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コピーと哲学②-ソクラテスの問答法とコピー-

「哲学とコピー」というタイトルで、前回はデカルトの哲学の簡単な紹介とコピーライティングに活かせそうな要素を抽出していきましたが、今回はその第二弾となります。

前回の記事はコチラから


今回紹介するのは、おそらく皆さん名前くらいは聞いたことあるのではないかと思われるソクラテス(紀元前470年頃 – 紀元前399年)です。
哲学の祖と言われる彼の哲学でこれもまた有名な「無知の知」と問答法を紹介しながら、コピーライティングとの親和性を模索していきたいと思います。

例によって、にわか知識による簡潔な紹介となりますので、間違いや諸説ある際はご容赦ください。


彼が活躍した古代ギリシアでは弁論術で盛んで、雄弁な人ほど賢者と呼ばれ崇められて、その賢者たちによって政治が取り仕切られていたそうです。

そうした中で、ソクラテスは賢者と呼ばれる人たちと次々と弁論を繰り返し、「問答法」という手法を用いて彼らを論破していきました。
要するに・・・

質問攻め

だったそうです。

相手の主張を聞いた後、「今、○○と言いましたが、○○とはなんですか?」と質問をしたら、「○○とは△△のことである」と答えてきたとします。すかさず「△△とはなんですか?」と質問をする。
その繰り返しで、相手が言葉に詰まったり矛盾が生じたら、すかさずたたみ掛けていく。
そうしてソクラテスは古代ギリシア最強の論破王になっていったそうです。
(なにか、令和の日本に通じるものがありますね)

ソクラテスの一連の行動には、弁論でいちばんになりたいとか、偉くなりたいといった欲求ではなく、自分たちが無知であることを自覚すること。そして知らないことを知ろうとする(追求する)ことによって世界の真理に近づくことができるという、強い信念があったそうです。

これがソクラテスの「無知の知」と呼ばれるもので、ソクラテスが哲学の祖と呼ばれる所以です。
ただし、厳密にソクラテスが哲学をスタートさせたのかと言えばそうではなく、ソクラテス以前にも真理を追求する人はいましたが、今日まで続く西洋哲学の系譜は、元をたどるとソクラテスに繋がる、ということになります。
ソクラテスの死後、弟子のプラトンたちによって哲学は発展をしていくことになります。
※余談ですが、ソクラテスに自身の著書はなく、彼の思想は彼自身の言葉ではなく、すべて弟子のプラトンたちの著書によって伝えられています。


以上、急ぎ簡潔ではありますが、ソクラテスの哲学の紹介となります。
彼の哲学とコピーライティングに通じるもの、それはもちろんこの無知の知(知らないことを追求する姿勢)もそうですが、ここで注目したいのは彼が弁論に用いた問答法です。

「○○とはなんだろう?」

と、自分自身に問い詰めていくこと。

コピーを書く人でしたら「は?そんなこと当たり前じゃん」と思われるかもしれませんが、僕は意外とこれに意識的に立ち戻らないと迷走してしまうことが多々あります。

特にコーポレートメッセージやSDGsへの対応を絡めたりだとか複雑な課題に対するコピーこそ、「そもそも、○○ってなんだっけ?」というところからスタートさせるように心がけています。
そこで新しい発見ができればそれでもう立派なコピーですし、そこから事業内容などとあわせて考えていくことで、骨太なコピーに仕上がっていくと思います。

また、いわゆる「ジャンプしたコピー」というものが書くには、この問答法が有効ではないかと僕は考えています。


ここでひとつ、僕の好きなコピーを紹介します。

 2019年に「ココロを運ぶ一行タクシー」というタクシーへの共感を呼ぶためのキャッチコピーの公募があり、そこでグランプリになったのが、今はツイッターをやめられてしまいましたが、コピーランナーさんという方(個人的にとても仲良くさせていただいておりました)の書かれた

シンデレラ24時過ぎても送ります。
2019年「ココロを運ぶ一行タクシー」
グランプリ作品

というコピーでした。

タクシーとシンデレラを掛け合わせたアイデアがまさにクリエイティブジャンプと呼べる素敵なコピーです。
こんなコピーが書けたらと常日頃思いますが、いきなりどこかからシンデレラを引っ張ってきて、タクシーと結びつけようと思っても、なかなかできないと思います。
少なくとも僕には難しいです(ただ、コピーランナーさんはそれができる人な気もします)。

僕がもし、この課題に対してシンデレラを持ってこれるとしたらと考えたとき、たどり着ける可能性があるとすれば、この問答法だと思います。


まず、タクシーの特徴(メリット)を抽出しようと書き出したときにひとつ、「いつでも来てくれる」というセンテンスが出たとします。
その際にさらに「いつでもって具体的には?」と自問自答していくと、「いつでもと言えば、深夜(24時)でも」というセンテンスが出せると思います。
そしてさらに「深夜(24時)と言えば?」と自問自答していけば、「24時と言えばシンデレラの魔法が解ける時間」というセンテンスが出てくる可能性がぐっと高くなります(それでもシンデレラを出せるのはすごいですが)。


ここまでくれば、事前に出てきた24時と組み合わせて、このコピーに近いものが書ける可能性があります。

※先程から可能性と濁しますが、もちろん、これはご本人から聞いた発想法ではなく、あくまで、もし僕がたどり着く可能性があるとしたらという立場で書いています。

ちなみに、シンデレラからさらに発展させて「カボチャの馬車」とか出してしまうとおそらく伝わりにくくなると思います。

タクシーは、カボチャの馬車だと思う。

自分で書いておいてなんですが、全く意味がわかりません。

意図の説明なしできちんと伝わるギリギリのラインが理想だと思います。

おそらく、やるとしても今回のように「いつでも」「24時」「シンデレラ」の3回くらいが限度だと思います(ホップ・ステップ・ジャンプみたいですね)。

コピーの書き方は人それぞれで、自分に向き不向きなやり方があると思います。
講座に通ったり本を読んだり色々やってきましたが、自分が好きなコピーに対して、自分がこのコピーを書くならどうやったら書けるだろうと試行錯誤することが僕の中ではいちばん有益な方法でした。

皆さまも色々試される際に、脳裏にソクラテスがよぎって何かの役に立てたら嬉しく思います。


最後に、書きながら僕の脳裏にはマジカルバナナがよぎりましたので、ソクラテスではなくマジカルバナナで記憶の片隅に残れば幸いです(笑)


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