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初、日の出。

子どもの頃
三が日は外に出てはいけない
と思っていた。

実家の、さして熱心でもない宗教上の理由から
初詣に行く事も禁止され
初売りも大人になってから初めて行った。
もはや外出したら呪われる勢いだった。

なのに父が長男であったため
正月は親戚一同が集まり飲んで騒いで宿泊し
年の離れた従兄弟の遊び相手をせねばならない
窮屈な記憶しかない。

なぜ私は外出できないのに人は来るのか?
そんな疑問も浮かばぬほど
全てが当たり前の事だった。

いくつの時だっただろう
初日の出を見てみたいと思った。

しかし家族や友人を誘って
山頂へ赴くなんて事はできない。
させてもらえない。
私は密かに計画を練った。
自室のベランダから見よう。


おそらく例年通りに
家族で新年を迎えた後
私はニ階の自室で静かにその時を待った。

実家は私が子どもの頃に
両親が中古で購入した物件で
ベランダは以前住んでいた人が
後付けしたようだった。

窓の高さが腰より上なのに
そこにベランダがあったのだ。
布団を干すのも一苦労
よじ登って出るタイプのベランダ。
しかも窓には雨除けだか日避けだかが付いていて
外に出られたー!と油断すると
頭や背中を襲うトラップ。
しかし「家にベランダがある!」という喜びで
やはり子どもの頃は疑問に感じていなかった。

日が昇る前に
熱いコーヒーを準備して
ベランダによじ登りレジャーシートを敷き
毛布などに包まって東の方角を見つめた。

ちなみに立地条件もあまり良いとは言えず
家の周りは、家だ。
350度、家に囲まれた家だった。
残りの10度は玄関までのアプローチ。
いや、もちろんそんな洒落たもんではないが。
父と祖母がとんとん拍子に決めてしまい
何も言えなかったと母がこぼしていたっけ…

ご近所さんに見られたらアウト
という危機感も感じつつ待機。

山の向こうから上がったのか
家々の隙間から上がったのか
薄く色づき霞む太陽を
きれいだなーとか
こんなもんかーとか
見たいもん見れたーとか思いながら
ただ眺めた。

感動して涙、はしなかった。
しなくて良かった。

すっかり大人になってしまった今では
朝起きてカーテン開けたら日の出
なんてしょっちゅうだ。
むしろ「まだ暗いじゃねぇか!」と逆ギレだ。
もう「初日の出を見に行こう!」とは
思わないだろう。

でもあの日の寒さとハラハラと
太陽の色は忘れていない。
なかなか面白い体験だったと思う。

日の出はきっと
いつでもどこからでも見られる。


音声配信アプリ Radiotalkにて
収録配信も行っています。
https://radiotalk.jp/talk/1107959

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