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リアルメタバースと多層化する現実

STYLYアドベントカレンダー最後を締める投稿です。STYLYを提供している株式会社Psychic VR Labというスタートアップ企業の代表を務めています。年末なのでこの1年考えたことの頭の整理を兼ねてまとめていこうと思う。それから、登壇などで話をすることはあるがまとめてはいなかったことなども文章化しておこうと思う。

「空間を身にまとう時代」をつくる。我々がSTYLYを用いて提供価値として定めている会社のVALUEである。STYLYはリアルメタバースプラットフォームとして、表現者にXRでのクリエイティブ機能と各種端末への配信機能を提供している。特に2022はVPS(Visual Positioning System)等を用いた都市や商業施設など実空間への配信の仕組みや企画に力を入れた一年であった。

日常的にライフスタイルの中でXRを利用する時代をつくっていくべく、今後STYLYをライフスタイルのOSとして進化させ、アーティストや事業者とともに新たな文化・産業をつくっていくつもりだ。

近い将来、リアルとバーチャルが重なり合う・溶け合う世界を私たちは生きていく世界がやってくる。それにとどまらず、生命と機械、生と死、主体と客体、自分と他人などの境界線も無くなっていく。テクノロジーの進化と社会システムの進化により、これから社会全体の設計が大きく見直され新たな人類の歴史が始まっていくことだろう。

2022年は境界が溶け合う未来の到来に向けた非常に大きな年だったように思います。

3次元空間での新たなクリエイティブ表現と体験のデザインを開拓する実験的プロジェクト/コミュニティーNEWVIEWでは、今年2022年は、フィジカルとバーチャルの物理的 / 感覚的な融合「Create a Melting Reality(溶け合うリアリティを創造せよ)をテーマに作品の募集を行った。

フィジカルとバーチャルだけでなく、人の記憶や主体の境界線さえ溶け合う未来を考えさせられる作品が多く集まった。ぜひ、これらの作品を実際異体験してほしい。

2022年のXR

XR業界においては、カラービデオパススルーに対応したスタンドアロンデバイスが登場しました。10月にPico社からPico4が、Meta社からQuest Proが立て続けに発売され強度の高いMixed Reality(複合現実)体験の提供が可能になりました。今まで、ビデオシースルーにおいてはLenovo社スタンドアロン端末のMirage Solo・Pico社のPico Neo3が白黒のビデオシースルーを、HTC社のVIVE COSMOS・Varjo社のXR3がPCベースのデバイスにおいてカラービデオシースルーを実現していました。スタンドアロン端末でのカラービデオシースルーでは、PCベースのデバイスと異なり装着した状況で動き回ることができます。それより大きな変化は複数人で、物理的に同一空間において強度の高いMR体験を共有できることだと思います。STYLYもPico4での複数人でのMR体験共有に対応しました。早速Pico4を10台購入し利用していますが、体験者同士でコミュニケーションを取りながら利用するMR体験は一人での利用と根本的に違った体験だと感じます。

Pico4 and Quest pro

またVPS(Visual Positioning System)では、5月にGoogle GeoSpatial APIを、Nianticが9月にLightship VPSを一般公開しました。実空間において場所に紐付いたコンテンツを配信することができるようになりました。Google GeoSpatial APIでは、GPSだけでなくGoogle MapやStreetViewにおいて保有する世界中のビジュアル情報を利用して高精度な位置特定を行うため、他のVPSで今まで必要だった場所情報の事前登録が不要になりました。我々がSTYLYを用いて実施した企画においても、ニューヨークのタイムズスクウェア、スペインのサクラダファミリアなど海外の企画においても現地に一度も訪問せずに東京からコンテンツの制作と配信を実現することができました。今はまだスマートフォンにしか対応していないこれらVPSの機能が各種HMDデバイスへ対応することが待ち遠しいです。

来年以降、スタンドアロンHMDカラービデオシースルーデバイスへのVPS対応とオクルージョンへの対応が行われることで実空間でのMR体験が飛躍的に向上するものと思われます。


2022年のAI

将来振り返ると2022年はAI業界においても人類の転換期だったと言えるほどのインパクトのあった年だったと思います。テキスト情報からイメージを生成するAIであるMidjournyが7月にStable Difusionが8月に公開されました。また、それらを使ったAdobe PhotoshopやFigma用プラグインや相次いで公開され、AIを用いた制作手法はクリエイターにとって有用であるだけでなく、スキルがない人々にとっても新たな創作手法を提供することになりました。9月にはテキストから動画を生成するMeta Make-A-Video、テキストから3Dモデルを生成するDreamFusionが相次いで発表され、AIの利用対象は急速な広がりを見せています。近い将来、3次元空間、アバター、フィルター、などありとあらゆるものがAIで生成できるようになるかと思われます。

