ってたケド・・」

店長「違うってコト…?」

な、なるほど...(?)。私も店長も、そして話を聞いていた周りの人たちも、「そんな誤解ある!?」とびっくりした。


ふむ、ふむ・・。なんだか、いくら字幕や翻訳技術が発達・普及しているとはいえ、世の中にはまだまだこういった「言語のすれ違い」がたくさんあるのかもしれないな。これでは日本語の誤解が広まってしまう・・。

どうしよう、どうしよう、、、


誰か、助けてくれ、、




助けて〜!大羅門ダイラモンキャット〜!!!


ヨルダン人の日本語編・fin



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