くじらを応援しに行った話

在宅勤務の昼休み、昨日食べきれなかった餃子をチンして、炊飯器で保温されっぱなしの米を茶碗によそい、あわててコタツにイン。

昼のワイドショー、淀川の河口にクジラが迷い込んだニュースで持ちきりだった。
8mの子どものマッコウクジラが、我が家からチャリで数十分の距離にいるらしかった。

衝動と思いきりの私、大胆だけが取り柄
見えなくても、クジラを観に行かないと、どうしようもなくなってしまった。
仕事をしていても、頭の片隅では、もうクジラのことが気になって仕方なくなっていた。

定時17:30きっかり
「退勤します」とチャットを送る。
今日ばかりは誰にも後ろめたくない。
わたしは今からクジラを観に行くのだから。

この冬はじめて、ふかふかの帽子をかぶった。
自転車にまたがり、ひたすらまっすぐ、右に曲がって、左に曲がれば、着くらしかった。
家を出た時点で、想定していたよりも暗かった。大阪の日没は17:08。
なにが暮れていても、かまわないのだ!

わたしのマップにまだない道を進む。
あまりにも暗い道、何度も、これ、わたしが走ってもいい道か?と不安になりながら、それでも、もうできるかぎりクジラに近づかないことにはどうしようもなくなっているので、ひたすらまっすぐ自転車をこぎつづける。
道は、誰のものでもないことはないのだ。

街を過ぎ、街灯はない。堤防から、立ち漕ぎしたときだけ、チラチラ水面が見える。
日が沈んでいても、空の端っこは明るかった。空の端っこは、海の始まり。
都会でも、ちゃんとめっちゃ地球じゃん!

こうも暗いと、もうぜんぶ怪獣だなと思えてくる。
暗闇に"在る"デカいものは、マジで得体がしれず、恐ろしくもかっこいいのだ。
遠くにみえていた怪獣Aは、水門だった。

水門のそばには、いい景色がたくさんあった。
これは、変なことが書いてあった道。

意味わかんないけど、わたしのために書いてあるんじゃないことだけはちゃんと分かって、少しさみしい。
道は、誰のものでもないことはないのだ。

それから、これは、イルミネーションで光らさせられてるみたいな花が咲いてた木。

対岸から天に伸びる光の筋が、みんな〜!ここにUSJがありまっせ〜!と言っている。
あーあ、全員でユニバにいきたいな

そして、どんどん地図の端っこに迫っていく。
地図の端っこは、クジラとの再接近地点だ。

↑この写真は、目的地の、地図の端っこまで、チャリで3分地点。

文明の力で鮮明に写っているが、肉眼では、「黒い塊」に向かって進むルートになっていた。
このあたりから、恐ろしすぎて、歌わずにはいられなくなってきた。
人っこひとりいない。いたらいたでこわい。

♪Yo!〜太陽の下で〜夏をかじろう〜笑ってよもっともっと〜

さて、何度も何度も、こわ!さむ!の2択の感情を繰り返し、とうとう、わたしの人生で最もクジラに近づける地点に到着した。

カバンに忍ばせてきた双眼鏡で水面を見渡すが、なにも見えない。
なんにも見えなくて、でもそれでよかったのだ。

「おーい!クジラー!がんばれー!」
と言っておいた。
海に帰れるように、応援しにきたのだから。
心から祈ると泣きそうになるよ

これは帰りに撮った写真。遠くにビルの灯りが煌々と光っていて、ちょっと安心する。

帰り道は暗くても、帰る街は明るいのだ。
……す、すばらしいかも!

クジラを応援しにいった話、おしまい!

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