2022年、AIが様々な創作活動にに影響を及ぼし始めたわけですが、その他、将来の私達の生活にどう影響を及ぼしていくのだろうか。

AIのインターフェースとしてMRが利用される

今、私たちはスマートフォンやスマートスピーカーを使ってAIインターフェースを利用しています。しかし、多くのAIと日常生活を共存しているので、その数はますます増え続け、高度に進化した数百万のAIと共存するようになるでしょう。そのとき、MRが物理的なモノに意識や魂を宿すような役割として使われるのではないかと思っています。

室町時代の『百鬼夜行絵巻』。道具の妖怪であることから一般に付喪神であると考えられている。Wikipedia 付喪神より

AIが価値を生み、価値を消費する時代へ

AIは価値の創造を行うだけでなく、価値の消費も行うようになるのではないでしょうか。人間の生み出した価値をAIが消費してくれるようになるかもしれません。人間が作ったアートをAIが買ってくれたり、人間が行うライブ配信にAIがチャットで盛り上げてくれる上投げ銭しくれるかもしれません。その後は、AIが作り出した価値をAIが消費しだす流れが生まれてくるはず。一見、人間にとってはなんの意味もないように見えるかもしれませんが、AIが価値の流動性を提供するため、人間はそのなかで食物連鎖の一部を恵みとして得るかのごとくAIと共生するかもしれません。

多層化する現実

Facebook・Instagram・Twitterなどそれぞれ別のアイデンティティを持ったり、副業や非営利組織や生涯学習などにおいて違った文化圏に自分自身の普段とは違った側面を持って組織に属す経験をしている人も増えました。VR SNSの登場でアバターを用いて外見すら全く別の自分を表現できる世界が生まれました。そしてクラウドファンディング、投げ銭、NFT、有料ファンコミュニティサービスなどの登場で表現者個人を中心とした経済圏が成立するようになりました。

今までは社会や組織の中で求められるものを生み出す対価として報酬を得るしかなかった環境が、自分自身が創り出したい価値や成し遂げたい未来に共感する人たちを集めて彼らの支援によって創造的活動を続けることが可能になりました。

100万人から求められるものをつくるのではなく、1000人や100人の共感者とともに新たな世界をつくることができる時代です。

私たちはSNSやバーチャルメタバースの登場により既に多数存在する並行世界に少しずつ身を置きながら生活するようになりましたが、ARやMRデバイスの普及はSNSやバーチャルメタバースといった情報空間上の現実だけではなく物理空間をも多層化させ複数の多層化した世界を生み出すものになるのではないかと思っています。

REALMETAVERSEにより多層化する物理現実空間

将来ARグラスが一般化した未来では、物理的な現実空間でさえ一人ひとりに異なった世界として存在しているはず。そんな未来に向けての取り組みを開始しました。

NEO TOKYO CLASH

XRとWeb3のメタバース

「メタバース」、メタ(高次)とユニバース(宇宙)という単語からなる造語である。「メタバース」の定義はさておき、「メタバース」を構築するための重要なテクノロジーとして「XR」と「ブロックチェーン/Web3」の2つが注目されている。これら2種類の別次元に存在する実体化魔法とメタバースの関係を考えてみた。

我々人類が今現在暮らしているバーチャル(実質)世界について

話を理解しやすいように、まず我々人類が今現在暮らしているこの世界が既にバーチャルリアリティだということを自然科学・社会科学の両方の観点から整理してみましょう。(この世界がコンピューターでシミュレートされたマトリックスの世界だと言いたいわけではありません)

 - 知覚によるバーチャル世界

日本バーチャルリアリティ学会のウェブサイにて初代会長舘暲先生は「バーチャルリアリティとは」のページ内で下記のように語っています。

そもそも人間が捉らえている世界は人間の感覚器を介して脳に投影した現実世界の写像であるという見方にたつならば,人間の認識する世界はこれも人間の感覚器によるバーチャルな世界であると極論することさえできよう.

