見出し画像

土木という言葉を初めて意識したのは18歳の時だ。


そろそろ進路を考えなければならない時期だというのに、私は将来やりたいことなんて全く思い描けなかった。そんなある日、友人からの誘いがきっかけで夏のインターンシップ行くことになった。

行った先は土木構造物の維持管理点検現場だ。猛暑の中、ただ「だるいな」としか考えられなかった私は、どこに連れていかれるのかもわからないまま高所作業車に乗せられた。

そこで目にしたのは、高速道路の橋脚点検作業。短い棒を持ったおっちゃん達が、コンコン、コンコンと橋脚を叩き始めた。何をしているのか意味不明だった。「え?ここって高速道路の下?私がいつもドライブしてるとこじゃん!え?こんなあっちぃ中、長袖長ズボンのおっちゃん達が、ひとつひとつ点検してたってこと?てか高速道路って、点検しないと崩れるってこと?」たくさんの疑問が頭を駆け巡る間にも、おっちゃん達は手際よく、異常個所にチェックを入れ、黙々と作業を進めた。

土木への偏愛に目覚めたのはその時だ。

コンビニバイト時代、夕方やってくる作業服のおっちゃん達のことを何の気なしに「すごい汗だなぁ」と傍観してきた。その人達が今目の前で、だらだらと汗をかいて真剣に仕事をしている。なぜかその汗はきらきらと輝き、背中がとても逞しく見えた。

人知れず生活を支える「縁の下の力持ち」に私もなる。すでに心は決まっていた。


 そして念願の建設会社へ就職。それはもう、毎日が楽しくて仕方がない。現場に出て驚いたことは、携わる全員が現場のことしか考えていない、まさかの全員偏愛者だったという事実だ。どうすれば安全に工期内に品質の良いものを作れるか?たとえ方向性が違っても、全員が同じ目標に向かって突き進むその姿は「かっこいい」以外のなにものでもなく、いつも惚れ惚れする。

 私は天性のドボジョ、その偏愛について語るといつまでも尽きない。  土木、その一端に居られることに、日々感謝している。

最後にお気に入りの一枚を載せておこうと思う。新入社員で配属された現場だ。若手なので最後に戸締りをして退場する瞬間、誰もいない静まり返った現場が私だけのものになる時間。「至福の時」とは、こういう時間をさすのではないだろうか。

至福の時

執筆者:H.I
執筆者紹介:猫と土木をこよなく愛する27歳。石川工業高等専門学校卒。  入社後は東海、北陸エリアの土木工事現場に従事。最近は筋トレをして、  筋肉痛による快感を得るのが趣味となっている。