また、ドイツの理論生物学者ユクスキュルは我々が認識している世界を「環世界(Umwelt)」という言葉を用いて下記のように説明している。

我々生物にとっての世界は、知覚によって理解した客観的に存在する環境の一断片でしかなく、それぞれが主体的に構築した独自の世界である

人間の感覚器は個体差があるため、同一の物理世界であっても各個人が認識しているバーチャル(実質)世界は微妙に異なることになる。また、生物によってはそもそも人間の五感のうち一部が存在しない。例えばマダニには視覚・聴覚が存在せず嗅覚・触覚・温度感覚を通して認識できるバーチャル世界に生きている。

 - 共同幻想によるバーチャル世界

その昔、価値の交換は物と物を交換することで行われていました。多くの人々が多くの価値を交換しやすいように価値の尺度を定めたお金という概念が生まれました。はじめは、実際に価値を持つ大麦や銀が通貨として価値の流通を行うための手段として利用されていたようです。

その後、王や国家が儀式や法律を用いた作り出した信用をベースに、それ自体には価値があるわけではない紙や金属などに実質的な価値をつけることが行われるようになり通貨として利用されるようになりました。

このディメンションにおいても、人類は様々な魔法を編み出すことによって文明の進化を加速させてきました。偉大な魔法の一つは、会社という概念を資本主義のディメンションにおいて「実体化」させることに成功したことではないでしょうか。株式会社という概念を実体化させることにより、そのディメンションにおいて会社を「所有」するということが可能になりました。バーチャル社会における「所有」をベースとしたアーキテクチャは様々な金融テクノロジーを生み出し産業の成長を一気に加速させました。

私達スタートアップ企業は、「所有」することができることになった企業の将来価値を「流動化」させ現在の価値を高めるために利用する「エクイティファイナンス」の魔法を利用しています。

XR・Web3によるバーチャル世界の進化

上記で説明したとおり、我々人類が今現在暮らしている世界は既にバーチャル世界であると言えるのではないかと考えています。

また、我々が暮らしている現実世界は物理世界にとどまらず、SNSやゲーム、VR上でのコミュニケーションサービスなど新たな現実として受け入れ生活を行っています。

我々が生きている世界はバーチャルであり、バーチャルな世界はまた我々の現実である。

さて、XR・ブロックチェーンのテクノロジーは、このバーチャル世界をどのように進化させていくのでしょうか。

XR魔法による実体化

XR魔法は体験を作り出す実体化魔法だ。VRヘッドセットやMRグラスは情報化された現実空間(VR空間)や物理的現実空間にコンテンツを表示させることを可能にしました。表示された情報は視覚を通して利用者の脳内でコンテンツが実体化され「体験」に変わります。体験は、行動・意識・肉体などの変容を促します。

実体化 -> 体験 -> 行動変容
実体化 -> 体験 -> 意識変容
実体化 -> 体験 -> 肉体変容

ブロックチェーン魔法による実体化

ブロックチェーンは構造変化を促す実体化魔法だ。国家の定める法律が株式会社を実体化させ所有と概念を生み出したように、ブロックチェーンはデジタルアセットやDAO(分散型自律組織)など今まで所有することができなかったものをあるディメンションにおいて実体化させ「所有」という概念を実現させました。

実体化 -> 所有 -> 流動化 
あるディメンションで実体化されるということは所有という概念を実現し、所有は資産の流動化を実現し、それを利用したファイナンスのテクノロジーが生まれる。

XRとWeb3のメタバースはそれぞれ違ったディメンションに存在する世界創造のムーブメントであると考えています。ディメンションが違う世界を、自分自身の存在するディメンションから観測した場合、その本質が見えないことがあり勿体ない。偶然にも同時期に現れた二つの世界創造のためのテクノロジーをそれぞれの本質をしっかり見極め新たな世界を創造するために使っていきたい。

XR住人の暗号通貨/ブロックチェーンに関する誤解

Wikipediaのメタバースのページには下記のような記載があります。

暗号通貨は通貨としてメタバース内での決済に使われることが全くないとは言い切れない程度のものに過ぎない、メタバースとは直接的には関連のない別個の概念である。

新たな体験を作り出すXRの視点から暗号通貨を購買体験の中で利用する決済手段として捉えるのではなく、世界の構造を変えるためのテクノロジーとして理解すべきだと思っています。

ブロックチェーン住人のVRメタバースに関する誤解

VRメタバースって、昔からあったセカンドライフやオープンワールドゲームと同じではないの?

構造的な変化を促す観点からではなく、体験の観点から見るとVRで実現されているメタバースはそれとは大きくことなります。

自身のディメンションにおいて双方のテクノロジーを理解するのではなく、別のディメンションに存在するテクノロジー・魔法であることを前提に考えると新しい発想が生まれてくるのではないかと思っています。

インターオペラビリティ

インターオペラビリティもXRとWeb3の両方の文脈でよく語られる。

XR・メタバースの文脈では、異なるバーチャルメタバースサービスにおいて、同一のアバターやアイテムを利用できるようになる。

Web3においては、複数のブロックチェーン間でのデータやトランザクションのやり取りを可能になり、デジタル資産や暗号資産を異なるブロックチェーンを跨いで移転や価値の交換ができるようになる。

一見どちらも市場の成長のために有用なように思えるが、本当にそうなのか疑問に思ったので考えてみた。

例えばアバターは、各バーチャルメタバースサービスの世界観や文化圏を構築する上で非常に重要な役割を果たしていると思います。

それぞれのメタバースサービスにはそれぞれの世界観や文化が存在し、だからこそ複数のメタバースサービスが存在する意味があるわけで、そこに集う人がそれぞれのサービスをまたいで同種の人たちで同様の世界観を構築するなら1つの同じサービスでいいのではと思った次第だ。

ちなみにSTYLYでは、表現の場としてのVRを考えたとき、できるだけ現実のパラダイムをVR空間に持ち込みたくないという思想のもと通常利用においてアバターを用いた三人称視点を採用していない。アバターを持ち込むにはアバターが歩く床や重力が必要になり、それが表現の発想の幅を狭めることになるのではないかと考えたからである。また、複数人が同時にVR体験を行えるセッション機能においても裏オプションを用いない限り紐状のアバター(通称カルロスくん)しか利用できない。これは、作品としての空間をできるだけ邪魔したくないという発想に基づいている。

実物の人間に近いリアルなアバターをベースに世界観を構築しているサービスもあれば、アート鑑賞用に自分自身も作品の一つになるようなアバターとしてその世界に入るこむようなサービスもある。単にアバターやアイテムを相互利用できれば便利になるかというとそういうものでもないかもしれない。

ブロックチェーンのインターオペラビリティとは、複数のブロックチェーン間でのデータやトランザクションのやり取りを可能にすることを指す。

インターオペラビリティを実現することで、異なるブロックチェーン間でのアセットや情報のやり取りが可能になり、さまざまなブロックチェーン間でのサービスの提供やビジネスのやり取りが容易になります。

デジタル資産や暗号資産を異なるブロックチェーンを跨いで移転や価値の交換ができるようになるわけですが、もしかそたらそれが必要のない未来がやってくる可能性があるのではないかと思っている。

私たちは今、ビジネスでの活動はもちろんのこと、研究やスポーツ、アートや宗教的活動においても、生み出す価値の一部(または大部分)を金銭的な価値に変換する必要がある。生活するために広く流通している法定通貨が必要だからであるが、今後社会システムの進化でベーシックインカムのような仕組みで生きていくのに必要なお金が必要なくなることも近い将来起こり得ると思っている。

そうなれば、それぞれの活動において純粋にそれらの価値を追い求めることができる世界が実現されるかもしれないと思っている。目的に純粋な並行世界がたくさん生まれるようになる。そうなった世界では、それぞれの世界での価値を他の世界の価値に変換する必要はないのかもしれない。

私は仕事柄、ビジネス、エンジニアリング、研究、アートなど異なる様々な分野の方々とお会いすることがあります。成功している人していない人、能力のある人ない人、輝いている人澱んでいる人、様々な人にお会いします。そこで思うのはこれら3つの事項はあんまり関連がないんだなということでした。

バカだけど輝いている人間もいれば、優秀だけど失敗している人もいる。成功しているけどなんだか辛そうな人生を送っている人もいる。

今後テクノロジーが進化していくと、AIが実現できることに比べたらそれぞれの人間の能力なんて大した差ではないんだろうなと思うし、必要な能力はテクノロジーに頼ればいいと思う。価値観の違う並行世界がたくさん生まれればそれだけ成功の尺度も生まれるわけで、他の並行世界の他人の成功なんてほんとどうでも良くなってくるはず。自分自身が大事にしている価値観に純粋に、そして自分自身が輝けるよう生きることを楽しむのが一番なんだと思う。

私はXRもAIもなかった世界に生まれました。広大な宇宙の中で何十億年と長い時間をかけて進化した人類の一人であることは奇跡的なことだと思っています。XRやAIがでてきた現在においてもこの世界や人間は特別な存在だと思っているし、根拠のない希望を持っている。これから生まれてくる子供たちが物心ついた頃には物理的に存在するより大きな世界が存在し、人間がどうやっても勝てないほどの知性を持ったAIが存在しているはず。次の世代の子供たちがどのようにその状況を受け入れるのか私は想像もつかないし、そのときになっても古い世代の私は彼らがどう感じているのかを理解することもできないのだと思う。ただ、人類の過渡期においてその変革に立ち会っている人間として、そしてスタートアップ企業として事業を通して輝く未来に貢献していきたいと思います。


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